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JRIレビュー Vol.11,No.95

アフター・コロナにおける中小企業の回復に向けた課題ー世界金融危機後の中小企業の回復過程を参考に

2021年11月19日 安井洋輔


2020年に勃発した新型コロナウイルスの感染拡大により、わが国の経済活動は急激に落ち込み、中小企業の利益も大幅に悪化した。この間、政府・日銀の資金繰り支援により、中小企業は借入を増やすことで、倒産を回避できている。2021年10月時点では、ワクチン接種の進展によりコロナ禍が最悪期を脱しつつあるが、今後、中小企業が利益を回復し、借入金の返済に目処をつけるためには、中小企業自身および政府に何が求められるのだろうか。こうした問題意識のもと、コロナ禍と並ぶ経済危機であった世界金融危機を例に、利益が急激に悪化した中小企業は、その後どのように利益を回復させていったのかについて分析した。

分析結果によると、危機発生から5年後までの間に回復できた企業(早期回復企業)は、回復が遅れた企業(回復遅延企業)に比べて、その後のROAや労働生産性、賃金といった業績パフォーマンスが優れている。早期回復企業には以下の特徴が指摘できる。第1に、コスト削減を果断に行った点である。危機に直面した後、売上が減少するなか、コストをそれ以上に削減することで、危機前の利益を回復できた。これに対し、回復遅延企業は、コスト削減が十分になされていない。第2に、政府の財政支出が下支えした点である。早期回復企業の割合を業種別にみると、建設業や運輸・郵便業が高い一方、飲食・宿泊業や不動産業が低かった。この背景には、危機後に行われた政府による公共事業の拡大が、建設業や運輸・郵便業に属する中小企業の売上増加に貢献した一方、直接の財政支援がなかったサービス消費の低迷が続くなか、飲食・宿泊業や不動産業などの売上は伸び悩んだことがある。

以上を踏まえると、アフター・コロナにおいて中小企業の利益をできるだけ早期に回復させるためには、次の2点が求められよう。第1に、中小企業による不採算事業の整理とデジタル技術の活用よるコスト削減である。コロナ禍は外的なショックではあるものの、生活様式の変化といった構造変化も伴っており、これによって利益を上げられなくなった事業を整理することは必要不可欠である。他方、デジタル技術を活用すれば、生産の効率化につながる。第2に、コロナ禍により利益が大幅に悪化している業種をターゲットにした財政支出の拡大である。早期回復にはコスト削減が必要ではあるものの、急減した売上に見合う程度のコスト削減を多くの中小企業が行えば、失業者の急増、家計所得の急減につながり、ひいては個人消費の低迷を背景に経済活動全体が下振れするリスクがある。これを防ぐためには、政府による積極的な財政支出が求められる。コロナ禍では、飲食・宿泊業、旅行業などへの打撃が大きいことから、公共事業ではなく国民向け観光支援事業の再実施といったサービス消費を下支えするような財政支出が求められる。

もっとも、コスト削減や財政支出による下支えを行った後も回復が一向に見込まれない中小企業に対しては、追加融資や補助金で事業継続を図るのではなく、事業売却や信用保証協会による代位弁済、廃業を進めていく必要がある。実際、世界金融危機時においても、危機前から赤字であった非回復企業は縮小均衡に陥っており、資金繰り支援等の効果が見られなかった。こうした中小企業の経営者は、苦しい思いをしながら事業継続に固執するのではなく、近年、成長しているM&A支援を行う事業会社や金融機関等を通じて、事業価値を理解し、適正な価格で事業を購入してくれるファンドや他企業に買収してもらう道を模索することも肝要である。政府としては、事業売却や廃業を決断する中小企業の経営者やその従業員がスムーズに次の職を見つけられるよう、必要に応じて当面の生活費を支援しつつ、スキルの学び直しの機会を提供することが求められる。経営者は雇用保険の被保険者ではないケースもあり、政府は一刻も早く雇用保険の適用がない人でも利用できる求職者支援制度や公的職業教育訓練を拡充していく必要がある。
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