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特別養護老人ホームにおける医療ニーズに関する調査研究事業

2022年04月14日 石田遥太郎紀伊信之、高橋孝治、大内亘城岡秀彦益田健甫


*本事業は、令和3年度老人保健事業推進費等補助金 厚生労働省老人保健健康増進等事業として実施したものです。

1.本調査研究事業の背景
 特別養護老人ホームは、65歳以上で要介護3以上の高齢者の入居が原則であり、他の高齢者向け住宅に比べ医療提供体制が充実している施設が多い。
 特別養護老人ホームにおける医療サービスの提供は専ら看護職員が行っており、勤務時間が限られている医師や、介護職と連携して医療ニーズにどのように対応するのかが重要といえる。令和元年老健事業「介護老人福祉施設における看取りのあり方に関する調査研究事業」においては、特別養護老人ホームの看取りの方針として「希望があれば施設内で看取る」という回答が78.0%となっており、「終の棲家」としての役割を果たしていることが明らかになっている。特に、こうした看取り期には頻回な観察、たんの吸引、点滴、酸素療法といった医療的ケアが必要となる。従って、今後、ますます増加する看取りに対応するためにも、特別養護老人ホームにおける医療ニーズへの対応実態について明らかにする必要がある。
 上記を踏まえ、特別養護老人ホームにおける配置医師および看護職員の役割、求められる医療従事者と介護職員の連携のあり方、利用者の状態に応じた外部医療サービスの利用状況、協力医療機関との連携状況、感染症対策の状況等について、入居者の特性や地域により、どのような実態やニーズ、課題があるかの調査を行った。

2.本調査研究事業の概要
 本調査研究では、以上の背景および課題認識に基づき、先行調査結果を踏まえて、特別養護老人ホーム向けのアンケート調査およびヒアリング調査を実施した。また、調査結果を踏まえ、有識者検討委員会にて、特別養護老人ホームにおけるあるべき医療体制について検討した。

(1)検討委員会の設置・運営
 本調査研究の各種検討を円滑かつ効果的なものとするために、特別養護老人ホームにおいて医療に関わる有識者、実務者からなる検討委員会を設置・運営した。検討委員会は事業の方向性や進め方、各種調査設計、調査結果の整理、調査結果取りまとめ等について、適宜確認・助言を得る場とし、合計4回実施した。

(2)先行研究等の調査・整理
 過去の老人保健健康増進等事業を中心に、特別養護老人ホームや高齢者向け住まいにおける医療的ケア・看取り等に関する調査結果等を参考の上、調査設計等を実施した。

(3)特別養護老人ホームにおける医療提供体制の実態の把握
 全国の特別養護老人ホームを対象にアンケート調査およびヒアリング調査を実施した。

【アンケート調査】
・特別養護老人ホームにおける医療ニーズへの対応実態、職員の考え方について、施設長および看護職員を対象にアンケートを実施した。アンケートでは、医療ニーズがある方へのケア(医療処置のほか、状態のアセスメント、健康管理、療養上の世話や各種機能の維持向上への取り組みも含む)の方針や提供実態、医療職をはじめとする体制、外部医療機関・事業者との連携について確認した。
・アンケート配布施設は5,000施設、回答数は1,583施設(回収率31.7%)であった。

【ヒアリング調査】
・アンケート調査結果を用いて、ヒアリング先候補を抽出した。アンケート回答では詳細を把握することが難しい施設の方針、サービスの提供状況とそれに関係する施設の置かれた背景(施設方針、体制、他の医療サービス事業者との関係等)について、11施設を対象にヒアリングを実施した。
・ヒアリング対象施設選定にあたっては、施設規模や運営法人の形態、提供している医療処置の傾向等の異なる施設となるよう考慮した。

(4)特別養護老人ホームにおける医療体制の検討
 アンケート調査およびヒアリング調査の結果を踏まえ、委員会における議論等を通じて、特別養護老人ホームにおけるあるべき医療体制について検討した。

3. 調査結果および考察の概要

【施設の医療ニーズに対応するケアの提供方針と課題について】
 医療ニーズに対応するケアの提供方針として、「入居者のQOLの維持のために、医療職と介護職が連携した健康管理に力を入れている」、「看取りの際は、入居者・家族の思いに応えるため、医師・看護職員と連携しつつ、介護職員も主体的にケアに当たっている」という回答が多かった。
 医療ニーズに対応するケアを提供する上での課題としては、「認知症を持ち、かつ医療ニーズがある方へのケアの提供に負担を感じる」、「医療ニーズがある方へのケアを提供する介護職員の人数が不足している」という回答が多かった。

