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ビューポイント No.2021-012

低インフレ局面の終焉ー米FRBは中立水準までの利上げが不可欠

2022年03月16日 牧田健


アメリカでは、供給制約等により、インフレ率とGDPギャップの関係、賃金上昇率と失業率の関係、いわゆる広義のフィリップス曲線が上方にシフトし始めている。先行き供給制約が解消されれば、インフレ率・賃金上昇率ともに鈍化が見込まれるものの、高齢化により労働参加率の大幅な上昇は期待し難く、賃金高止まりが続く可能性がある。インフレ率の上昇の長期化により、インフレ期待も上昇し始めており、FRBは早期にインフレ率の上昇に歯止めをかける必要に迫られている。

一方、コロナ以前は様々な要因が世界的にディスインフレをもたらしてきたが、その多くですでに有効性が失われている。

まず、アメリカでは1990年代以降輸入浸透度が大幅に上昇しインフレ抑制に作用したが、2010年以降そのペースが大きく鈍化している。背景にはグローバル化の停滞がある。先行きを展望しても、保護主義圧力の強まり、米中対立の激化、中国の所得水準の高まりから、輸入浸透度の一段の上昇は期待できない。

原油価格については、2000年初にかけて物価への影響低下が看取されたが、2000年以降はボラティリティが著しく大きくなっており、その影響を無視できない。先行きはむしろ、脱炭素化に向けた開発投資の減少、ロシア産原油・天然ガスの供給不安定化により、原油価格の高止まり長期化の公算が大きい。

1990年代は、「平和の配当」もあり緊縮的な財政運営がインフレ抑制に作用したものの、今やアメリカの財政は弛緩しており、先行きも、所得格差拡大等や米中対立などを背景に、財政赤字の大幅な縮小は期待できない。

足元でインフレ期待は大幅に上昇しており、インフレ低位安定効果は消失している。そもそも、インフレ期待については、当初中銀による先見的な金融政策の効果が指摘されたものの、その後適合的予想形成に言及するなど、その効果は不確か。昨今の見通しの大幅な修正により、FRBの先見力に対する信頼も低下している。

賃金の伸び抑制要因とされた数々の要因のうち、①労働需給の緩みは高齢化により縮小しているほか、②労働者の賃金交渉力の低下も、コロナを契機とする労働条件に対する要求拡大で既に消失している。また、インフレ期待も上昇している。

リーマンショック後は、FRBの大規模な金融緩和にもかかわらず貸出およびマネーサプライは増えなかったのに対し、今回のコロナ禍では、FRBの積極的な資金供給策、政府の大規模な現金給付等により、マネーサプライが急増している。

なお、アメリカの物価は、過去世界的な戦争が起こると、サプライチェーンの停滞、資源価格高騰、財政赤字拡大、労働需給ひっ迫等により、インフレが高進している。

こうした状況下、FRBは超緩和的な金融政策を早急に是正していく必要に迫られている。過去、1970年代に景気減速下でインフレ率が上昇したのに対し、1983年から90年にかけては景気拡大下でインフレ率が鈍化した。この背景には、当時のボルカー議長の下でのFRBによる引き締め的な金融政策運営が挙げられる。実際、インフレ率が鈍化したのは、不良債権問題が深刻化した1990年代前半を除き、実質FF金利が自然利子率以上に引き上げられた局面に限られる。現下のFRBは、景気失速リスクを抱えながらも、中立金利まで早急に政策金利を引き上げていかざるをえない。逆に、景気への悪影響を考慮し利上げが緩やかなペースにとどまれば、中期的にインフレ率の高止まりが定着する可能性が大きい。

一方、わが国では、賃金の伸びが弱いなか、世界と異なりインフレとは無縁の状況が当面続く可能性が高い。しかしながら、今後輸入インフレに伴うコスト高が常態化していけば、従来のようなコスト削減を突き詰める「安さ」を売りにしたビジネスではなく、コスト上昇分を価格に転嫁できる「付加価値創出型」のビジネスに変革していかねばならない。コスト増加分を販売価格に転嫁しつつ、それを原資に賃金を引き上げていくことで、足元の世界的なインフレ基調を賃金・物価ともに上昇率ゼロという「デフレ均衡」から抜け出す機会としていくことが求められる。

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