コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

オピニオン

すべての道は未来に通ず、私たちと道路の新しい関係性

2022年11月08日 泰平苑子


 ローマ街道とは、旧ローマ帝国の最高財務官であり街道の総監督の名を冠したアッピア街道に始まる、軍事移動目的で敷設された街道は、旧ローマ帝国の支配領域の拡大に合わせてネットワークが広がり、全長8万km、支線も含めると総延長15万㎞にも及んだ。まさに「すべての道はローマに通ず」街道が整備されたのだった。軍隊の迅速な移動のため、河川では橋を架け、山や高台は切通しやトンネルを設け、できるだけ直線で平坦な道にしている。幹線道路は敷石で舗装されており、馬車が行き違えるよう車幅は4mあり、車両の両側には歩兵5名が横並びで行進できる3mの歩道が設けてあるなど、歩車分離もされていた。ローマ街道は、軍隊移動の迅速化だけでなく、駅伝制度(情報を持つ若手役人が移動)や郵便制度(公用文書を運ぶ)など行政の効率化も目的としていた。

 万里の長城や始皇帝陵など巨大構造物で有名な中国最古の統一王朝「秦」も、軍用の「直道」や、皇帝や皇族の行幸用の「馳道」を設けている。ローマ帝国や秦など古代国家に比べるとかなり近世になるが、江戸幕府の2代将軍秀忠の代で定められた五街道(東海道、中山道、日光街道、奥州街道、甲州街道)が我が国の道路整備の代表格としてあげられる。軍事的・政治的に重要な街道は幕府防衛のために欠かせない。そこで、街道を幕府直轄として、鉄砲など武器を江戸に入らない、参勤交代の人質である大名の妻女を脱出させない、いわゆる「入鉄砲出女」の交通政策を行った。街道にある関所を破ることは重罪であり、身元保証の手形の携帯が義務付けられていた。

 古代から近世まで、道路政策は軍事移動の迅速化、行政の効率化、貴人の移動、都市防衛が主目的であったが、そのインフラ整備の恩恵を受けて、人や物資の移動が活発化し、経済や社会も発展してきた。さらに、軍事や行政から経済や社会へ、道路のあり方が大きく変わったのは現代に入ってからだろう。我が国では戦後の復興期を経て、高度経済成長期における都市化の進展、人口の増加、急速なモータリゼーションにより、インフラ整備は喫緊の課題となった。「道路整備五箇年計画(第1次~第11次)」に基づく、大規模な道路整備により、道路通行量は大幅に増加し、輸送や移動にかかる時間も大幅に短縮された。急速な道路整備と合わせて、排気ガスによる公害や騒音、長時間運転や不規則な勤務状況で働く事業用車両の運転者、交通事故の発生件数や死亡者数の増加、行楽シーズンや通勤通学時間帯での長時間に及ぶ渋滞、災害対策や復興対応など、取り組むべき課題も多く生まれた。高度経済成長期を経た我が国は、老朽化した道路インフラの維持管理と並行し、深刻度や緊急度が増す社会課題の解決に重点を置き、取り組みを進めることが余儀なくされた。

 そうした道路政策だが、今年度、新しい方向性も示されている。「道路政策ビジョン『2040年、道路の景色が変わる』」は、ポストコロナの新しい生活様式や社会経済の変革を見据えながら、道路政策の原点は「人々の幸せの実現」であること、デジタル技術をフル活用して道路を「進化」させ課題解決すること、道路のコミュニケーション空間としての機能を「回帰」させることを基本的な考え方として謳っている。「道路の景色が変わる」と題して、通勤・帰宅ラッシュが消滅する、公園のように道路に人が溢れる、人・モノの移動が自動化・無人化される、店舗(サービス)の移動でまちが刻々と変化する、「被災する道路」から「救援する道路」になるなど、5つの将来像を掲げている。このうち、「人・モノの移動が自動化・無人化」に関しては、筆者も自動運転移動サービスと道路管理の包括運営モデルを検討する当社の「RAPOCラボ」で、未来社会での道路と交通のあり方を模索しているところだ。輸送や移動により人やモノが出会い、交流がうまれる道路は、地域コミュニティの大切なインフラである。「人々の幸せの実現」のため、道路の新しい関係性について考えていきたい。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