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アジア・マンスリー 2022年4月号

第2段階入りした東南アジアのスタートアップ

2022年03月28日 岩崎薫里


東南アジアでは、これまでの10年間がスタートアップの発展における第1段階とすると、現在は人材面や資金面の拡充が進み、第2段階に突入していると捉えられる。

■スタートアップの活発な立ち上げと成長
東南アジアでは、持続的な経済成長に伴い中間層が台頭したところへ、インターネットとスマートフォンが登場し、それらを活用したデジタル・サービスを提供するスタートアップが2010年代入り後に相次ぎ誕生した。東南アジアでのスタートアップへのベンチャーキャピタル(VC)投資額は、2010年にはわずか1億ドル(米ドル、以下同じ)であったのが、ピーク時の2018年には96億ドルに達し、その後も高水準で推移している。スタートアップのなかから大きく成長し、推定時価総額10億ドル以上の「ユニコーン」となる企業も相次いでいる。シンガポール、インドネシアを中心に、これまでに30社以上のユニコーンがこの地域で誕生した。

成長著しい東南アジアのスタートアップであるが、その事業内容は独自のビジネスモデルというよりも、米国や中国発のものを取り入れているケースが多い。これは一つには、米国や中国にあって東南アジアにはないものが依然として存在し、それらを採用する余地が大きいためである。また、独自性の強い商品・サービスにつながるような研究成果を生み出せるほどの有力な大学や研究機関が、シンガポール以外ではほとんど存在しないことも影響している。

一方、東南アジアのスタートアップは、個人の生活上の課題を中心に課題解決型が多い。この地域全体がさまざまな課題を抱え、それがビジネスチャンスとなっているためであり、課題を解決できるのであれば、その手法の発祥地は関係ない、という考え方が浸透している。

■相次ぐエグジット
スタートアップの立ち上げの活発化に伴い、IPO(新規株式公開)やM&A(合併・買収)などのエグジット(投資資金の回収)が少しずつ増えてきた。昨年頃からは、10社前後のユニコーンがエグジットする、ないしエグジットを計画している。

スタートアップがエグジットを果たすことは、投資家や創業者が保有株式を売却してキャピタルゲインを得る点、そしてスタートアップを卒業する点で、一つのゴールである。しかしそれにとどまらず、その地域のスタートアップ事業環境をより良いものへ導く役割も果たす。IPOの場合、創業者は引き続き経営に携わることが一般的である。しかし、M&Aで経営権を手放す場合、創業者は往々にして新たなスタートアップの立ち上げに挑戦する、もしくは、次はスタートアップを育てたいとして、投資家などスタートアップを支援する側に回る。スタートアップのチーム・メンバーも、IPOであれM&Aであれ、ストック・オプションの行使によって得た資金などを元手に、自分でスタートアップを立ち上げたり、スタートアップを支援する側に回ったりすることが多い。しかも、創業者およびチーム・メンバーは、新しいスタートアップを設立するにせよ支援するにせよ、それまでに蓄積した経験を活かし、経験不足に起因する失敗や回り道を回避する手段を提供することができる。

東南アジアでエグジット、しかもユニコーンによる大型エグジットがここにきて増加していることは、世代交代に加えて、スタートアップの事業環境の一層の拡充に向けた動きと捉えることができる。こうした点を踏まえると、東南アジアのスタートアップは発展の第1段階を終え、次の第2段階に移行しているといえる。

■スタートアップ事業環境の拡充
東南アジアのスタートアップを巡る状況について、発展の第1段階の初期にあたる10年前と、第2段階に突入した現在を比較すると、多くの点で変化がみられる。

まず、ヒトの面で、スタートアップを立ち上げようという人材が、10年前は限定的にとどまり、実際に立ち上げた人は、初めての起業であり相談相手も少なく、手探りで事業を運営せざるを得なかった。現在では、社会でスタートアップが認知され、ロールモデルも相次ぎ出現していることから、立ち上げ希望者が大幅に増えている。創業者の顔ぶれも多彩になった。また、カネの面では、前述の通り、スタートアップへの投資資金は10年前には少なかったが、スタートアップの数が増え将来性への期待も高まるにつれて、域内でのVCの設立や海外VCの進出などを通じて、投資資金が大幅に増加した。さらに、サポートの面で、10年前はほぼ皆無であったスタートアップの育成プログラムやエンジェル投資家が出現し、各国政府がスタートアップ促進策を講じるようになるなど、スタートアップの支援体制の拡充が進んでいる。

このように東南アジアのスタートアップの事業環境が改善するなか、スタートアップが手掛ける事業領域も拡大しつつある。これまでは、個人を巡る買い物、移動、決済の課題を解消するためのオンライン・ショッピング、配車アプリ、モバイル決済など、個人向け事業が中心であった。しかし最近になって、業務効率化やデジタル化の支援など、企業の課題解決に挑む事業が相次いで登場している。東南アジアのスタートアップが個人の不便・不自由の軽減に貢献してきたように、今後は企業の生産性向上に貢献することが期待される。
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