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アジア・マンスリー 2022年6月号

中国経済は都市封鎖の打撃から回復の兆し

2022年05月26日 関辰一


中国では、4月にかけて都市封鎖の範囲が拡大し、経済活動は大幅に縮小した。5月に入ってからは、感染の縮小により活動制限は緩和される方向にあるため、今後の経済活動の持ち直しが期待される。

■都市封鎖が経済活動を大きく下押し
中国政府は新型コロナの感染封じ込めに向け、2022年4月にかけて都市封鎖の動きを拡大させた。31省・市・自治区政府が公表する新型コロナの新規感染者数によると、感染が報告された地域の数は2月初めの5地域から4月末の13地域へ大幅に増加した。これらの地域では、市全体または一部で封鎖が実施された。

3月後半に実施された上海市の都市封鎖は長引いているほか、江蘇省蘇州市や北京市、河南省鄭州市といった大都市も一部の地域が封鎖された。上海市の地下鉄乗客数は4月末でゼロとなったほか、蘇州市、北京市、鄭州市はそれぞれコロナ禍前の2020年1月前半の3割、6割、7割の水準へ低下した。

それに伴い経済活動も縮小し、なかでも個人消費が大幅に減少した。4月の小売売上高は前年同月比▲11.1%と2年1カ月ぶりに二桁の減少となった。とりわけ、外食は同▲22.7%減少するなどサービス消費の落ち込みが顕著である。地域別にみると、3月の統計を公表した9省・市・自治区のうち6地域で小売売上高は前年割れとなり、消費の落ち込みが幅広い地域で生じた。

製造業の生産活動も下振れた。工場の操業停止や物流の停滞を受けて、4月の工業生産は前年同月比▲2.9%とやはり新型コロナ発生当初以来の前年割れとなった。品目別にみると、自動車、パソコン、スマートフォン、産業用ロボット、セメントなど幅広い分野で減産となった。地域別にみると、31省・市・自治区のうち3地域の工業生産が3月時点ですでに前年割れとなっており、4月は前年割れの動きが11地域に広がった。

■固定資産投資も不振
景気の下支え役として期待された固定資産投資も落ち込んでいる。政府は、地方政府や企業の投資を資金面で支援しているものの、4月の建設機械の稼働時間は一段と落ち込んだ。この背景として、以下の3点が指摘できる。第1は、厳しい活動制限による物流の停滞や労働力の供給不足を受けて、インフラ投資や企業の固定資産投資が下振れたことである。第2は、ゼロコロナ政策の継続やウクライナ情勢の悪化といった先行き不透明感の強まりにより、企業が投資を手控えたことである。第3は、不動産開発投資の低迷である。住宅需要が低迷しているほか、関連企業の資金調達難が続いている。

■足元では封鎖解除の方向
もっとも、5月に入ってから、感染が縮小する方向にあり、厳格な活動制限が行われる地域数は5月17日時点で8地域へ大幅に減少した。上海市も6月に都市封鎖が解除される予定である。

封鎖解除の広がりを受けて、今後、経済活動は持ち直すと見込まれる。すでに、自動車産業では回復の動きがみられる。自動車産業の集積地である吉林省や上海市、蘇州市では、政府が企業への活動制限を緩和し、工場の操業再開を支援している。上海市では、5月半ば時点で活動制限が緩和された24地域のうち16地域で操業が再開された。この結果、自動車産業などの供給制約は緩和方向にある。

封鎖の解除で人出が戻っており、需要面にも景気回復の動きがみられる。実際、武漢市や蘇州市、広州市といった大都市では地下鉄乗客数が回復しつつある。供給制約の緩和と人出の回復により、5月前半の全国の乗用車販売台数の減少幅は大きく縮小した。

個人消費とともに、固定資産投資の拡大も、経済活動の回復をけん引するとみられる。政府は、ゼロコロナ政策を堅持する一方で、今年の成長率目標を「+5.5%前後」に設定し、財政支出を大幅に拡大する方針である。現時点で2022年の交通インフラの投資計画を発表した21省・市・自治区では、関係する固定資産投資が前年比+5%の2.68兆元にのぼる計画である。

以上のように、感染の縮小により活動制限は緩和される方向にあるほか、今後は固定資産投資が拡大することを受けて、中国経済は持ち直しに向かうとみられる。ただし、感染が完全に収束した訳ではないことから、過度な楽観は禁物であると言えよう。
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