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ビューポイント No.2021-014

米国「大離職時代」の背景とその含意ー強まるインフレ圧力が求める日本の政策転換

2022年03月23日 山田久


コロナ禍を経て、米国には「大離職時代(the Great Resignation)」が到来している。自己都合退職者の雇用者に占める比率が2001年以来最高水準を記録し、時間当たり賃金も大幅な上昇をみせている。米国の労働市場の状況を職種別にみると、運輸関係、製造関係、建設関係、サービス関係など、現場系職種で雇用者数が伸びており、賃金についても現場系で上昇率が高いことが、これまでと大きく異なる。

「大離職時代」到来の背景には、労働供給面の要因として、90年代以降、重要な供給源となってきた高齢者がコロナ禍を契機に退職してしまったことに加え、移民の流入が大きく細ったことを指摘できる。一方、労働需要の変化が進んでいることも見逃せない。、コロナ禍におけるサービスからモノへの需要シフトやグローバルサプライチェーンの組み換えにより、米国内に製造拠点が一部回帰する動きがみられ、物流や製造関係の労働需要が高まっている。ちょうど労働需要の高まる分野で移民比率が高い傾向があり、移民の流入が細っている現在、労働力不足に拍車が掛かっているかたちである。

現下の労働需給の逼迫の背景には構造的な要因が影響しており、引き締まり傾向は容易に解消されないとみられる。ならば、インフレ圧力は根強く残り、ロシアのウクライナ侵攻による一次産品高の影響もあり、Fedは年内のみならず来年に向けても利上げスタンスを継続する方針である。より長期でみた懸念は、1970年代のようにスタグフレーションが深刻化することであるが、当時に比べれば米国の労働市場は柔軟性が高まっており、事業構造転換が円滑に進むことで、生産性の深刻な低迷は避けられる公算が大きい。ロシア・ウクライナ情勢がもたらす世界経済の分断、資源・エネルギー価格の急騰・高止まりのマイナス影響には十分な警戒が必要ではあるものの、米国経済が中長期的に深刻なスタグフレーション局面に移行することは避けられるとみられる。

以上のように、米国の大離職時代の到来は同国でのインフレ圧力が想定以上に強く長くなること示唆しており、そのわが国経済に及ぼす影響を軽視できない。米国での利上げの継続は日本の金利にも上昇圧力をかけることになり、それは国家債務が自己増殖し倒産件数が急増するリスクを高める。物価上昇圧力の強まりは、十分な賃上げがなければ実質所得を低下させ、家計に大きなマイナスが及ぶことにもなる。こうしたリスクを見据え、わが国政府は強い危機感をもって、産業・雇用構造の転換を促進して生産性向上と賃金上昇の好循環を形成することに一層注力すべきである。同時に、歳出・歳入の一体的な改革により中期的な財政再建の道筋を示したうえで、中央銀行の債務超過を回避するための政府出資の仕組みを整備するなど、金融政策の正常化への取り組みを始めることが求められる。

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