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適切なケアマネジメント手法の策定、普及推進に向けた調査研究事業

2022年04月13日 辻本まりえ齊木大山崎香織多田理紗子


*本事業は、令和3年度老人保健事業推進費等補助金 老人保健健康増進等事業として実施したものです。

■本稿は令和3年度に実施した調査研究事業の概要と成果をまとめたものです。「適切なケアマネジメント手法」の内容や活用の手引き、その解説動画をご覧になりたい方はそれぞれ以下のリンクを参照ください
・「適切なケアマネジメント手法の手引き」(PDF)
・「適切なケアマネジメント手法の手引き」解説動画(日本総研公式URL)

1.事業の目的

 平成28年度から検討と策定を進めてきた「適切なケアマネジメント手法に関する調査研究」は、期別・疾患群別に「想定される支援内容」を整理することにより、将来の生活予測におけるケアマネジャーの知識水準を確保するとともに、多職種連携の推進を目的としている。
 令和2年度には、今後の全国的な普及・浸透を見据え、「わかりやすく」かつ「簡素化」するため、項目間の重複等を整理するなど基本ケアの充実を軸とした全体的な再整理を行い、「基本ケア」及び5つの「疾患別ケア」(脳血管疾患、大腿骨頸部骨折、心疾患、認知症、誤嚥性肺炎の予防)をとりまとめた。また、令和2年度事業(適切なケアマネジメント手法の普及推進に向けた調査研究事業)では「今後の方針」として、令和3年度から「適切なケアマネジメント手法」の全国的な普及推進や実践での活用を見据えた検討を重点的に行う方向を示した。
 「適切なケアマネジメント手法」の全国的な普及・活用に向けた取り組み(手法の活用法を体得する実践的な研修の試行、認知度や理解度を高めるための普及活動)、令和2年度までに作成した手法をより実践で活用するための方法の検討を行うことを目的に本事業を実施した。

2.事業の主な内容
(1) モデル地域における連続的な実践研修の企画・実施

 令和2年度事業において検討した連続的な実践研修(実践での手法の活用と研修でのグループワークでの発表・共有を繰り返す研修)のプログラムを、モデル地域において約5ヵ月間試行的に実施し、検証データの収集を行った。
 検証は、モデル地域(静岡県、広島県、宮崎県)で呼びかけ、地域ごとの実践セミナー1回、3地域合同の研修会(第1回研修会、第4回研修会)を2回、地域ごとの研修会(第2回研修会、第3回研修会)を2回開催し、合計101名が参加した。
「適切なケアマネジメント手法」実践研修の全体像

図1


(研修の流れ)
 参加者には、実践セミナーで「適切なケアマネジメント手法」の概要を学んだうえで、事前に今回の実践研修で対象とする事例を選定し、事前学習として自己点検を行ってもらった。
 第1回研修会では、本調査研究事業の検討委員会及びワーキング・グループメンバーでもある国際医療福祉大学 教授 石山麗子氏が講師を務め、「事例の掘り下げ」についての講義を行った。
 第2回研修会までの間を「現場実践」と位置づけ、講義を踏まえて各自が事例に関する追加の情報収集や課題の整理等を行った。
 第2回研修会では、各研修参加者が現場実践の結果をグループワークで共有し、グループの他のメンバーから助言等を受けた。第3回研修会、第4回研修会までの約5ヵ月間、同様に現場実践とグループワークを繰り返した。
 第4回研修会では、第3回研修会までと同様のグループワークに加えて、各地域から発表者を選出のうえ、実践研修を通した取り組み結果を全体に発表した。

