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各社の独自施策で、育児支援に柔軟な対応を

2022年11月08日 清水久美子


 2022年6月の厚生労働省の速報によると2022年上半期の出生数は38万4942人であり、2022年の出生数は80万人を割ることがほぼ確実となりました。政府の予測では80万人割れは2033年と予測されていましたが、10年前倒しで進行していることになります。出生数減少の要因として、女性(母親)数の減少による影響に加え、出生意欲の低下による影響が増加傾向にあるともされています(注1)。近年では新型コロナウィルス等による雇用不安の影響も考えられ、企業にも一層の、子育て世代向けの支援が期待されています。
 2021年には、男性の育休取得向上を大きな軸として育児・介護休業法の改正が成立し、2022年4月1日から2023年4月1日にかけて、3段階で施行されることとなりました。2022年10月1日からは、男性の育児休業取得促進のため。子の出生直後の時期に柔軟な育児休業が取得できる枠組み、いわゆる『産後パパ育休』の創設、育児休業の分割取得が始まりました。また、2023年4月1日には、常時雇用する労働者数1000人超の事業主に対し、育児休業の取得状況の公表が義務付けられるようになります。
 今回の改正では、男性が出産・育児を目的とした休暇・休業を利用しなかった理由としてあがってきた、「会社に制度がない」ことへの対応に加えて、「取りづらい雰囲気」を解消するための具体策が盛り込まれています。例えば、「産後パパ育休」は、出生後8週以内に分割して2回の育休を取得できるものですが、労使協定を締結している場合に限り、労働者が合意した範囲で休業中にも就業することが可能となっています。またこうした制度の改正を受けて、民間の保険会社が代替人材の採用費用や復帰後のテレワーク環境の整備に利用可能な特約等を新設するなど、様々な取り組みが現れてきています。
 その一方で、本改正によるインパクトを明らかにしたいと考え、産業別に0歳の子供の親がどれぐらいいるかを筆者が簡便的に算出したところ(注2)、推計の対象とした産業全てで就業者全体の3%を下回る結果となりました。実際は年齢構成や制度の対象者の割合等によってバラつきがあることが推測されますが、制度の対象者が少なく、同世代に人手不足感のある中で育児をしやすい環境を浸透・定着させるには、今回創設された枠組みだけでは十分とは言えないでしょう。企業ごとに独自施策を柔軟に運用することで、労働力の確保とライフワークバランスの両立支援が成立しやすくなることも考えられます。男性の育児支援に取り組み、成果を出してきた企業の事例を見ると(注3)、休業や時短勤務の期間や取得方法の多様化、社内コミュニケーションの工夫のほか、テレワークの整備といった全社施策との一体的な取り組み等が行われています。
 今回の法改正は、これまで指摘されてきた現場の課題・ニーズへの対応が一部反映されたものとなりました。2023年4月から公表が義務付けられているのは育児休業の取得率に限られていますが、この先もきめ細かい柔軟な制度の検討を行うためには実態把握や事例共有が不可欠であり、単に数値だけではなく、各社が様々な独自施策を積極的に発信してくれることも期待したいと思います。

産業別 就業者1000人当たりの0歳の子供の親(2020年)
産業別 就業者1000人当たりの0歳の子供の親(2020年


(注1)藤波匠、「明らかとなった結婚・出産意欲の低下 ~第16回出生動向基本調査を読む~」、2022年
(注2)令和2年国勢調査 就業状態等基本集計、人口等基本集計を基に筆者作成。
最年少の子供の年齢が0歳の夫婦のいる一般世帯数の値を、0歳の子供の父親の数・母親の数と見なして出現率を求め、産業別の就業者に乗じて算出した(男女、年齢5歳階級別)。
(注3)厚生労働省 「男性の育休に取り組む 企業・イクボス取組事例紹介」


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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