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JRIレビュー Vol.2,No.97

アフターコロナの女性雇用と地方創生ー主成分分析に基づく提言

2022年02月03日 藤波匠


東京圏の転入超過者は、2009年以降、女性が男性を上回って推移している。コロナ禍にあって東京圏への転入超過が急減する状況下でも、こうした傾向に変化はみられない。政府の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」においては、女性の地方からの流出を問題と認識しており、女性活躍推進策などによって地元への定着を図ろうとしているが、効果は上がっていない。

本レポートでは、女性を取り巻く地域特性を、都道府県別データによる主成分分析によって見出された『労働に関する特性』と『女性活躍指数』の2軸によって概観したうえで、女性の地域間移動を生む要因について分析し、その結果に基づき、東京圏一極集中の是正のための政策について検討を行う。

『労働に関する特性』によって、東京などの大都市は「賃金水準」が高く、「大卒者の人口比率」が高いキャリア志向であり、地方の各県は「公務員比率」が高く、「勤続年数」が長い安定志向であることが観察された。

一方、『女性活躍指数』は、「母子世帯比率」や「正規雇用比率」、「労働力率」、「保育所の余裕度」、「三世代同居比率」などによって構成される。東京都のほか、北陸3県(富山県、石川県、福井県)などは、女性の対外的な活動の制約が小さいことが示唆された。暮らしやすさのランキングでたびたび上位に位置づけられる北陸3県は、賃金水準が低く、キャリア志向とは言い難いものの、女性の対外的な活動の制約は小さく、多くの女性が同じ職場で長く働く傾向にある。

主成分分析により求められた二つの評価軸と各地の転入超過率の関係をみると、『労働に関する特性』と各地の女性の転入超過率の相関は高く、女性の人口移動は、安定志向を示す指標の高い地域から流出し、キャリア志向の高い地域に流入している構図がみてとれた。なお、今回の分析では、『女性活躍指数』と各地の女性転入超過率の間に相関はみられなかった。

女性の地域間移動が、『労働に関する特性』と相関が高い背景に、女性の高学歴化に伴うキャリア志向の上昇があると考えられる。4年制大学への女性の進学率は51%で、引き続き上昇傾向にあり、早晩55%程度で横ばいの男性と同水準になる可能性もある。近年、東京などに拠点を構える企業において、IT分野などにおける高度人材の獲得競争が生じている。高度人材市場の過熱は、男性に限らず女性にまで広がりをみせており、コロナ禍にあっても、大都市における女性の正規雇用は堅調に推移した。

単純に有効求人倍率だけを比較すれば、2015年以降、東京よりも地方の方が高い数値を示しており、地方に女性向けの仕事がないわけではない。仕事があるにもかかわらず、女性の流出を食い止めることができないのは、地方の仕事の内容や待遇面が、高学歴化しつつある女性のニーズに対応できていないためと考えられる。高賃金の大卒雇用機会が多い東京圏の女性吸引力は、女性自身のさらなる高学歴化も手伝って、今後一層高まることが予想される。

地方創生の文脈において女性の地方定着を図るためには、これまで取り組まれてきた「女性が働きやすい環境づくり」にとどまらず、地方においても、女性の高度人材を生産性向上や事業拡大の担い手として有効活用する企業群の存在が必要となる。そのためには、①本社機能・研究開発拠点等の地方誘導、②設備投資やIT投資、人的資本投資に対する優遇措置、③地方の中小企業経営者に対する高度人材採用に向けた啓発などを通じ、高い知識・スキルを身につけた女性を高度人材としてしっかりと処遇できる雇用機会を各地方で創出することが不可欠と考えられる。
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