コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

日本総研ニュースレター 2022年5月号

70歳定年時代のキャリア・副業支援~増える高学歴シニアの活性化で企業価値向上~

2022年05月01日 小島明子


増加するミドル・シニア人材と低下するモチベーション
 2021年4月に、改正高年齢雇用安定法が施行され、従業員に対する70歳までの雇用確保措置が努力義務となった。一部の大企業では、同法の施行前にミドル・シニア層を対象とした早期退職者の募集を行うなどの「対策」を講じてきた。今後は、そうしたことを行ってこなかった企業も含めた人員の再編、そして社会全体として、雇用の流動化が加速することが予想される。
 さらに、新型コロナウイルス感染症の感染拡大以降は、大企業を中心に、テレワークの浸透やジョブ型雇用への移行を行う企業が増え、働く時間の長さではなく、個人の成果で評価する傾向が一層強くなっている。年功序列型の働き方を行ってきたミドル・シニア人材の活躍推進の在り方が問われている。
 日本総研では、東京圏の大企業に勤める、いわゆる高学歴の中高年男性を対象に、就労意識と生活実態に関する調査を実施した(※)。調査の結果、高学歴中高年男性の約半数が、定年後もできるだけ仕事を長く続けていきたいと考えていることや、自己成長ができる仕事ややりがいのある仕事をしたいと考えていることが明らかとなった。
 また、役職定年でモチベーションが低下した男性が4割近くいた一方、再就職への不安を抱える男性も約半数近くに上ったという結果も得られている。この調査結果からは、意欲が高い男性も多い反面、役職定年等を機に意欲が低下したものの再就職は諦めて現在の職場に仕方なく就業継続を行う男性も少なくないことが推察される。

モチベーション向上のほか企業のSDGs活動への発展も
 若手の活躍を促し、組織の新陳代謝を促したい企業の立場からは、役職定年や定年などの制度をなくすことは難しい。役職定年等を機に発生するモチベーションの低下を抑制し、ミドル・シニア人材の経験やスキルを活かすためには、企業側によるキャリア形成支援が今まで以上に必要となる。本稿では、その中の2つの施策について述べたい。
 1つ目は、ミドル・シニア人材に対するキャリア研修や個別のキャリアコンサルティング支援である。こうした研修や支援は、社員にとって自分のキャリアの見直しやスキルの棚卸しの機会となり、自分が組織の中で提供できる価値を再認識することができる。労働政策研究・研修機構「人生100年時代のキャリア形成と雇用管理の課題に関する調査」(2020年12月)では、こうした支援は年齢を問わず一定の効果があるとしているが、特にミドル・シニア人材にとっては、環境や自身の変化によるモチベーションの低下を抑制することに効果を発揮すると考えられる。
 2つ目は、社外での活躍の場を提供することである。勤務先の退職まではしたくないものの、自分の活動範囲を広げたいと考える人材は、どの会社にも存在する可能性がある。前述した日本総研の調査においても、副業や兼業をしたい男性が半数に上り、副業・兼業の収入以外でのメリットとして、新たな人間関係の構築やスキルの獲得などを挙げていた。
 副業・兼業の業務内容は本業と関連することも多いと考えられ、そこで得られる新たな人間関係やスキルは本業の勤務先でも役立つことが期待できる。そこで、副業・兼業はもちろん、地域活動への参加など、社外での活動の場を広く解禁していくことも重要な施策になる。多様な就労機会の創出のほか、地域における多様な需要に応じた事業を促進することによって持続可能で活力ある地域社会の実現に資することを目的に、2022年10月施行予定の労働者協同組合法によって実現される「協同労働」もその一つである。
 この協同労働は、株式会社とは異なり、一人ひとりが出資をし、組合員となって対等な立場で経営に参画しながら運営を行う働き方である。組合員が個々のスキル等を活かしながら協力し合い、地域の課題解決に向かって働く、というスタイルは、団結しながら働くことを重視されてきたミドル・シニア人材には、なじみやすい働き方となるであろう。そのような場で、ミドル・シニア人材の経験やスキルを地域課題の解決にも活かせれば、企業としてのSDGs活動にもつながるのではないか。

長期的価値向上策の一つ
 能力が高くても高年齢の人材が働き続けられる環境をつくることは、企業側には負担に見える。しかし、活用次第で、企業の長期的な価値向上をもたらす取り組みとして推進するべきである。

(※)東京圏で働く高学歴中高年男性の意識と生活実態に関するアンケート調査結果(報告)


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