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「グリーンインフラ支援制度集」に見る、現行制度の特徴と課題

2022年06月20日 山口尚之


1.グリーンインフラ導入の支援制度を省庁横断的に紹介
 去る2022年4月28日に、「グリーンインフラ支援制度集」が国土交通省・農林水産省・環境省の共同で発表された(※1)。これは、地域におけるグリーンインフラに関する取り組みを支援するために、各省庁が提供する制度のうち、グリーンインフラの導入に関連の深いものをピックアップし紹介したものである。
 グリーンインフラは、自然環境が有する多様な機能を活用し、防災・減災、自然環境保全、地域振興等の多様な地域課題の同時解決を図ることができる取り組み(※2)として、2013年6月に欧州委員会が「欧州グリーンインフラ戦略(※3)」を発表したことを皮切りに、近年世界中で注目されている。わが国においても、2020年に「グリーンインフラ官民連携プラットフォーム」が設立(※4)され、国や地方自治体、民間企業、大学・研究期間等の多様な主体が協力し、グリーンインフラの普及と社会課題の解決を推進している。
 グリーンインフラは、これまでのダムや堤防といった大型構造物を中心とする、いわゆるグレーインフラと大きく異なる特徴を持つ。グレーインフラの多くは、ひとつの施設が発揮するストック効果が交通円滑化や水災害防止等、限られたものであった。場合によっては防災効果発現のために周辺自然環境を破壊するといったように、トレードオフ関係にもなり得た。それに対してグリーンインフラは、元来その地域の自然環境が有する営力の一部を利用するものであり、他の目的と相反する可能性は低い。むしろグリーンインフラの導入によって、自然環境を保持しつつ地域振興にも資するといった、相乗効果が期待できる場合が多いのだ。
 今回、グリーンインフラ支援制度集では、複数の省庁等が所管する29件の支援制度が紹介されている。本稿では、これらの支援制度について複数の観点から傾向を分析することで、現行の支援制度が各自治体の地域特性に見合った活用しやすいものであり、グリーンインフラによる「多様な地域課題の同時解決」を推進するものとなっているのかを評価する。

2.ソフト施策を支援する制度の充実に期待
 はじめに、各支援制度を基礎的なカテゴリで分類する。なお、各支援制度には複数のカテゴリに該当するものも多数見られるため、以下に示すそれぞれの分類の合計値は、必ずしも100%または総件数の29と一致しない。
 担当省庁別の支援制度数は、国土交通省が最多で14件であり、次いで農林水産省の9件が続く。環境省は4件であり、その他独立行政法人や公益財団法人等が4件となる。また、補助金や交付金といった財政的な支援を伴う制度は25件であり、全体の86%を占める(図1)。



 さらに、支援手法をハード・ソフトの別で分類する。ハード施策は、河川施設や排水施設といったハードとしてのインフラ施設の整備を指す。一方でソフト施策は、先進事例の紹介といった情報提供や専門家派遣等の人的支援、官民のマッチングイベント開催等が該当する。これらのソフト施策を含む制度は14件と、全支援制度の約半数を占めており、このうちハード施策の整備も伴いながら、ハード・ソフト両面から支援する制度は6件と、全体の約21%であった(図2)。
 長い歴史の中でさまざまな技術的知見が蓄積されているグレーインフラに対して、グリーンインフラは比較的歴史が浅く、また地域によって最適なソリューションは千差万別である。そのためグリーンインフラの普及を進めるためには、ハード施設の整備支援のみならず、地域に適した独自の新しいアイデアを創出するソフト施策が有効であると考えられる。今後はソフト施策にさらに重点を置いた、支援制度の充実が期待される。



