コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経済・政策レポート

JRIレビュー Vol.6,No.101

子どもの権利保護・促進のための独立機関設置の在り方

2022年02月03日 池本美香


こども家庭庁といった行政機関設置とは別に、子どもの権利の保護・促進のための独立機関(以下、独立機関)設置を求める声が高まっている。その背景には、国連子どもの権利委員会の要請がある。同委員会は子どもの権利条約批准国(わが国も批准)に対し、かねてより独立機関の設置を求めきたものの、わが国は今もそれに応えていない。では、子どもの権利保護が万全かといえば、決してそうではない。本稿では、独立機関とは一体どのようなものなのか、設置を推奨している国連子どもの権利委員会の考え方、諸外国における設置動向、具体的な活動内容、および、独立性確保のための制度設計について分析したうえで、わが国に設置する際に重視すべきポイントを考察する。

独立機関は、ノルウェーが1981年に最初に設置し、その後2002年には国連から、子どもの権利条約批准国に設置を求める文書が発出され、2012年時点で地域レベルの設置も含めれば70カ国以上に広がっている。その3分の1は子どもの人権のみを扱う単独機関となっている。残り3分の2は必ずしも子どもの人権に特化しない国内人権機関内に設けられているものの、その際も、子どもコミッショナー、あるいは、子どもオンブズマンといった専門の部局が置かれるケースが多い。

独立機関の機能は、①子どもの権利の実現状況を調査し、必要な改善を促す政策提言、②子どもの権利について人びとの理解を促す人権教育、③相談・苦情の受付や子どもの施設の訪問などを通じた人権救済、の三つに整理できる。こうした機能を備える独立機関は、法律に基づいて設置され、独立した立場から見解表明や政策提言を行うために、政府とは一定の距離を置き、活動に必要な調査権限、職員、財源を持つことが国連子どもの権利委員会から期待されている。

独立機関の具体的な活動をみると、まず、政策提言としては、選挙権のない子どもの声を議会に届けるために、法案に対する提案書や法改正を求める意見書の発出、いじめや新型コロナウイルス感染症によるロックダウンの影響など、子どもの権利侵害について調査し問題提起する報告書の作成、メディアに対するプレスリリースなどがある。独立機関の活動の成果として、保育者や教員の犯罪歴チェック義務化、子ども家庭省の設置、子どもの権利条約の法制化などにつながった国がある。

次に、人権教育については、教師などの専門家に対する研修のほか、子どもに条約の内容や独立機関の活動について伝えるために、動画の活用、少数言語や分かりやすい言葉での情報発信、年次報告書の子ども版の作成などの工夫がみられる。

さらに、人権救済としては、子どもからの相談を受け付ける窓口の設置、少年矯正施設など自由が制限されている場所にいる子どもの状況のモニタリングなどがある。海外の多くの国には、独立機関とは別に、行政機関に対する市民からの苦情を受け付け、必要な勧告を行うオンブズマンと呼ばれる機関が置かれているが、独立機関は子どもの問題に焦点を当て、民間の活動を含むより広範囲の権利侵害を扱うことにより、オンブズマンの機能を補完している。

こうした独立機関には、政府の監視も重要な役割として期待されていることから、政府と一定の距離を保つ方法が模索されている。独立性確保の観点から、独立機関を行政府ではなく、国会に設置し国会の予算で運営する方法や、行政府内に設置するものの、所管大臣は独立機関に一切指示できないなどの厳格なルールを定める方法などがみられる。

翻って、わが国の状況をみると、著しく立ち遅れていると言わざるを得ない。わが国は、独立機関の不在に対し、国連から何度も是正勧告を受けているが、政府は人権擁護委員制度で事足りているという立場を取ってきた。人権擁護委員とは、法務大臣によって委嘱されるボランティアが人権相談などの活動を行うものに過ぎない。この間、1994年度から人権擁護委員のなかから「子どもの人権専門委員」を指名する制度が設けられはしたが、国連からは「政府からの独立性並びに権威および力を欠いている」と指摘された。自治体レベルでの独立機関の設置もみられるが、国連からはやはり独立性を欠いているなどと指摘されている。

独立機関の設置は急務であり、設置に際しとくに次の5点が重視されるべきである。
・政策提言機能の確保。そのために必要な専門性を備えた職員、十分な予算、行政文書や施設にいる子どもにアクセスできる権限を独立機関に付与する。
・積極的な情報発信。ホームページでの情報発信はもちろん、議会での意見陳述、メディア向けプレスリリース、取材対応などを通じ、政府の問題点をも指摘できる独立性が必要である。
・子どもの権利の周知。子ども自身、教師などの子どもとかかわる大人、企業に対し、子どもの権利についての理解を促進する。
・人権救済機能の集約・強化。現在、子どもの人権救済機能としては、スクールカウンセラー、児童相談所、行政の教育相談、人権擁護委員などあるが、機能分散の弊害があるうえ十分に機能していない。人権救済機能を独立機関に集約・強化する。
・国および自治体への設置。国レベルでの設置については、生命線である独立性確保の観点から、行政府内ではなく国会への設置が検討されるべきである。
経済・政策レポート
経済・政策レポート一覧

テーマ別

経済分析・政策提言

景気・相場展望

論文

スペシャルコラム

YouTube

調査部X(旧Twitter)

経済・政策情報
メールマガジン

レポートに関する
お問い合わせ