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インタビュー記事:「両立不安を解消し、自分らしいキャリアを」
- わたしのためのキャリア研究シリーズ -

2023年01月13日 橋爪麻紀子小島明子


  インタビュー:
  堀江 敦子さん(スリール株式会社 代表取締役)

(聞き手:創発戦略センター 橋爪麻紀子・小島明子)


*本インタビューは、『「わたし」のための金融リテラシー(金融財政事情研究会)』に
   掲載された内容を転載したものです。(2020年5月時点)


そもそもなぜ今、金融経済教育が必要なのでしょうか。それ自体はもちろん最終目的ではありません。金融や経済へのリテラシーは女性が自分らしいキャリアを築き、心豊かなライフスタイルを楽しむための、一つのツールにすぎません。結婚・妊娠・出産・育児といったライフイベントによって女性のキャリアには大きな影響を受けます。キャリアを変えなければならないケースも多くあるでしょう。そのような時、金融や経済の知識を持っていることで、「お金」にまつわる不安を軽減し、「キャリア」に対する前向きで幅広い選択肢を持つことができるのではないでしょうか。本インタビューは、女性が抱える仕事と子育てへの「両立」に対する不安を解消し、女性だけではなく、誰もが働きやすい環境づくり、人材育成事業をすすめるスリール株式会社の代表である堀江敦子さんにお話をお伺い致しました。



Q. 女性活躍支援に関する人材育成・研修事業を行う企業は徐々に増えているのではないかと思いますが、スリールさんの事業の特色を教えていただけますか。
(堀江さん、以下敬称略)3つほどあります。
一つ目は、女性活躍と言っても単純に管理職になることを目的にしているわけではないことです。自分で描いたキャリアを自律的に進めていくことを重視していることです。
二つ目は、他者理解を重視していることです。社会のなかでうまく生きていくにはコミュニケーション能力が重要です。例えば、なぜ上司はこのように考えるのだろうといったような相手の立場に立って考えることなどです。
三つ目は、ワークショップを中心に、講義形式よりも体感することを重視している研修プログラムであることです。例えば、上司と部下の役を逆にしてコミュニケーションを取ると自分が違う立場のときにこんな風な思いがあるなど体感できるので、相手にどう伝えればよいかがわかりますよね。



Q.「両立不安白書」という独自の調査報告書を公表されていらっしゃいます。「両立不安」ということばを造られた思いや、本調査を実施した背景、報告書における堀江さんの気づきのポイント(特にここが言いたい)を教えてください。
(堀江)調査の背景ですが、起業前の学生時代から、仕事と子育ての両立に不安を抱えている方が多いことに疑問をもっていたことにあります。実際に不安の原因や解決策をどんなに説明し研修をしても、何故かそれは解消されない。特に男性にはその不安の構造がそもそも伝わらないのです。その結果、女性が仕事と子育ての両立にチャレンジする前からキャリアを諦めてしまったり、諦めたためにパートナーとの仲が悪化したり、一人で悩みを抱えたり、産後うつになったり、ということが起きています。ですが、本来、両立には様々な選択肢や、様々な支援が得られるのです。それが分かれば、(不安が解消され)もっと前向きな方向に進めると感じています。こうした「両立不安」という課題の根本的な原因を打破するため、調査を実施し報告書としてまとめました。
(*調査結果の一部によれば、出産経験のない92.7%の働く女性が「両立不安」を抱えている。)
 調査を公表した効果も感じています。数値化したことで、少しずつ国が動き出したと感じています。内閣府の男女共同参画施策を検討する委員をやっていますが、昨年からは「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見、ここでは、男女の役割分担への固定観念を指す)」に気付くためのライフプランニングのためのプログラム開発の議論がされています。スリールでは大学と共同で、学生がアンコンシャス・バイアスに気付くための体験型のモデル事業の実証をしています。こうしたことができたのも調査で92.7%が不安を抱えている、と数値化できたことが背景にあるのかもしれません。



