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未就園児を持つ保護者向けアンケート調査結果
―未就園児を持つ家庭における保育サービス利用ニーズ等について―

2022年06月23日 湯浅夢奈、福田隆士池本美香


1.本調査を実施した背景・目的

 日本ではこれまで、待機児童の解消・女性の就業率向上に向けて保育の受け皿整備に注力しており、「新子育て安心プラン」の中では2021年度から2024年度末までの4年間で約14万人分の保育の受け皿を整備することを目標に掲げています。
 一方で日本の少子化はコロナ禍も相まって加速傾向にあり、2021年4月時点で8割超の市区町村で待機児童は解消されており 、一部の自治体では既に空き定員が発生し利用者確保に苦戦が強いられている状況です。今後保育所の空き定員はさらに増加が見込まれることから、これらを子育て支援の観点からどのように活用していくべきか、喫緊で検討を進める必要があります。
 本調査では、今後増加が見込まれる保育所の空き定員について、未就園児を持つ家庭の子育て支援の受け皿としての活用可能性を検討するため、未就園児を持つ保護者に対するアンケート調査を実施しました。

2.アンケート調査概要

 アンケート調査概要は以下の通り。



3.主な調査結果

(1)未就園児を持つ家庭の過半数が定期的な保育サービスの利用を希望している
 未就園児を持つ家庭において定期保育サービスについて「利用したい」との回答は56%程度であり、過半数の家庭で利用ニーズがあることがわかった。(p.7)
 利用したい場合の希望頻度としては、週1~2日、1回あたり3~5時間が多く、通常の定期保育サービスより低頻度・短期間での利用ニーズであることが伺える。(p.7)

(2)現状未就園児を持つ家庭の子育て支援事業として提供されている自治体などの一時預かりサービスは利用実績が少なく、子育て世帯の支援策として十分機能していない
 自分が預けたいタイミングで預けられる先がほしい家庭が約7割である一方で、自治体などが行っている一時預かりサービスを利用したことがある家庭は1割強であり、既存の一時預かりサービスの枠組みでは希望者に対して十分な支援が行えていないことが伺える。(p.10)

(3)未就園児を持つ家庭の方が親が孤独を感じやすく、また同世代の子どもの遊び相手が必要と感じている
 未就園児を持つ家庭の方が就園児を持つ家庭と比べて「子育ての中で孤独を感じる」と回答した割合が10ポイント程度高かった。また「自分ひとりでほっとできる時間や場所がある」と回答した割合は未就園児を持つ家庭の方が6ポイント程度低く、未就園児の保護者ほど自分の生活に孤独や制約を感じやすいことが伺える。(p.11)
 また「同世代の遊び相手がもっといるとよいと感じる」と回答した割合は未就園児を持つ家庭の方が6ポイント程度高かった。(p.11)

(4)定期保育サービスの利用ニーズは、孤独を感じている家庭、虐待リスクが高い家庭ほど高い
 「子育ての中で孤独を感じる」「子どもに手をあげてしまいそうなことがある」と回答した家庭ほど、そうでない家庭と比べて定期保育サービスを利用したい割合が高かった。(p.9)

(5)定期保育サービスの利用ニーズは、子どもへの愛着度が低い家庭ほど低い
 「子どもがかわいくてたまらない」に対して「あてはまらない」と回答した利用者ほど定期保育サービスを「利用したい」割合が低かった。(p.9)

4.考察

 未就園児を持つ家庭において、子育て支援の一環として低頻度・短期間の定期保育サービスの枠組みを提供することが、利用者ニーズ・既存施設の活用双方の観点から有用ではないか。
 現状の子育て支援策として一時預かり事業があるが、未就園児を持つ家庭が一時預かりを利用する場合、見知らぬ他人にわが子を預けることに不安を感じる保護者も多い。事前に施設を見学して保育者との信頼関係を構築し、利用者登録や利用時の予約、金銭面等のハードルをクリアしてようやく利用に至るが、「そこまでするほどではない」ことから、一時的に子どもを預けたいニーズは高いものの実際の利用に至っていないと思われる。また、一時預かりを受け入れる施設側にとっても、普段接していない子どもを預かることは高い保育スキルを有する保育者を配置する必要があるため実施のハードルが高い上、金銭的補助も十分でないことから積極的な利用促進に踏み切れておらず、結果として十分な役割を果たせていない可能性がある。
 未就園児を持つ家庭の子育て支援の一環として、現状の一時預かりの枠組みだけではなく、低頻度・短時間での「短時間登園」のような定期保育サービスを提供することができれば、施設側・利用者側それぞれの施設利用における課題を軽減することができるのではないか。特に今後全国的に発生が見込まれる保育所の空き定員の活用は喫緊の検討課題であるが、活用方法を検討するにあたっては施設側も受け入れやすい制度設計が必要である。その観点からも、一時預かりと比較して利用者と保育者との信頼関係を構築しやすい定期利用を前提とした制度の検討が有用と考えられる。
 また利用者側の視点としては、低頻度・短時間での定期保育サービスの枠組みを設けることで、施設と継続してつながりを持てるようになり、日頃の何気ない雑談や子育てに関する悩みを相談しやすくなる。実際、アンケート結果でも孤独を感じている保護者や虐待リスクがある保護者ほど利用ニーズは高く、施設と継続的につながれる仕組みが保護者の孤独感の解消、虐待リスクの軽減に大きく寄与するものと考えられる。
 現状の保育認定を受ける際の「保育を必要とする事由」は、仕事や介護等により親自身で子どもを育てる時間が確保できないことを前提とされているが、仮に親自身で子どもを育てる時間が確保できる場合であっても「親の心的負担を軽減するため」「同世代の遊び相手をつくるため」という事由は十分「保育を必要とする事由」に該当するのではないだろうか。保育所の量的な整備はほぼ実現した中で、質の向上に向けて改めて保育所の役割を再定義するとともに、未就園児を持つ家庭も含めた多様な保育ニーズに対応できる環境整備を進めていくことが重要ではないだろうか。

※調査結果(サマリー)については、こちらからダウンロードしてください。
【未就園児を持つ保護者向けアンケート調査結果(サマリー)-未就園児を持つ家庭における保育サービス利用ニーズ等について–】

【本件に関するお問い合わせ】
 リサーチ・コンサルティング部門
 コンサルタント 湯浅夢奈
E-mail:yuasa.yumena@jri.co.jp

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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