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ビューポイント No.2022-010

強まる円安デメリットと対応策―必要なのは光熱費軽減策より賃上げによる経済・財政の正常化―

2022年11月01日 山田久


2022 年に入って急激な円安が進んでいるが、かつては大きかった企業部門での円安のプラス効果が減衰している。その基本的な理由に貿易収支が赤字基調に転じたことを指摘できるが、今回局面で輸出数量が従来になく伸び悩んでいることも見逃せない。従来と異なり、今回は現地通貨建ての値下げ戦略が採られていないことが影響している面はあるものの、懸念されるのは近年世界輸出に占めるわが国のシェアが低下していることである。

円建て輸出価格の引き上げにもかかわらず今回は交易条件が急激に悪化しており、背景には日本が輸入に頼る資源の急激な価格上昇がある。資源高は中期的に持続する公算が大きく、実質賃金の下落を通じた家計消費へのマイナス作用が長期化することが予想される。とくに今回は食料・エネルギーの物価上昇が目立ち、生活必需品の消費シェアの高い低所得層への打撃が大きくなっている。加えて指摘すべきは、円安の企業部門への影響に分野別バラツキがあることから、企業規模別の賃金格差を拡大させることにも警戒が必要である。

現下の円安の背景には、①貿易収支が赤字化していることのほか、②内外金利差の拡大が影響しているが、米国の労働市場の逼迫状況からすれば利上げ局面はまだまだ続くとみられる。この場合、日銀が現行政策姿勢を維持する限り内外金利差の拡大傾向は変わらず、円安が資源高と相まって大幅な貿易赤字基調を持続させる。現状のままでは、「資源高下の円安進行→コストプッシュ・インフレ→実質賃金減少・交易条件悪化→貿易赤字拡大→円安進行」の「悪い円安」の構図が続く。

「悪い円安」の構図を打破するには、①貿易収支の改善、②金利の自然な上昇、が必要になる。それには金融政策の正常化の前提として、財政再建のための負担増に家計が耐え得る状況を作るとともに、海外市場を開拓できる将来産業を育成することで、輸出競争力を強化することが求められる。後者には、海外からも憧れられる「高質な生活」が実感できる商品・サービスが国内で次々に生まれるように、産業構造を高度化する必要がある。そのように考えれば、円安デメリットへの対応策として、光熱費軽減などの弥縫策を繰り返すよりも、王道である経済・財政の正常化こそが目指されるべきであり、それには名目賃金の持続的な引き上げが大きな鍵を握ることになる。


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