【医療ニーズへの対応について】
 医療ニーズを有する方の受け入れについて、看護職員の人数が多い施設の方が、「喀痰吸引」および「浣腸」のニーズがある方の入居を断らない傾向があった。一方で、経験年数の長い看護職が多い施設の方が、「中心静脈カテーテルの管理(CVport含む)」、「経鼻経管栄養の管理」、「喀痰吸引」、「インスリンの注射(自己注射できる場合を除く)」のニーズがある方の入居を断らない傾向があった。この結果から、喀痰吸引、浣腸などの実施には看護職員の人数が影響していると考えられる。また、知識・技術の習得に専門診療科での勤務経験等を要するケア・医療処置(中心静脈カテーテルの管理、経鼻経管栄養の管理、喀痰吸引、インスリンの注射など)の実施には看護職員の経験年数が影響していると考えられる。
 「たん吸引」、「褥瘡・創傷の処置」等が必要な方の受け入れについて、医療職と介護職が連携した健康管理に力を入れている施設は、そうでない施設と比べて、入居を断らない傾向があった。「たん吸引」では、気管内にたんが留置し、吸引が難しくなることがあり、このような入居者については、医療技術を有する看護職員が対応する必要がある。また「褥瘡・創傷の処置」においては、介護職員が着替えの支援やおむつ交換の際に創部を観察し、褥瘡・創傷の状態を看護職員と共有することが重要となる。このことから、看護職員と介護職員の連携に力を入れている施設では、「たん吸引」、「褥瘡・創傷の処置」等が必要な方の入居を断らない傾向があると考えられる。
 「膀胱留置カテーテルの管理」、「血糖測定」、「導尿」、「ネブライザー(吸入器)の管理」など、高齢者の身体能力の低下により必要性が高まるものについては、多くの施設で提供されていた。
 「気管切開の管理」、「医療用麻薬の点滴」は、提供している施設が非常に少なく、ヒアリング調査では、依頼されるケースもまれであるという意見もあった。こうした処置が必要な入居者については、提供や観察にあたり、専門性の高い知識・技術が必要となり、受け入れが難しいことが伺える。(または、そもそもこうした医療処置を必要とする入居者が少ないことが考えられる。)

【医療者の体制・施設の教育体制について】
 看護職の経験年数にかかわらず、看護職員の教育に熱心な施設ほど、予防的な観点から医療ニーズに対応する傾向があった。加えて、検討委員会においても予防的な介入やアセスメントの重要性が確認された。特別養護老人ホームにおける医療ニーズへの対応のあり方を検討する上で、どのような医療ニーズに対応するケアが提供できるかということに加え、入居者のアセスメントを行い、必要な対応を判断することや、状態が悪化しないように予防的な介入をすることが重要であるといえる。
 看護職員のリカレント教育の状況では「所属する法人、またはグループ内での研修」を実施している割合が高かった。また、ヒアリングでもグループ内に医療機関を持つ施設では連携した教育体制が敷かれていた。したがって、法人グループ内に医療機関を有する特別養護老人ホームについては、就職後も教育の機会を得やすい環境であると考えられる。

4. 今後の課題
 本調査においては、医療ニーズがある方へのケアをどこで、誰が提供しているかということについて検討を行ったが、入居者の状態のアセスメント等の予防的な対応の実態については十分に明らかにできなかった。入居者のQOL維持の観点からも、ケアや医療処置が必要となる状態になる前から予防的な対応を行うことは重要だと考えられる。そのため、今後は予防的な対応等についても実態を調査する必要がある。その際、予防的な対応について望ましい取り組みができている施設の事例を分析し、他の施設にも共有することで、適切な取り組みを普及および啓発することも求められる。
 また、医療ニーズがある方のケアを提供する際には、特別養護老人ホームの職員の他にも、連携する地域の協力病院、在宅医療支援診療所との協力が不可欠である。本調査においては特別養護老人ホームに対する調査を実施したが、今後は協力医療機関等から見た連携にあたっての課題などについても把握することが求められる。

※詳細につきましては、下記の報告書をご参照ください。
報告書

【問い合わせ先】
リサーチ・コンサルティング部門 高齢社会イノベーショングループ
シニアマネジャー 石田 遥太郎
TEL:080-7938-4740  E-mail:ishida.yotaro@jri.co.jp
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