Q.スリールさんのワーク&ライフインターン事業では、大学生が「働くこと」、「家庭を築くこと」「子育て」を学び、実際に子育て世帯でのインターン機会を提供されていますね。よろしければ、インターン学生の事例などをご紹介ください。
(堀江)インターンに参加した学生は、そのきっかけは皆さん様々ですが、キャリア教育の一環で本事業を知るようです。参加する目的もさまざまで単純に子育てや働くイメージを知りたいという女性もいれば、「自分を変えたい」という学生も多いです。



Q.「自分を変えたい」というは具体的にどんな状況なのでしょうか。
(堀江)仲間内で事業を立ち上げたり、世の中で話題になるような学生は、上位数%に過ぎません。大半はあまり深く考えず大学に入って、サークルにはいって、家とバイトと学校の往復で何をやりたいかわからず、行動に移せないという子のほうが多いのです。そういう子たちが、友人からの紹介でインターンに参加することになったのは、その友人が自分の意見が言える、行動に移せる、というところを見て、「自分もそうなりたい」という思いが強いように思います。インターン中の学生が活動できるきっかけに、見守られている、失敗しても大丈夫だという感覚があると聞きました。そういう意味では、学生さんも将来に沢山の不安を抱えているのです。インターン先のご家庭や子どもとのかかわりを通じて、他者理解が進むだけでなく、自分の親との関係性を見つめなおしたり、自分自身の理解を行うことにつながったりと、人間関係を再構築するという効果もあるように思います。



Q.不安の解消という意味では、本著の一つの目的は、読者層の「お金」に対する不安を軽減することでもあります。これまでたくさんの女子学生から働く母親に接されてきた堀江さんから、「お金」に関することで女性が知っておくとよいことは何かありますか?
(堀江)はい。二つあります。一つ目は、お金を稼ぐことは悪いことではないということと。二つ目は、自分が働いてお金を得ることは自分の周囲を助けることになるということです。例えば、夫が仕事を辞めて学びなおしたいという夢を、妻が専業主婦だと夫を応援しづらいですよね。でもそこが共働きだと、今は私が働く番だ、と応援することができます。もちろんその逆もあり得るでしょう。そこで夫婦が対等な関係性になれるでしょう。自分が仕事を頑張ることで周囲、夫や子供がやりたいことを応援できるのはすごくエネルギーになりますよね。お金を稼ぐことに関する知識や、経営、マネジメントすることについて、なぜか日本ではマイナスのイメージをもたれてしまうことがありますが、長期的に見ればお金を稼ぐことはパートナーを幸せにできる力があるのです。



Q.若くして起業されておられますね。ご自身が結婚・妊娠・出産・育児に直面する前から「働く女性を支援したい」という思いを持たれたのはなぜでしょうか。
(堀江)私自身、母は専業主婦でしたが、自分は仕事も子育てもやりたいので、母と同じようにやるのは無理だと思っていました。また、中学時代から、児童養護施設などでボランティアをしていましたが、虐待の問題や、親育ての教育の不足といった様々な社会課題に触れ、女性だけではなくて「すべての人が自立できる社会を作りたい」と感じていたことが今につながっています。今の日本は、高齢者や障がい者にとっては生きづらいですよね。それは健常者の視点しかないからです。普通に生きていて遭遇するライフイベントによって急に自分らしく生きられなくなるということに憤りを感じていました。男女多くが関わる子育てもその一つです。それに対する理解不足や不安、固定観念のために、キャリアを諦めたり、または子どもを諦めたりする人があまりに多い。そしてそのことが解決されないまま放置されていることを非常にもったいないと思っていました。介護に関してもより変数は多いものの、同様に考えられます。まずは仕事と子育ての両立ができれば、仕事と介護の両立ができるはずです。私は、ロールモデル、選択肢、相談相手、があればいずれも乗り越えていけると思っています。