3.グリーンインフラのクロスファンクション推進が課題
 続いて各制度が支援する事業の目的によって分類する。先述の通り、グリーンインフラの主な目的は、防災・減災、自然環境の保全、地域振興、の3点に大別できる。自然環境の保全には、生態系の保全による生物多様性への貢献のみならず、水・森林資源や土壌の保全による営農等の生活環境への貢献も含まれる。また地域振興は、グリーンインフラの観光資源としての活用によるにぎわいの創出や、地域住民のアメニティ機能の提供による快適性の向上等が挙げられる。結果として、自然環境の保全が最多の18件(62%)であり、地域振興が9件(31%)、防災・減災が6件(21%)と続いた(図3)。
 自然(グリーン)と名が付く通り、グリーンインフラが自然環境の保全と親和性が高いことは想像しやすい。そのため、自然環境の保全を目的とした支援制度の数が多いことはうなずける。一方で、地域振興や防災・減災を目的とした制度は半数未満と、相対的に少ない結果となった。人口減少や自然災害の激甚化に直面しているわが国において、地域振興や防災は喫緊の課題であることから、これらの課題解決を促す制度の拡充が求められる。



 ここで、ひとつの支援制度対象事業が複数の目的を含む場合をカウントすると、全29件のうち4件と、全体の約14%にとどまる(図4)。先述の通り、グリーンインフラは複数の社会課題を同時に解決できることが特徴である。しかし現実には、複数の目的に同時にアプローチすることを前提として支援する制度の数は少ない。複数の機能の掛け合わせ(クロスファンクション)によって、環境保全と地域振興、環境保全と防災といったように、地域振興と防災の事例拡大も期待できる。そのため今後は、いかにグリーンインフラのクロスファンクションを推進する制度を拡充するかが、課題であると言える。



4.グリーンインフラの特徴を生かした支援制度の拡充が普及のカギ
 ここまで述べてきた通り、わが国のグリーンインフラ支援政策には、ソフト施策の充実とクロスファンクションの推進という課題がある。
 これらの課題に共通する背景としては、かつてのグレーインフラにおける固定観念が影響していると考えられる。すなわちグレーインフラでは、道路は交通の用に、下水道管は排水の用に供されるといったように、ひとつのインフラ施設の目的や機能が基本的に限定されていた。
 しかしグリーンインフラは、アイデア次第で複数の目的にかなったストック効果を発揮することが可能である。例えばオランダ・ハーグ市では、自然の営力に任せて海岸砂丘を再生する「サンドモーター・プロジェクト(※5)」が実施されている。ここでは砂丘の形成とともに新たな生物種の定着が進み、豊かな生態系が形成されてきている。加えて、防災機能も徐々に強化されてきた。さらに、広い砂丘に魅力を感じる人々が集まることで、マリンスポーツの拠点として知られるようになり、地域の発展にも貢献している。このようにグリーンインフラは、地域特性を鑑みた多様なアプローチによって、複数の目的にかなった効果を着実に発揮していくことができるのだ。
 今回公開された「グリーンインフラ支援制度集」は、複数の省庁に分散した制度を網羅し集約したという点で、制度の活用を検討する自治体にとって非常に有意義だったと考えられる。その一方で、各支援制度の多くが目的を限定し、支援の内容も旧来の施設整備を補助する手法が多いという傾向も明らかになり、制度に改善の余地が残されていることも見て取ることができた。各制度の主たる目的を、所管省庁がある程度限定すること自体は仕方のないことかもしれない。しかし見落としている副次的な効果や多様なアプローチに目を向け、支援制度を拡充することによって、制度の活用事例が広がり、グリーンインフラによる複数の地域課題の同時解決が進むものと期待できる。

(※1) 国土交通省2022年4月28日公表(同時発表:農林水産省、環境省)
(※2) 国土交通省ウェブサイト「グリーンインフラとは」
(※3) 欧州委員会(European Commission )ウェブサイト “The EU Strategy on Green Infrastructure”
(※4) 公表ウェブサイト「グリーンインフラ官民連携プラットフォームとは」
(※5) 欧州気候適応プラットフォーム(The European Climate Adaptation Platform:Climate-ADAPT)公表資料 “Development of the Sand Motor”
以上

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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