欧州では、ウクライナ戦争が足元の景気を下押ししている。ロシア・ウクライナとの貿易取引の縮小が需給両面から景気の重石となっているほか、資源高・食糧高を主因にインフレが加速している。
ウクライナ戦争の悪影響を受けながらも、ユーロ圏経済の回復基調は崩れない見通しである。高インフレにより家計の実質購買力が低下しているものの、①活動制限の緩和、②過剰貯蓄の取り崩し、③良好な雇用・所得環境、④政府による支援策などに支えられ、個人消費は増勢を維持すると予想される。生産能力の増強や脱炭素の推進に向けた企業の設備投資、インバウンド需要の回復も景気を押し上げると見込まれる。
政策面では、ECBは高インフレの定着を回避するため、大規模な金融緩和を見直し、政策金利を中立水準まで引き上げる見通しである。同時に、南欧諸国の金利上昇といった金融市場の動揺を防ぐ手段を講じる構えである。欧州復興基金を通じた本格的な資金供与は景気を下支えするだけでなく、EUの成長戦略「欧州グリーン・ディール」で掲げられた脱炭素社会への移行を加速させることが期待される。
イギリスの経済は2023年にかけて潜在成長率を下回るペースに減速する見通しである。労働需給がひっ迫していることから賃金が大きく上昇しており、ユーロ圏以上に高いインフレ率が続くと見込まれる。これを受けてBOEは金融引き締め政策を強化しており、景気が下押しされると予想する。
欧州経済のリスクとして、エネルギー不足が挙げられる。エネルギー資源の脱ロシア化が円滑に進むかどうかが今後のポイントとなる。また、イタリアやスペインで、反EUを標榜するポピュリスト政権が誕生する可能性がある。この場合、EUからの財政支援が滞るとの懸念が金利を急騰させる可能性に注意する必要がある。
関連リンク
- 《世界経済見通し》JRIレビュー 2022 Vol.7, No.102
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・日本経済見通し(PDF:1542KB)
・関西経済見通し(PDF:1548KB)
・アメリカ経済見通し(PDF:2133KB)
・欧州経済見通し(PDF:1654KB)
・アジア経済見通し(PDF:1348KB)