(2) 全国展開に向けた普及活動
①「適切なケアマネジメント手法」に関するYouTube動画の作成・公開

 全国のケアマネジャーが手軽に「適切なケアマネジメント手法」を知り、考え方を学べるツールとして「適切なケアマネジメント手法」に関する動画を作成し、日本総研公式YouTubeに公開した。令和3年度は、計20本の動画を作成・公開し、合計183,069回視聴されている。(令和4年3月31日時点、令和2年12月公開分を含む)
適切なケアマネジメント手法に関する動画再生リスト(日本総研公式YouTube)
②「適切なケアマネジメント手法」手引き冊子の全国配布
 「適切なケアマネジメント手法」の周知と理解促進を図るため、令和2年度に作成した「適切なケアマネジメント手法の手引き」(冊子)を全国の研修実施機関等宛てに約2万部配布した。
③「適切なケアマネジメント手法」実践セミナーの実施
 「適切なケアマネジメント手法」を先行的に普及・促進するため、過年度の実証協力地域、本手法に関心のある地域において、ケアマネジャーに限らず様々な立場の人と一緒に本手法の活用について考えるきっかけとして実践セミナーを開催した。実践セミナーは、実践研修のモデル地域(静岡県、広島県、宮崎県)及び茨城県の4地域で開催し、各地域のケアマネジャー及び多職種・自治体に参加を呼び掛け、4地域で計1,225名が参加した。
④実践研修に関する各種ツールの作成
 本年度モデル地域で試行した「適切なケアマネジメント手法」実践研修を、令和4年度以降は全国的に実施することを見据え、周知のための資料(実践研修解説動画、実践研修パンフレット)、実施のための各資料(研修プログラム、参加者ガイド、サブ講師ガイド、研修資料、Q&A資料)等の整備を進めた。

(3) 「適切なケアマネジメント手法」の拡充
 「適切なケアマネジメント手法」が目指すのは、ケアマネジメントプロセスが然るべき知識を持ったうえで実行され、ケアマネジャーが抱え込むことなく他の職種と連携して進められている状態とすることである。また、社会保障審議会介護給付費分科会「令和3年度介護報酬改定に関する審議報告」(令和2年12月23日)においても、「適切なケアマネジメント手法」に関して、疾患別の適切なケアマネジメント手法に限られない方策の検討と、実効性が担保されるような方策の検討が盛り込まれた。
 こういった背景を踏まえ、「適切なケアマネジメント手法」手法の充実に向けた方針の検討を行った。

(4)検討委員会における確認・検討
 有識者や関係団体等と厚生労働省で構成する検討委員会を設置し、上記(1)~(3)の結果について共有および検討を行った。さらに、これまでの調査研究成果も踏まえ、令和4年度以降に取り組むべき課題についても議論し整理した。

3.事業の主要な成果
 「適切なケアマネジメント手法」に関する調査研究は令和3年度から「第2期」として、今後の実践での活用を見据え、普及・活用促進に注力することとした。こうした方針を踏まえ、令和3年度事業の主な成果は、「手法の体得のために実践研修の開発、モデル地域における試行」、「全国的な展開に向けた普及活動」、「手法の拡充方針の検討」の3点である。
(1) 「適切なケアマネジメント手法」実践研修のモデル地域における試行
 「適切なケアマネジメント手法」を理解し実践で使いこなすためには、単発の研修では体得までの学習が不十分であるとの課題認識に基づき、令和2年度事業に、個別事例に当てはめた学習手法(アクションラーニング)を前提としたケアマネジャー向けの連続的な研修プログラムが示された。
 「適切なケアマネジメント手法」実践研修は、自己学習ツール(手引きあるいは動画)を利用して基本的な理解を持ったうえで、全体研修において座学と個人ワーク(自らの実践の自己点検)を実施し、その後グループワークで実践での適用と各地域における追加学習、相互の課題点や工夫の共有(グループスーパービジョン)を実施し、その成果を踏まえて全体研修に持ち寄って総括する構成である。
 令和3年度事業では、モデル地域(静岡県、広島県、宮崎県)において、約100名の参加者による「適切なケアマネジメント手法」実践研修(実践での手法の活用と研修でのグループワークでの発表・共有を繰り返す研修)のプログラムを約5ヵ月間試行的に実施し、①ケアマネジャー自身の気づきの効果、②多職種連携(情報の収集と共有)が加速することの効果、③支援内容(あるいはケアプラン)の見直しが進む効果、④本人や家族のエンパワメントにつながる効果が確認された。
①ケアマネジャー自身の気づきの効果
 自己点検や現場実践での情報の深掘りを通じて、自身のケアプラン作成時の見落としや視点の抜け漏れに気づく効果が確認された。

