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アジア・マンスリー 2021年11月号

電力不足が中国経済の足かせに

2021年10月28日 関辰一


中国では、電力不足が景気の足かせとなっている。主因は、石炭の不足と価格高騰である。電力・石炭不足は年明け後に解消に向かうとみられるものの、それまでは製造業生産の抑制要因になるだろう。

■電力不足で製造業生産が下振れ
中国では、地方政府が電力の供給を抑制する動きがみられる。電力供給制限は、春頃から広東省など一部の地域で始まり、夏場には31省・市・自治区のうち北京市や上海市を含む20地域に広がった。発電量は、本年入り後に前年同月比10%程度の増加が続いていたが、8月に前年同月比+0.8%へ急速に鈍化し、9月も同+4.9%と低い伸びにとどまった。

発電量は通常、製造業の生産量など使用量に応じて受動的に決まるが、最近の中国では、逆に発電量の制限が製造業の生産量を抑制している。9月の工業生産は前年同月比+3.1%と2020年3月以来で最も低い伸びとなり、7~9月期の実質成長率は前年同期比+4.9%と前期の+7.9%から急減速した。製造業生産の増勢鈍化は、新型コロナ感染者数の減少により活動制限が緩和されたことで、営業活動が持ち直した非製造業と対照的な動きである。多くの製造企業が、計画停電の通知を受け取り、工場の操業を調整した。なかには、事前予告なしに電力供給を遮断されたケースもある。

日本企業の現地法人も、電力供給制限の影響を受けた。広東省の日系企業を対象としたジェトロの調査によると、回答企業の過半数が1週間の大半で8時から23時までといった長い時間帯で電力供給を制限された、との結果であった。自動車、電気機械、電子部品、プラスチック製品、金属製品などの企業で電力供給制限を受けたとされる。一部の地方政府は10月末まで制限を続けると日系企業に伝えており、現地では、少なくとも10月末まで制限が続くとの見方が多いという。
製造業だけではなく、個人や非製造業、公共部門も電力供給に一定の制限を受けた。国有メディアの新華社によると、地方政府の電力供給制限によって、給湯器やエレベーター、市内の信号機が止まる事態もみられた。

■石炭不足・石炭価格の高騰が背景
こうした事態の主因は、石炭不足とそれに伴う石炭価格の高騰である。中国媒炭運送販売協会(CCTD)によると、8月末の全国の石炭企業の在庫は前年同月比▲29.0%の4,800万トン、全国の火力発電所の石炭在庫は同▲25.7%の1.0億トン、主要港の石炭在庫は同▲24.2%の5,226万トンと、在庫水準は極めて低い。代表的な発電用石炭価格であるCCTD秦皇島一般炭(5,500kcal)価格は9月末に前年同月比91.7%上昇した。

政府が電力の自由化を進めるなか、制度上では2020年から電力企業は電力価格を基準電力価格に対して10%を上乗せできるようになり、実質的には2021年から価格の上乗せが始まっている。しかし、原材料となる石炭価格の急騰で、電力企業は相次ぎ採算割れとなっており、地方政府は傘下の電力企業の生産調整を容認せざるを得ない状況にあると考えられる。
中国の石炭不足の背景として、以下の3点が挙げられる。第1は、政府による石炭生産の抑制である。政府は、安全基準の強化や環境対策の強化、汚職摘発を理由に、内モンゴル自治区や山西省、陝西省などの地域で、炭鉱の稼働を停止してきた。国家統計局によると、2020年の石炭生産量は前年比+0.9%増の38.4億トンにとどまり、2021年1~9月も前年同期比+3.7%と低い伸びとなった。中国媒炭工業協会によると、2020年末時点で、全国の炭鉱数は約4,700カ所あるが、2025年までに約4,000カ所まで削減する計画である。

第2は、政府による石炭輸入の抑制である。中国政府は、新型コロナの起源に関する調査を要求した豪州政府への反発から豪州産石炭の輸入を非公式に禁止した結果、2020年1~6月に5,588万トンであった豪州からの輸入量は2021年1~6月にゼロとなった。一方で、国別輸入量で3年連続首位のインドネシアからの輸入量は同8,428万トンから8,505万トンと横ばいで推移し、米国、南アフリカ、コロンビアからの輸入量が、それぞれ同100万トン未満から387万トン、344万トン、250万トンへ増加したものの、豪州産の減少分を相殺するには至らず、世界からの輸入総量は同1.7億トンから1.4億トンへ大きく減少した。

第3は、国内の石炭需要の拡大である。2020年、中国の経済成長率は主要国の中で唯一プラスとなった。政府が、早いタイミングで活動制限を緩和し、インフラ投資や国有企業の設備投資を促進したほか、輸出も情報通信機器や医療用品を中心に大幅に拡大した結果、主要な石炭需要家である電力企業や鉄鋼業は、生産水準と原材料の調達量を大幅に引き上げた。

■電力・石炭の安定供給を急ぐ政府
こうしたなか、政府は電力・石炭不足の解消策を矢継ぎ早に打ち出した。まずは、国家石炭備蓄の放出である。政府は2021年1~7月、4回にわたって500万トン以上の国家石炭備蓄を市場に放出した。7月時点で、備蓄基地には約4,000万トンの石炭在庫があるとされる。

石炭生産の抑制も緩和された。政府は8月、期限切れを迎える炭鉱の1年間の延期によって、15カ所の炭鉱(生産能力は計4,350万トン/年)の生産を再開させた。また、内モンゴル・オルドス市で土地手続き不備によって生産停止していた炭鉱の土地使用を承認することで、38カ所の炭鉱の生産を再開させた(生産能力は計6,670万トン/年)。これら53カ所の合計生産能力は昨年の全国石炭生産量の3%となる。9月と10月には追加で153カ所の炭鉱に生産を許可した(生産能力は計2.2億トン/年、本年10~12月期の石炭生産量を5,500万トン押し上げると当局は予測)。

加えて、融資拡大などを通じて電力企業や石炭企業を支援している。金融当局は、電力企業や石炭企業に向けの融資拡大を金融機関に要請している。9月の石炭輸入価格は前年同月比+89.5%と高騰したものの、政策支援によって石炭輸入量は3,288万トンと同+76.1%と大幅増加した。

これら措置を受けて、10月8日の主要8省の火力発電所の石炭在庫は1,925万トンと、9月20日から200万トン増加するなど、石炭在庫に持ち直しの動きがみられる。

一方で、政府は一定の電力価格上昇を容認することで、電力需要の抑制を狙っている。政府は10月、電力企業が電力価格を基準電力価格に対して20%を上乗せすることを許可した。エネルギー消費量の多い業種に対しては、さらに価格を上乗せすることもできる。なお、政府は家計や公共部門、電力消費量の少ない企業に対して電力を優先的に供給する一方で、電力消費量の多い企業の生産活動を抑制すると表明している。このほか、政府は再生可能エネルギー事業に対する支援やロシアからの電力調達拡大などの措置も講じている。

現時点における石炭在庫の少なさや冬場の電力・石炭需要の拡大などの懸念材料は残るものの、以上のような政府支援によって、電力・石炭不足は年明け後に解消に向かうとみられる。もっとも、それまでは引き続き製造業生産の抑制要因になる可能性が大きい。
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