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就労証明書の標準的な様式の活用による市区町村及び企業等の負担軽減に関する実態調査

2022年04月14日 石田遥太郎、今川成樹、小島明子沢村香苗、青木梓、牛島康晴、大内亘


*本事業は、令和3年度子ども・子育て支援調査研究事業として実施したものです。

1.本調査研究事業の背景
 保育所等の利用申請手続きの際に市区町村が申請者の就労先事業所に添付書類として求めている就労証明書において、多くの市区町村で様式が異なることから、就労証明書の作成を行う就労先事業所にとって大きな負担となっている。それに伴い就労先事業所から市区町村への問い合わせが頻発し、結果的に市区町村の負担にもなっている。
 そのため、内閣府は、平成 29(2017)年8月に「標準的様式」、令和元(2019)年8月には待機児童数が多く、利用調整に必要な項目が多い市区町村用に「大都市向け標準的様式」を提示し、これらのいずれかの様式を活用するよう依頼してきた。(「標準的様式」、「大都市向け標準的様式」の2種類を合わせて「標準的な様式」という。)
また、内閣府は、「経済財政運営と改革の基本方針 2020」(令和2年7月17 日閣議決定)や「デジタル・ガバメント実行計画」(令和2年 12 月 25 日閣議決定)において、デジタル化を強力に推進していくこととした。特に、それらには、本事業に関連する「子育て」においては、行政手続きのデジタル化・ワンストップサービスの推進が掲げられている。
 それを背景に、内閣府は、令和3年7月5日付「就労証明書の様式の改定について(通知)」を通じて、就労証明書の標準的な様式の改定内容について公表した。これにより、標準的様式は「就労証明書(簡易版)」へ、大都市向け標準的様式は「就労証明書(詳細版)」へ移行された(これを「令和3年改定版標準様式」という。)。このときに、デジタル化・ワンストップ化の弊害となっている押印欄が削除された。
 本移行の取り組みは、作成する企業等の就労先事業者側の負担軽減を目指しつつ、将来的に電子的に作成された就労証明書を市区町村にオンラインで提出できる仕組みの構築を前提としている。電子的に提出された情報を電子的に管理することで市区町村の事務負担を軽減することが期待されている。 
 上記を踏まえて、本事業では、就労証明書に係る標準的な様式の活用促進により、どの程度市区町村および企業等の事務負担を軽減することができているかについて、調査研究を行うことを目的とした。具体的には、自治体への就労証明書標準様式の活用実態把握のための調査、企業への就労証明書作成における課題の把握のための調査を実施した。

2.本調査研究事業の概要

(1)調査設計
 令和3年改訂版標準様式のさらなる簡素化や自治体におけるさらなる活用促進に向けた改善策の提言を行うことを目的として、調査設計を行った。

(2)令和3年改訂版標準様式の活用状況に関する自治体向け調査
 全国の市区町村に対して、①令和3年改訂版標準様式の詳細版の簡素化に向けた実態把握と、②令和3年改訂版標準様式のさらなる浸透に向けた課題の把握を目的に、調査を実施した。
 アンケート調査は、インターネットを通じて、令和4年1月26日~令和4年2月9日に実施し、1,741自治体に協力を依頼、1,130市区町村からの回答を得た(回収率:64.0%)。
 またアンケート調査結果を踏まえ、深堀が必要な事項を抽出し、8市区町村に対して、電話によるヒアリング調査を実施した。

(3)就労証明書の作成に係る負担等に関する企業向け調査
 企業の人事担当者を対象に、就労証明書の記載項目ごとの企業側の負担の度合い、性質、理由等の把握を目的に、調査を実施した。
 アンケート調査は、令和4年1月26日~令和4年3月17日に実施し、東証一部に上場している全企業2,186社にアンケート調査票を配布、552社(回収率:25.2%)からの回答を回収した。  
 またアンケート調査結果を踏まえ、深堀が必要な事項を抽出し、14社の企業の人事担当者に対して、オンライン会議形式のヒアリング調査を実施した。