図2


②多職種連携(情報の収集と共有)が加速することの効果
 現場実践を通じて、多職種からの情報収集、多職種への情報提供が加速する効果が確認された。

実践研修前後での連携状況の変化(連携先別の情報収集状況)
図3

③支援内容(あるいはケアプラン)の見直しが進む効果
 定性的ではあるが、グループでの発表等を通じて、支援内容(あるいはケアプラン)の見直しが進む効果、特に、短期目標が見直されるなど個別化が進んだとみられる効果が観察された。
④本人や家族のエンパワメントにつながる効果
 取り組み事例の中には、本人や家族のエンパワメントにつながった事例も観察された。これらの事例では、本人の状況を記録することの必要性や効果に本人や家族が気づくことで、エンパワメントに資する協力体制が構築されたと考えられる。

(2) 全国的な展開に向けた普及活動 
 ①適切なケアマネジメント手法の手引き」に関するYouTube動画の作成、公開、②「適切なケアマネジメント手法の手引き」(冊子)の全国配布、③「適切なケアマネジメント手法」実践セミナーの実施、④研修運営に係る各種ツールの作成を行った。

(3) 「適切なケアマネジメント手法」の拡充方針の検討
 「適切なケアマネジメント手法」の充実に向けて、ワーキング・グループより提示された以下の二つの方向性案について第1回委員会で議論を行った。
 〇複数疾患がある方のケアの手法(脳血管疾患×心疾患の場合)の検討
 〇疾患別以外の手法の検討
 第1回委員会の議論の結果、超高齢者が増えてくる今後のケアマネジメントにおいては、疾患の知識の充実よりも本人の生活を捉えるうえで最低限の抜け漏れがない範囲の対応ができて、多職種協働が円滑であることが重要であること、また、今後の手法の拡充方針としては、これらを実務に即して実施できるような検討が必要であると方針が示された。
 この方針を踏まえ、「適切なケアマネジメント手法」を、実務に即して実施できるための検討として、特に、超高齢者のケアを想定した場合に、疾患の知識の充実よりも、、本人の生活を捉えるうえで最低限の抜け漏れがない範囲の対応ができて、多職種連携が円滑であることに重点を置いた。
 ワーキング・グループでの検討の結果、今後の実践(とくにアセスメント過程)での活用を視野に、「適切なケアマネジメント手法」を踏まえて、「少なくともこの程度は実施して欲しい」行動指針をチェックリスト(案)として作成した。

4.今後の課題
 これまでの成果も踏まえた検討の結果、今後、本テーマで取り組むべき課題として、(1)適切なケアマンジメント手法の研究(①複数の疾患がある方のケアマネジメントへの対応、②疾患以外の高齢者の特徴に着目したケアマネジメント手法の検討)、(2)全国での活用・普及(①効果的な普及方策の検討、②継続研修による本手法導入の検証、③適切なケアマネジメント手法を活用するためのツールの整備)、(3)長期データ収集による検証、(4)業務への組み込み検討をそれぞれ抽出整理した。
※詳細につきましては、下記の報告書本文をご参照ください。

適切なケアマネジメント手法の策定、普及推進に向けた調査研究事業 報告書
(PDF:7,324KB)


別冊資料
「適切なケアマネジメント手法」実践研修パンフレット(PDF:4.121KB)
「適切なケアマネジメント手法」実践研修プログラム(PDF:988KB)
「適切なケアマネジメント手法」実践研修資料(第1回~第4回)(PDF:2,920KB)
「適切なケアマネジメント手法」実践研修参加者ガイド(PDF:3,366KB)
「適切なケアマネジメント手法」実践研修サブ講師ガイド(PDF:2,196KB)
「適切なケアマネジメント手法」自己点検シート案(基本ケア)(Excel:32KB)

<参考>
本手法に関連して厚生労働省から介護保険最新情報での情報提供も行われています。こちらもご参照ください。
適切なケアマネジメント手法の策定、普及推進(厚生労働省ウェブページ)

本件に関するお問い合わせ
創発戦略センター マネジャー 辻本 まりえ
TEL: 080-9673-8693   E-mail: tsujimoto.marie@jri.co.jp

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