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食料需給ひっ迫リスクを踏まえた国内農業振興の重要性

2022年06月28日 三輪泰史


 主要穀物の一つである小麦の価格高騰が問題となっている。大手製粉企業による小麦粉の値上げに加え、小麦を主な原料とするパスタ、パン等の加工食品の値上げ発表も相次いでいる。その背景にあるのが、輸入小麦の政府売渡価格(政府が製粉会社に売り渡す際の価格)の上昇である。小麦の輸入は政府が一括して行い、その後政府から製粉会社に売り渡すという仕組みになっている。半年ごとに決められる政府売渡価格に関して、3月に発表された令和4年4月期の価格は半年前から約17%の上昇となった。

 小麦価格の高騰は複数の要因が寄与している。まず中長期的なトレンドとして、国際的な小麦需要の高まりが挙げられる。新興国での人口増加と所得向上により需要が継続的に増加しているため、需給が逼迫しやすい構造となっているところに、アメリカやカナダをはじめとする世界各地で発生した天候不順による不作が重なった。さらに、新型コロナウイルスの影響が小麦・小麦製品の流通や加工にも生じており、輸出量の減少や輸出の遅滞を引き起こしている。

 このような状況に加え、直近ではウクライナ問題の影響が重くのしかかっている。ウクライナ及びロシアは世界有数の小麦輸出国であるが、輸出ルートが封鎖されたことによるウクライナからの輸出の遅滞や、ロシアへの経済制裁に伴う取引減少により、世界的に供給不足の状態に陥っている。前述の令和4年4月期の政府売渡価格の算定期間は令和3年9月第2週~令和4年3月第1週であり、ロシアのウクライナ侵攻の影響は算定期間の一部に限定されている。大幅な上昇となった4月期の価格ではあるが、ウクライナ問題の影響が本格的に表れるのは令和4年10月期からとなる点に注意が必要である。国際価格の上昇に、直近の急激な円安も相まって、10月期の価格は大幅に上昇するリスクをはらんでいる。現在の価格高騰はウクライナ問題によるイレギュラーな側面があるため、国としても輸入小麦の政府売渡価格について激変緩和措置を検討している。

 世界的な食料需給の変化を受け、わが国の食料調達戦略は見直しが迫られている。以前は高い購買力をもとに世界から良質な食料を集められたが、状況は大きく変わりつつあり、食料安全保障の観点からも、国内農業の強化が急務となっている。国内農業の振興においては、小麦の輸入価格上昇は日本の農業にとって追い風である、という視点が重要だ。近年、国産小麦の新品種が次々と開発され、国産小麦を使用したパン、麺等が人気商品となっている。品質のばらつきという国産小麦の課題が技術革新によって解消されれば、需要はさらに拡大するだろう。加えて、輸入小麦の価格高騰を受けて値ごろ感が出ているコメへの注目度も高い。このような状況を踏まえ、外食業界、中食業界(弁当、総菜等)の中には、コメに焦点を当てた新商品の開発、販売に注力する企業も出ている。

 新興国の経済発展や気候変動については中長期的なトレンドであり、小麦をはじめとする主要穀物の需給ひっ迫が高い頻度で繰り返す可能性は否定できない。食料安全保障のリスクは机上の空論ではなく目の前に迫ってきており、迅速かつ具体的なアクションが求められている。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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