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日本総研ニュースレター 2022年1月号

長寿化と過疎への処方箋~セルフマネジメント志向の地域づくりへのシフト~

2022年01月01日 齊木大


望む暮らしのため、手に届く範囲のリソースをやり繰りする
 新型コロナウイルスへの対応は、オミクロン株の出現で予断を許さないものの、これまでの2年間の蓄積をもとに長期的な見通しをもって対応できる状況になってきた。一方で、グローバルな経済環境は激しく変化しており、この2022年を、将来を見据える視点での方向性を考え動き出す起点とすることを提案したい。
 国内に目を向ければ、最重要課題は長寿化と過疎の同時進行への対応だ。平均寿命と併せて健康寿命も延伸し、かつ不健康寿命の期間も短縮傾向にある。一方、過疎に目を向けると、平成31年時点で過疎関係市町村は全1,718団体のうち817団体を占めるのが現状だ。
 地域で暮らす高齢者が、自ら望む暮らしを継続していくには、医療・介護のケアや生活支援をできるだけ専門職の人手に頼らずに実現できる仕組みの構築が必要となる。そこで重要なのが、「セルフマネジメント」の考え方だ。
 ここで言うセルフマネジメントとは、現在の状況においてできるだけ工夫して暮らしを継続させると同時に、将来に起こり得るケアの可能性を小さくするよう、自分の暮らしを自分の判断でやり繰りすることを指す。これは決して、社会サービスを縮小する代わりに、自分のリソースを用いて自己責任で暮らすことを強いる個人主義的な思考ではない。さまざまなサービスや資源を使い分けることも含め、医療・介護の専門的なサービスだけでなくいろいろな人に頼って良い。ただし、あくまでも自らの判断で暮らしを組み立てていく範囲を増やせるよう、「お互いさま」の意識で地域コミュニティの充実と本人のエンパワメントを両輪で進める姿だ。過疎が同時進行する社会では、困ったときに家族や専門サービスに頼ろうにも、その相手もいなくなる。だからこそ、手に届く範囲のリソースでやり繰りするマネジメントが重要になる。

セルフマネジメント向上で、将来的な行政負担も軽減
 生活のマネジメントの対象は、医療・介護・福祉に限らない。移動や生活サービス、自分の強みを知り活躍機会を増やす社会参加、さらに行政手続きも含まれる。例えば、全国の市町村の自治体職員数の動向を見ると、市町村では平均して一般行政職のうち約3~4割が福祉部門に配置されており、それだけ市町村にとっては福祉行政の業務量が大きい。今後さらに長寿化と過疎が同時進行すれば、現在と同じ水準で対応する体制を維持するのは困難となる。
 つまり、市民の多くを占める高齢者のセルフマネジメントを高めることは、結果的に将来の行政対応の負担増を防ぐ効果も期待できるのだ。例えば、ワクチン接種の予約申し込みを思い出して欲しい。オンライン手続きを家族が手助けした例も多いだろう。今後もデジタルファーストの考え方で行政DXを進展させる場合、高齢者自身が手続きの種類を知り、それをオンラインで実行できるよう習熟するのも、セルフマネジメントを高める重要な取り組みの一つになる。そして、こうした取り組みの積み重ねが、地域が自らの課題を自ら解決できる余地を増やす、地域のセルフマネジメント力(地域力)の向上につながっていく。

直接援助からセルフマネジメント水準を高める「コーチ」へ
 セルフマネジメント志向の地域を構築するには、まず「コーチ」が必要だ。地域にある専門職などのリソースを、直接援助だけでなく、セルフマネジメントを高めるコーチの役割を発揮できるようシフトさせる。その際、テクノロジーの応用が当然必要になる。特に、無理なく高齢者本人をエンパワメントするサービスの充実が大切だ。そこでEdTechやHRTechのノウハウの高齢者向けへの応用が期待される。
 なお、先述の通り、自治体の公務員数が限られるなかで取り組みを推進するには、地域のセルフマネジメント水準を高める方針を定め、具体策を立案する公民連携の組織体の設置も必要だ。特に、計画策定時だけに設置される審議会ではなく、地域のマネジメントに関与し、取り組みの結果をモニタリングして継続的に改善していく、常設の組織体であることが肝要だ。
 人口減少や社会保障の伸びへの対応も、長らく指摘されながらもアクションを先延ばしにしてきたのではないか。人口減少は都市およびその郊外にも無関係ではない。2022年を契機として、一人ひとりの生活を尊重するセルフマネジメント志向の地域づくりへのシフトを具体化していきたい。
 
 
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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