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働く女性がライフステージで向き合う健康課題とフェムテックへの期待

2022年11月09日 泰平苑子


 我が国では、人口減少・少子高齢化を前提とした持続可能な経済・社会が求められ、労働力人口の確保手段として、女性・高齢者・外国人の労働参加が期待されている。内閣府の「男女共同参画白書 令和4年版」によると、女性の就業者数も増加傾向である。年齢別でみると、25歳~44歳女性の就業率は、15歳~64歳男性の就業率に年々近づいてきている。しかし、働き盛りの20代後半から40代は、厚生労働省の「働く女性の健康応援サイト」の女性特有の健康問題をみると、女性ホルモン分泌量の増加と減少に伴う性成熟期と更年期に重なり、女性特有のかかりやすい疾患や症状が多くみられる年齢でもある。

図表1.女性就業者数の推移(内閣府、男女共同参画白書令和4年版)


図表2.年齢別の女性就業率の推移(内閣府、男女共同参画白書令和4年版)


図表3.女性特有の健康問題(厚労省、働く女性の健康応援サイト)



 日本総合研究所が全国の1980年~1995年生まれの女性を対象に実施した、働く女性の健康調査に関するWeb調査結果(回答数1,148名)によをみると、半数を超える51.9%が女性特有の健康課題を抱えている。抱えている健康課題についてみると、月経前症候群(PMS)を健康課題とする回答者が全体の28.3%で最も多く、月経自体の負担だけでなく、その前の症状にも課題を感じていることが分かる。2番目に多い貧血(全体の15.5%)は、子宮内膜症や子宮筋腫など他の婦人科系疾患との関連も考えられるため、症状が改善しない場合は、婦人科の受診を勧めることが望ましい健康課題である 。このように、生産人口年齢の女性の半数以上が何らかの健康課題を抱えており、そのもたらす影響もふまえると、女性特有の健康課題に関する支援が必要な状況があると考えられる。

図表4.働く女性の抱える女性特有の健康課題[複数選択](日本総研Web調査)



 政府は2022年度の「経済財政運営と改革の基本方針」にて「女性の健康に関する支援」「フェムテックの更なる推進」を明記した。フェムテックとは、女性の健康課題をテクノロジーで解決へと導く製品やサービスのことである。「成育医療等の提供に関する施策の総合的な推進に関する基本的な方針」では、プレコンセプションケア(将来の妊娠のための健康管理に関する情報提供の推進)の体制整備を図る旨を掲げ、女性の健康への取り組みを進めている。また、2013年度の日本再興戦略が口火となり、経済産業省を中心に、従業員等の健康保持・増進の取り組みが将来的に収益性等を高める投資である、との考えのもと、健康管理を経営的視点から考え健康投資を戦略的に実践する「健康経営」の促進など、広く国民の健康に関する政策が実行されてきた。

 健康関連を事業とするヘルスケア産業(公的保険外サービスの産業群)の市場規模について、経済産業省の令和4年度「健康経営の推進について」によると、2025年には約33兆円になると推計されている。推計には、新たに産業化が見込まれる商品やサービス等(例えば健康志向住居や健康関連アドバイスサービス)は含まれていないことから、これらを含めた市場規模は実際にはさらに大きくなるものと考えられる。企業が働く女性に対してライフステージで向き合う健康課題を解決し、健康保持・増進を目指すことは、心理的安全性やエンゲージメントの向上をもたらし、業績面でも従業員のエンゲージメントの向上、ひいては 労働生産性向上や 企業価値向上につながると考えられる。
 働く女性の健康課題に向き合う健康経営の実践には、婦人科系疾患の早期発見を目指すことが重要である。そのためには、健康診断の血液検査(婦人科系疾患で高値を示す検査項目)や婦人科系検査(内診)を促進し、健康診断の結果で要検査の方を婦人科受診につなげることが求められる。また、月経に関する障害が、婦人科系疾患の多くを占めるにも関わらず、月経に関する情報は十分に蓄積・研究されていない。月経に関する情報収集の仕組みを構築し、研究開発に貢献することも必要だろう。また、企業の取り組みも重要である。定期健診やストレスチェックの実施はもちろん、ヘルスリテラシー向上のための研修、専門知識をもった産業医や保健師等との連携などにより、従業員の健康維持と健康課題の把握に努めることが重要だ。

 現在、日本のフェムテックは黎明期であり、2021年の我が国のフェムテックの市場規模は74億円(株式会社矢野経済研究所調べ)と言われる。経済的な理由等から生理用品を入手できない「生理の貧困」といった話題も目にするようになるなど 、月経(生理)に関する情報発信がタブー視されなくなり、テレビやラジオ、雑誌などのメディアでも性差を越えて話し合う番組を見た方もいるだろう。今年10月にはフェムテックの展示会も大々的に開催され、多くの事業者が商品やサービスを展示していた。現状の日本の取組を見ると、女性の月経や健康課題に対するソリューションは生理用品の多様化などフェムケア商品が中心であり、テクノロジーでQoLの維持、課題解決を目指す取り組みは、「ルナルナ」など生理情報の蓄積を用いた生理周期のサービスなどに限られている 。一方、海外では、「スマートタンポン」で生殖能力とQoLに影響を与える可能性のある疾患の早期兆候を発見するNextGen Janeが資金調達を成功させているなど、テクノロジーを活用した取り組みも見られる。

 フェムテックはセンシティブな女性の心身に関わる領域であり、ユーザー視点の商品開発がとても重要である。事業者は女性の心身について学び、悩みを知り、少しでも生活しやすく、働きやすくするためには、自社商品がどのように貢献するのか真摯に考える必要がある。我が国でも、多くの取り組みが始まることが期待される。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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