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JRIレビュー Vol.8,No.103

米連邦準備制度の金融政策正常化への取り組みーコロナ危機後の高インフレ局面における課題

2022年10月12日 河村小百合


コロナ危機後のインフレ局面への急転換を受け、米連邦準備制度(Fed: The Federal Reserve System)は、2022年春以降、遅まきながら利上げや資産縮減に着手した。本稿ではこのFedに注目して、リーマン・ショック後の局面と比較しつつ、①アメリカの経済・物価・金融情勢への対応、および②Fed自身の財務運営が抱える問題を明らかにすることで、コロナ危機後の中央銀行が直面する課題を浮き彫りにし、わが国への示唆を探る。

現下の高インフレ局面においてFedの対応が後手に回った最大の理由としては、リーマン・ショック後の局面のような経済の低迷長期化ばかりを恐れ、2020年8月に金融政策運営新戦略として「平均物価目標」を採用した点が挙げられる。

リーマン・ショック後の局面の政策運営を振り返れば、Fedは低インフレ・低金利環境のもとで慎重に正常化策の進め方を検討し、Fed自身の財務悪化問題についても議論したうえで、対外的な情報開示も行っていた。資産縮減については2017年10月から実行に移していたが、2019年夏に道半ばでとん挫し、同年9月には短期金融市場金利が急騰する事態にも見舞われた。

コロナ危機後の現局面においては、高インフレに対する政策対応を余儀なくされているため、Fedは2022年3月以降、急ピッチでの利上げを進めているほか、資産縮減も前回対比倍速のペースで実施することとしている。その背景には、高インフレ抑制の必要性のみならず、今回は高金利情勢下での正常化となるため、Fed自身の財務悪化が避けられず、資産縮減によってその悪化幅を可能な限り小さくしようとしていることがあるとみられる。

2022年6月のFOMCにおいては、NY連銀のスタッフから、今回の正常化過程でFed自身の財務運営が赤字に転落するほか、繰延資産を計上せざるを得なくなり、実質的な債務超過状態に陥る、との見通しが示されている。NY連銀はそれに先立ち、5月に公表した定例の『公開市場操作報告書』において、中立的な前提に基づく、Fedの今後の財務運営に関する厳しい試算結果を明らかにしている。

Fedは今回の正常化プロセスにおいて、①インフレ抑制と景気拡大をいかに両立させるか、②将来的な金融政策運営の安定基盤をいかに確立するか、③Fed自身の財務運営悪化をいかに抑えるか、といった重い課題を複数抱えている。

日銀は去る7月20 〜21日の金融政策決定会合でも、超金融緩和状態の維持を決定したが、将来的な正常化局面において日銀が抱える困難さの度合いは他の主要中央銀行との対比で、群を抜いている。

わが国の物価上昇率はすでに目標の2%台を上回っているほか、海外の経済・物価・金融情勢が急展開していることを、今、われわれは直視することが求められている。Fedは①正常化局面における財務悪化の可能性を客観的に情報開示したうえで、②財務悪化の可能性から目を背けることなく、高インフレ抑制のための利上げを果断に実施しているほか、③正常化局面における財務の悪化幅を可能な限り縮小すべく、ハイ・ペースでの資産縮減に取り組んでいる。このFedの姿勢を見習いつつ、日銀は遠からず着手せざるを得なくなるであろう正常化を視野に入れた金融政策運営を組み立て、遅滞なく実行に移していくべきである。
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