(4)調査結果取りまとめ
 自治体および企業へのアンケート調査、ヒアリング調査を踏まえて、整理・分析を行い、報告書としてまとめた。

3.調査結果および考察の概要

■自治体向け調査
 アンケート調査では、令和3年改定版標準様式の詳細版の多くの記載項目について、削除しても問題ない(検討が必要を含む)と回答した自治体が多数であった。
このことから、極力記載項目を削減した標準的な様式を提示し、その浸透を促進する取り組みが重要だと考えられる。ただし、一定数以上の自治体が、「残業日数」や「給与支給実績」などについては、必要認定だけでなく、後続業務である利用調整でも使用していると回答している。そのため、内閣府の意向を示しつつ、ある程度自治体の意向や業務実態を踏まえた上での調整が必要であると考える。
また、令和3年改定版標準様式を利用していない自治体(独自の様式を使用している自治体)においては、導入が遅れている要因として、事務負担が最も多く挙げられていた。導入を促進するため、他自治体の導入状況や導入メリットなどを共有することが効果的な施策であると考えられる。
これらの結果を踏まえたヒアリング調査では、就労証明書(詳細版)において、「削除が困難」との回答があった項目の実態を確認した。「残業日数」は、延長保育利用の認定のため、「単身赴任」は利用調整の際の加点とするために利用しているとの回答があり、削除した場合、自治体側の認定業務に影響が出る可能性が高いことがわかった。簡素化に向けて、項目によっては、単に削除するのではなく、詳細項目から基礎項目への移動や、他の項目と統合することも視野に入れて検討する必要があると考えられる。

■企業向け調査
 アンケート調査では、就労証明書の作成時間としては、「30分未満(41.3%)」が最も多く、「30分~1時間未満(37.7%)」、「3時間以上(10.3%)」と続く。就労証明書の作成枚数としては、「11~50枚(21.9%)」が最も多く、「500枚以上(18.5%)」、「201~500枚(18.3%)」と続く。
 また就労証明書の記入自治体の数としては、「21~50自治体(29.7%)」が最も多く、「11~20自治体(20.7%)」、「51~100自治体(16.5%)」という結果になった。
 半数の自治体が、現時点で令和3年改定版標準様式を使用していないことを鑑みると、企業は、個々の就労証明書作成において、それぞれの自治体の様式やルールに個別に対応していることが多いといえる。保育所等の利用申請手続の時期は集中しているため、この状況は企業側の大きな負担になっており、最も負担の多い企業は、年間1,500時間以上の時間を就労証明書にかけている。特に「就労時間」、「休憩時間」、「給与支給実績」など、各自治体によって算定ルールが異なりがちな項目においては、多くの企業にとって負担となっており、これらの定義を明確に記載することが求められる。
 ヒアリング調査では、マイナポータルに掲載をされている電子ファイルの情報が古いことや、電子ファイルのひな型がないこと(編集ができないPDF形式しか用意されていない)、あるいはひな型があっても、電子ファイルが重くて開けないといった不具合があることが、企業側の負担となっているという意見が多かった。マイナポータルには、最新のファイルを掲載し、ワード、エクセルなど、編集可能な電子ファイルの提供を行うことが求められる。

4.今後の課題
 標準的な様式の活用においては、企業側にとって一部負担が重く、自治体側にとっても必要な項目として、「就労時間」や「残業日数」、「給与支給実績」等が挙げられた。この点を踏まえ、記載項目をより削減することに加えて、記載項目に対する概念を統一することが必要である。自治体へのヒアリングでも、全国統一的な就労証明書のフォーマットや記載ルールを示してほしいとの声も一部得られている。
 そのため、現状を改善する施策として、各項目について、全国統一的な考え方を示すことが考えられる。具体的には、就労証明書(詳細版)の各項目の対応方針を、①詳細項目から基礎項目に移動する、②他項目でカバーする、③国の考え方を示しつつ削除する、という3つのうち、いずれかの対応を示していくことで、標準的様式の簡素化や、活用促進が期待される。
 また、自治体側が押印不要、就労証明書原本提出不要としているものの、企業側がそれらを認識できていないという事実が確認できた。そのため、押印不要ルールの発信や、マイナポータルの利用促進に向けたさらなる普及および啓発を行っていくことも有効である。
 これらの取り組みを実施することで、自治体が企業や保護者から受ける問い合わせの軽減や、企業側の事務負担軽減に寄与すると考える。

※詳細につきましては、下記の報告書等をご参照ください。
報告書

【問い合わせ先】
リサーチ・コンサルティング部門 高齢社会イノベーショングループ
シニアマネジャー 石田 遥太郎
TEL:080-7938-4740  E-mail:ishida.yotaro@jri.co.jp
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