コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

オピニオン

企業のDX推進組織は、何を、どこから始めるべきか

2023年01月11日 谷口卓也


はじめに
 ここ数年で、企業規模や業界を問わず、DXに着手しようとしている企業が増えてきている。ただし、どこから、どのようにDXの検討を始めていけば良いか、頭を悩ませている企業も多い。また、DXに着手はしているが、現状の進め方は正しいのか、迷っている企業も多い。本稿では、DX推進に向けた基本的な始め方を解説する。以下の図表1のように基本的なプロセスと体制の全体像を捉え、ポイントを押さえて進めていくことが重要である。



自社のDXレベルを診断
 DXにあまり興味・関心を持っておらず、危機感を抱いていない企業の場合は、自社がどれだけ世の中から遅れているかを経営層に分かってもらうことである。一般に公開されているDXの自己診断ツールなどを活用し、「経営の仕組み面・事業面・技術面・人材/組織面など」を俯瞰的に評価する程度であれば、スピード感を持って対応できる。自己評価結果を役員会議や勉強会の場で議題に挙げ、情報共有することから会話を始めて、取り組むこと自体に賛同を得ることが必要である。
 当初の体制は、変革に熱意のある人材を集めた少数精鋭のチームが望ましい。自社のコアな事業部のメンバーを主体にして、経営企画部門、IT部門を巻き込んで進めることが多い。他に、人事部門や広報部門を巻き込んでいる企業もある。人事部門は後の人選、広報部門は社内外へのPRなどの役割を担うので、初期段階からメンバーに入ってもらうとスムーズに進められる。

自社が目指すDXイメージ図を作成
 よく見るのが、DX推進組織が現場にヒアリングを行い、現状の問題点をあぶり出すことから始めているシーンである。このような進め方も間違いではないと考えるが、現状の問題点の改善に焦点が当たってしまい、”社内の業務改善レベル“から抜けられないことが多い。
 理想的には、まず、デジタル技術を活用して最終的に何を実現するのかを具体的なイメージ図に落とし込むところから始めると良い。DX推進において一定の成果をあげている企業は、最終的な実現イメージの見せ方がうまく、社内外から賛同も得られている。見せ方がうまい企業は、以下の図表2のようなポイントを押さえている。



 上記のようなポイントを盛り込んだ実現イメージ図を作成し、自社におけるDXの取り組みの目的とゴールを明確にすることが重要である。ここで経営層と目指すべき方向性に問題がないか、を合意形成しておくこともポイントである。

ロードマップ策定
 自社が目指すDXの実現イメージが具体化でき、経営層とも合意できたら、それをいつまでに達成するのか、そのために何をするのかなどを明確にすることが必要となる。
 ロードマップは、自社が目指すDXの実現イメージを起点(例えば5年後、10年後など)に、中長期の経営計画と連動させて、バックキャストで考えることがポイントである。一足飛びには実現できないので、DX1.0→DX2.0→DX3.0などのステップに分けて、それぞれのステップでどのような状態になっているかを明確にしておくと良い。定性的な状態だけではなく、中計で設定しているKGIやKPIなどの定量的な指標と連動させておくと説得力が増す。このロードマップやステップは、市場ニーズやデジタル技術の変化に応じて、適宜、最適な状態に見直していくことが望ましい。
 社内の少数精鋭のDX推進チームが中心となり、ロードマップを策定すると同時に社内に内容を浸透させる方策も検討する必要がある。経営層と共有し、対話を繰り返して合意形成を図った後、広報部門と連携し、トップダウンで社内広報を繰り返し行い、DXの取り組み意義を浸透させることが効果的である。経営陣の旗振りなしにも関わらず、変革に成功した企業はあまり例がないので、地道だが必要な取り組みである。

施策の具体化
 ロードマップが合意できたところで、経営層から各事業部の現場責任者をアサインしてもらい、現場を巻き込んで、ロードマップを実現するための施策の具体化を進めていくと良い。この段階から、少数精鋭のDX推進チームからDX推進室やDX推進部に格上げし、事業部から人員を異動させ、DX専任の体制を構築することが望ましい。ただし、人手不足などにより専任でDXを推進することが難しい場合もある。兼務の場合、参画意識が薄くならないように、人事評価とひも付けて役割を与えることが必要である。
 事業部の力が強い企業文化・風土の場合、施策の検討主体は事業部側となり、DX推進チームの体制を大きく変えず、進捗管理・課題管理などの全体をコントロールのみを行う役割とする場合もある。ただし、事業部を超えて、横串で連携する施策(顧客接点情報の全社的な活用など)は、DX推進チームが主体的に検討する役割を持つと良い。
 DX実現のための施策の具体化を行う現場体制まで落とし込めると、DX推進は軌道に乗って進むと考える。

最後に
 DX推進の役割を持つ組織は、少なくとも月次で経営層と対話しながら、自社のDX実現イメージとロードマップを合意すること、自社の文化・風土に合った施策の検討体制に落とし込むことを重点的に取り組むことが重要である。
 本稿で説明した考え方で進めたとしても、具体的な経営効果を実績で示さないと経営層がDX全体の推進にGOを出さない場合がある。その場合、ロードマップに短期的なマイルストーンを埋め込み、トライアルの位置付けで小さな成功事例を作って実績をアピールしていくことが効果的である。ただし、各部で並行してバラバラのトライアルを進めると個別最適になってしまうので、DX推進チームは、全体最適の視点でコントロールしていくことが求められる。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