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ラストマイル配送がつなぐ元気な農村

2022年02月22日 泰平苑子


 国土交通省の令和2年度宅配便取扱実績をみると、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う購買手段の変化もあり、対前年度比11.9%と大きく増加している(令和元年の対前年度比は0.3%と横ばい)。EC(電子商取引)を用いた通信販売の利用拡大を背景に、現在は若年層から壮年層を中心にECを利用しているが、今後は高齢者の日常的な利用も進むと考えられる。高齢者には、免許返納で移動手段が限られる方、足腰が弱く重いものが持てない方も多く、若年層や壮年層に比べてECの利便性をより享受できるだろう。

 とはいうものの、人口密度が低い中山間地域で高齢者のEC利用が進み宅配便が増加すると、都市部や郊外部のような効率的な配送ができない宅配事業者の負担は大きくなる。都市部や郊外部では配送網が効率的に構築され、手ごろな配送料が設定されている。一方、海上輸送や航空輸送など陸上輸送だけでは配送が難しい場合、例えば九州、北海道、離島では配送料が高くなる。今後、同じ都道府県や市区町村であっても陸上輸送が可能な中山間地域で配送網が十分でない場合、配送料が高く設定されることも想定される。中山間地域の住民が不利益を被らないよう、宅配事業者の努力を求める声もあがるだろうが、宅配事業者と地域住民が連携し、手ごろな配送料を実現、維持する配送網を構築できないだろうか。

 中山間地域での効率的な配送網の検討において、既存の農作物の供給網に着目してみたい。農業従事者は収穫した農産物をJAの集出荷施設、道の駅や農産物直売所へ、自家用車で自ら運搬することが通常だ。農産物を出荷後、帰路では基本的に荷物は無い状態になる。そこで、農産物の出荷拠点を宅配事業者の地域配送拠点に設置し、農業従事者の帰路の自家用車を配送車両として活用した「農村ラストマイル配送」を実現できるのではないか。

 農産物の出荷拠点を宅配事業者の配送拠点に設置すると述べたが、この場合、宅配便と車両のマッチング(求貨求車)は貨物取次事業だと整理できないか検討したい。宅配事業者が輸送してほしい貨物の情報(量、種類、現在地、目的地、希望運賃等)を掲示板やデータベース等に出し、配送を担う農業従事者がこれに応募して成約した場合に、荷主と宅配事業者との契約締結に直接関与し、配送を担う農業従事者がその対価を得るという事業を想定するのである。

 農業従事者の自家用車が軽自動車(農産物の出荷で用いる軽トラックをイメージ)なら貨物軽自動車運送事業の届出(黒ナンバー)で配送ができる。ただ、自家用車が自動車(三輪以上の軽自動車及び二輪の自動車を除く)の場合は事業用自動車(緑ナンバー)となり、事業計画を伴う一般貨物自動車運送事業の許可の取得が必要になってしまう。こうした農業従事者の負担するために、中山間地域に限り、運送範囲を限定し、システムで運送状況を把握するかたちで、地域住民が自家用有償輸送として配送を担うことができよう。

 この取り組みにより農業従事者は出荷に伴う副次的収入の機会が得られる。この収益機会を起点に地域の経済活動を活性化することもできるのではないか。農業従事者が定期的に訪れる出荷拠点が、地域の配送拠点として新たな役割を担うと同時に、ネットスーパーやフードデリバリーなど新サービスの拠点に拡大していく可能性もある。中山間地域であっても、元気な農村として、農業従事者だけでなく、非農業従事者にも魅力的な地域になるきっかけを作ることができるのではないかと考えている。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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