Q.2010年に起業されてから現在に至るまで約10年経ちましたが、女性が社会に出て働くことに関し、変わったと思うもの、変わらないと思うものはなんでしょうか。
(堀江)変わった、と思うのは、学生さんが本音をいわなくなってきたということでしょうか。SNSの影響もあるせいか、誰かに見られているという感覚から、良いことしかいってはいけない、と評価を気にしすぎる子が増えてきた、と思います。自分で自分にレッテルを張ってしまい、こうあらねばならぬという思いから、外に助けをもとめられなくなってきたのではないでしょうか。教育のなかで、安心、安全という意識がなくてはなかなか心を開くのに時間がかかってしまいます。SNSにのまれてしまう子もいます。必要以上に友達とつながっているように感じ、今やっていることに集中できず、誰かがやっているからやっていることが多く、本当に自分がやりたいことがわからず、自分迷子になってしまうのです。

変わっていない、と思うのは企業側の研修や評価制度でしょうか。そもそも10年前にはライフキャリア教育も働き方改革もなかったので、そうした意識も環境もありませんでした。働き方については、コロナ禍の後には変わってくるとは思いますが、まだまだ出社しなければいけないとか、長く働くことが大事だという感覚は残っています。プライベートと仕事が分断されているのでプライベートが仕事をマイナスにすると考えている人が多いですよね。人事評価制度もそこに沿っていて、例えば、女性が1年育休で休むと男女の差が出ます。働き方と評価制度がすべて紐づいてしまっているのです。本来であれば男女ともに前倒しにキャリア育成、つまりライフイベントが起こる前に研修ができているべきです。ライフイベントがある上での社員研修になっていないので、評価制度も変わっていないのです。まだまだ、大手の企業の中で、女性社員が多い企業、取締役に女性がバランスよく入っている会社は少ないですよね。いても社外取締役が執行役員で止まってしまうことが多く、経営の重要なボードのなかに女性が入っていないのは変わっていないところかと感じます。



Q.最後に、本著の読者にむけてメッセージを頂けますか?
(堀江)はい。「軸をもって流される」という言葉をお贈りしたいと思います。単純に物事に流されるだけだと(自分がわからなくなって)漂流してしまいますね。一方、目標に縛られすぎると堅苦しくなってしまいます。お伝えしたいのは、今すぐではなくても3年後、5年後に自分はこうなりたいんだ、というなりたい姿をもって発信していると、色々な人が情報やチャンスをくれたりします。そういう時は導かれるように流されたら良いと思うのです。そして、いやだなと思ったらやめればよい。そうすると、いつの間にか気づいたら自分のやりたい方向性に向かっていきます。変化の激しいこういう時代のなか、自分の意思を持ち続けるのはとても難しいですが、だれかと少し話をしていくだけでも良いと思うのです。そして、軸が少し変わってもいいから発信し続けるということを諦めないでほしい。そうすると、何かしら前向きな一歩が必ず見つかると思います。まずは、溢れる情報をシャットアウトして、だれかと話してみることが大事です。なかなか本当の自分を他者に見せるのは難しいですが、話ができる人をどれだけ作るかがとても大事です。若いうちにそういう仲間は沢山つくっておくとよいです。そして、自分迷子になっても、いつでも原点回帰できる場所を作っておきましょう。



堀江さん、ありがとうございました。本著の中で読者の皆さんにお伝えしたいことが、ぎゅっと凝縮されたインタビューになりました!

プロフィール:堀江敦子(ほりえ・あつこ)
スリール株式会社 代表取締役。学生時代から200名以上のベビーシッターを経験し、仕事と子育ての現実に触れる。25歳で学生のキャリア教育と子育て支援を行うスリールを起業。内閣府、厚生労働省、自治体等での委員を兼任。
(*)両立支援白書 URL:https://sourire-heart.com/ryoritsufuan/
(*)ワーク& ライフ・インターン URL: https://sourire-heart.com/intern/


 関連書籍:「わたし」のための金融リテラシー
 出版社:きんざい
 発売日:2020年11月2日
 編・著者名:小島 明子/橋爪 麻紀子 他
 https://store.kinzai.jp/public/item/book/B/13563/

 不確実な時代に
    女性がキャリア&ライフプランを考えるための教科書



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「両立不安を解消し、自分らしいキャリアを」ーわたしのためのキャリア研究シリーズー


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※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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