※本概要報告は、令和2年度の東京都「保育事業者の事務負担軽減等に関する調査・分析業務委託」として実施した内容を取りまとめたものです。
【本文】
1.背景・目的
都内保育事業者においては、保護者の保育ニーズに応じて、障害児やアレルギー児の対応、延長保育など、保育サービスが多様化してきている。また、保育士の確保・定着のため、処遇改善のためのキャリアアップの仕組みを導入するとともに、保育の質の向上に向けた研修等に取り組んでいる。これらに関連する事務負担に加え、令和元年10月から幼児教育・保育の無償化が開始されたことや、昨今の新型コロナウイルス感染症の影響により、さらに事務を含む業務負担が増加しているとの懸念がある。
また、待機児童数は減少傾向にあるものの、区市町村によっては同一区市町村内で減少幅に地域差が生じている等、保育サービスの需給には偏りが出始めている。今後、待機児童解消がさらに進み、需要が充足されると、保育サービスが供給過多になる可能性も想定される。
以上の状況を踏まえ、保育事業者の業務実態、事務負担軽減等の業務効率化の取り組み事例、有効な保育施策に取り組む自治体の事例等について調査し、その結果を展開することにより、区市町村の取り組みを支援することを目的に、以下2点の検討を行った。
①保育事業者の業務効率化の検討
保育事業者が行う事務内容やICT活用状況等を含めた業務実態、自治体により異なる申請書類、他の道府県・市町村等における先行取り組み事例等について調査を行い、複数事業者による業務の集約化や事務負担軽減等の業務効率化に向けた有効な対応策について検討する。
②待機児童解消後も見据えた保育施策の検討
有効な保育施策に取り組む他の自治体の事例等の調査を行い、保育サービスの供給過多、地域偏在等に対する対応策など、待機児童解消が進んだ後の状況も考慮した施策検討を行う。
2.実施事項
以下の調査・分析・検討を行った。
①都内保育事業者等の業務実態調査
対象となる都内保育事業者の業務実態を把握するための調査として、アンケート調査、ヒアリング調査、タイムスタディ調査を実施した。ヒアリング調査については、都内保育事業者の他、都内区市町村や、システム事業者等に対しても実施した。
②自治体の取り組み事例の調査
保育事業者の業務効率化や、保育サービスの供給過多・地域偏在等に対する行政の対応策について、他道府県等の自治体の先進的な取り組み事例を調査した。
③調査結果の分析および分析結果に基づく対応策の検討
①および②の調査結果を分析し、保育事業者の業務効率化施策、待機児童解消後の保育施策等を検討した。検討にあたっては、専門的見地からの検討を行うため、外部有識者等からなる検討委員会を設置・運営した。
3.結果の概要
調査結果と対応策等の方向性の概略は以下のとおりである。
(1)保育事業者の業務実態と効率化(事務負担軽減)の方向性
①行政へ提出する書類の事務負担について
都内保育事業者では、補助金申請等の事務が煩雑で、負担が大きくなっている。申請書類に記載が必要な情報の中には、施設の基本情報、財務情報、職員情報(職務経歴や賃金含む)、児童情報といった共通する項目が存在するが、これらの情報をさまざまな様式に合わせて記入する点が負担の一因になっている。また、様式等が自治体間で異なること等も負担の一因になっている。
自治体では、保育施設の申請に係る人数の計算・入力作業の負荷軽減、施設とのやり取りの迅速化等を目的に、自治体独自のシステム導入を進めている自治体があった。
システム事業者からは、行政への申請関連 の ICT サービス 実現のためには、自治体間の申請様式や項目の共通化・標準化が必要との見解が得られ、事業者によっては、補助金申請等を対象に自治体と保育施設の申請データ連携等の取り組みを実施している。
以上の現況を踏まえ、行政へ提出する書類の事務負担軽減策として、以下の対応策(案)を検討した。
〇様式の標準化(簡素化を含む)
・国や都の様式に区市町村独自項目・様式を追加する際の基本的な考え方を示した方針の作成と周知
(例)国や都の様式を直接編集するのではなく、別シート等の追加で対応 等
〇行政への申請関連手続きのシステム化の検討
・まずは都から保育事業者へ直接補助する補助金を対象にシステム化を検討
・さらに区市町村へ提出する申請書類等にも汎用可能なシステム化の可能性を検討
(行政への申請書類等の多くに共通する項目について、統一項目で一元管理し、各申請書類様式に合わせた転記・計算の自動化が可能か等を検討)
②事業者の業務効率化に向けた取り組みについて
都内保育事業者においては、ICTサービスの活用状況、業務集約化状況等、業務効率化の取り組みに差が生じている。業務効率化に取り組んで成果を挙げている保育施設では、外部専門家等による丁寧なサポートの獲得等の成功要因があるように思われる。こうした状況下で、自治体では、すでにICTサービスを導入済みの施設がICTを生かしきるための専門家派遣およびシステム改修の支援、コンサルタント派遣、ノウハウの横展開等といった取り組み事例が確認された。また、システム事業者では、保育施設のICT化推進に向けて、コールセンターでの手厚いサポートや研修、ソーシャルコミュニティ構築等に取り組む動きも見られた。
以上、現況を踏まえ、事業者の業務効率化に向けた取り組みの支援策として、以下の対応策(案)を検討した。
〇ICT利活用を促進するための事例・ノウハウ展開
・文書による事例・ノウハウの展開(ICTサービスの最新動向の紹介、ICT の有効活用や業務効率化の積極的な推進を行っている保育所等における工夫点・成果等の紹介等)
・情報共有の場の提供(勉強会、発表会の開催等により、 ICT 導入にハードルを感じている管理職等の懸念に対し参考情報を提供等)
〇補助事業による保育事業者の取り組みの支援
・各保育事業者の業務の外部委託費用を補助(給与計算・支給、財務会計等)
・外部専門家への委託費を補助(ICT導入・定着化支援、業務分析・改善推進支援、推進リーダー育成支援等) 等
(2)待機児童解消後を見据えた保育施策の方向性
保育サービスの需給ギャップ・地域偏在対策に関する取り組みとしては、供給過多対策の取り組み事例は少なかった。
自治体の取り組み事例や検討委員会の委員の意見から、待機児童解消後を見据えた保育施策の選択肢としては、以下が考えられる。
①広域利用推進コーディネーターの配置
②自治体独自の保育室の活用
③従来利用していなかった世帯の需要喚起
④保育士の配置方法の見直し
⑤他の福祉サービスとしての利用
⑥共用施設としての利用
⑦保育実習・体験機会の提供
本調査・分析の詳細については報告書に取りまとめています。報告書は、東京都福祉保健局のウェブサイトを参照ください。
以 上