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JRIレビュー Vol.2,No.105

わが国少子化の行方と対策 -急速に進む出生意欲の低下と対策の方向性-

2023年01月23日 藤波匠


2015年に約100万人であったわが国の出生数(日本人)は、その後、年率▲3.5%のペースで急減し、 2021年には81万人まで減少した。

出生数減少の要因を、人口、婚姻率、有配偶出生率に分解すると、2016年以降に出生数減少の加速をもたらしたのは、有配偶出生率の低下である。有配偶出生率は、2015年までは出生数の押し上げ要因であったが、その後は押し下げ要因となっている。

国立社会保障・人口問題研究所の出生動向基本調査によれば、若い世代の結婚・出産に向けた意欲(出生意欲)の低下は明らかである。2021年の調査結果では、結婚意思のある未婚男女の希望子ども数が、2015年の前回調査から大きく低下した。とりわけ女性の出生意欲の低下は明らかで、希望子ども数は男性を下回る1.79人となった。

足元で進む若い世代の出生意欲の低下の一因に、経済・雇用環境の悪化がある。理想子ども数まで子どもをつくらない夫婦(妻の年齢が30~34歳の夫婦)の8割が、「子育てや教育に金がかかりすぎる」としている。

大卒の男性正規職員の実質年収をみると、1960年代に生まれた世代に比べて、1970年代に生まれた団塊ジュニア世代が属する40歳代後半の平均年収は150万円程度少なく、それ以降の世代でもほとんど回復がみられない。女性では、非正規で働く女性未婚者の36%が、自ら子どもを産む人生をイメージできないとしている。

近年、出生率が低下する国が目立つ欧州の中で、ドイツは2012~2016年に出生率・出生数が顕著に上昇した。これは、2000年代後半から保育サービスの充実や家族政策の見直し等、積極的な少子化対策が功を奏した面がある。こうした政策面以外にも、良好な経済・雇用環境によって若い世代の暮らしぶりが安定し、EU内外から移民が増え、さらには、1960年代のベビーブーマーの子ども世代が出産期を迎えたことにより年齢構成が若返ったことなども、出生率改善の一因であった。

欧州の状況からうかがえるわが国の少子化対策へのインプリケーションは、①少子化対策は総合政策との認識、②持続性ある政策、③若い世代の経済・雇用の改善、④家族向けの社会支出の増額と財源の議論、などが重要であるということである。賃上げや雇用の正規化などによって若い世代の暮らしをあらゆる側面からサポートし、絶えず「よりよい未来を提示」することが不可欠となる。

わが国では、毎年安定して120万人の出生数があった1990年代生まれの世代が出産期に当たる今後10年間が、少子化にブレーキをかけるラストチャンスである。2030年頃までの期間に、総力戦で少子化対策に取り組むことが必要である。


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