RIM 環太平洋ビジネス情報 Vol.22,No.87 インドにおけるデータ共有を活用した新たな融資スキームの登場 ―金融包摂の切り札となるか― 2022年11月11日 岩崎薫里インド政府は、個人データを経済成長と国民の豊かさを実現するためのツールと位置付け、その適切な活用に向けた取り組みを行ってきた。個人データを本人の同意のもと、プライバシーに配慮しつつ安全に第三者と共有していくための方策として打ち出されたのが、「Data Empowerment and Protection Architecture(DEPA)」 である。DEPAは基本設計であり、様々な分野に具体的に運用されていくことが想定されている。DEPAの運用第1号として選定されたのが金融分野であり、インド準備銀行(RBI、インドの中央銀行)が中心となって「Account Aggregator(AA)ネットワーク」が構築され、2021年9月に稼働を開始した。AAネットワークを組み込んだ中小零細企業(MSME)・個人向けの新たなオンライン融資のスキームとして、Open Credit Enablement Network(OCEN)が開発された。 借り手であるMSMEや個人を金融機関と結びつける、無担保融資のオンライン・ネットワークである。借り手は、すでに取引関係のある事業者を通じて金融機関にアクセスし融資を申し込むことから、組込型金融(embedded finance)の一種でもある。OCENの仕様は標準化され、そこに各プレイヤーが参画することで、国全体で重複投資を避けながら相互運用性を確立出来る。金融機関は与信判断においてはクレジットスコアリングモデルを用いることが想定される。OCENの導入によって期待されるのが、金融包摂(financial inclusion)の観点からみたMSME向け融資の拡大である。これまでMSMEは正規の金融サービスにアクセスしづらい状況にあった。その要因は多岐にわたるが、なかでも金融機関側の事情として、与信判断のための情報が不足している、あるいはたとえ情報が存在してもその収集・精査に手間暇がかかり、その割に融資金額が小さくコストに見合わない、などの点が大きい。こうした問題が、OCENによって軽減されることが期待されている。MSMEが主に零細の個人企業である現状を踏まえて、MSMEの取引データおよび事業主の個人データの両方を、OCENを通じて金融機関が容易に取得出来るようになる。これにより、金融機関の与信判断能力の向上と与信判断コストの低下を実現しようとしている。 OCENはいまだ本格稼働に至っていない。今後の留意点としては、①金融機関は与信判断に必要なデータを十分集められるか、②金融機関が精度の高いクレジットスコアリングモデルを構築・維持出来るか、③融資先に優良なMSMEを集められ るか、の三つが指摘出来る。これらがクリアされてはじめて、OCENは狙い通りMSMEの金融包摂につながることになろう。(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます) 関連リンク《RIM》 Vol.22,No.87・中国の若年失業率上昇の深層 ―顕在化する「勤勉さ」を巡るすれ違い―(PDF:1.08MB)・コロナ禍を経てアジアの人口動態の見通しはどう変わったか(PDF:1.29MB)・インドにおけるデータ共有を活用した新たな融資スキームの登場 ―金融包摂の切り札となるか―(PDF:731KB)