Economist Column No.2025-046
大阪・関西万博は何を残したのかー「人」に関するレガシー
2025年09月25日 石川智久
■終盤に向けて活況を呈した大阪・関西万博
2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)は10月13日に閉幕する。当初は批判もあったが、9月20日時点で一般来場者数は2,053万人(関係者を含むベースでは2,344万人)を超え、収支についても黒字化の見通しが立っている。予約関係等で反省すべき点もあるが、総じてみれば成功裏に終わりそうである。
こうしたなか、万博のレガシーに関する議論が盛り上がりつつある。そこで、今回の万博に様々な形でかかわり、準備段階から現在に至るまでを見てきた筆者が考えるレガシーについて述べたい。
■レガシー①:人々に成功体験と一体感を与えたこと
まず、万博に関わった人々に大きな自信と一体感を与えたことである。特に、開催前の批判が激しかったからこそ、それを乗り越えたことで、多くの関係者は自信や誇りを得たとみられる。また、大阪・関西は1970年万博以降、日本経済に占める地位が低下してきており、成功体験が乏しい状況が続いたが、今回の万博を成功させたことは地域に大きな希望を与えている。そして、万博を核に一体感も生まれてきた。この成功体験から来る自信や一体感は、万博後のまちづくりにおいて大きな力を発揮すると期待できる。
■レガシー②:全国だけでなく全世界に人的ネットワークを広げたこと
万博は、大阪・関西だけでは完成できない大きなプロジェクトである。中央省庁の協力も仰ぎながら、全国の自治体や企業にも建設や運営面で力を借りてきた。そして、パビリオン等に出展する各国とも連携した。準備段階は当然のこと、当日の運営、パビリオンの内外での商談などで、全世界の人々と人的ネットワークを構築することができた。
万博を通じて生まれた信頼関係と人的ネットワークは大変貴重なものであり、大阪・関西ひいてはわが国の今後の発展にこのネットワークを拡大していくことが重要である。
■レガシー③:こどもたちが世界の今と未来を実感したこと
最大のレガシーは、「こどもたち」である。万博会場では遠足等で来場した小中学生たちを多く見かけた。そして、彼らは様々なパビリオンを巡ることで、「世界の今」と「人類の未来」を感じることとなった。特にアフリカなど、わが国とそれほど縁が深くなかった国々が多数出展しているコモンズ館が人気を博したことは、世界との距離を縮めた証左といえる。各国の展示ブース等にはスタンプがおかれ、それを巡ってスタンプラリーをしている人々が目立ったが、多くのこどもたちがそれを楽しみ、それをきっかけに世界の国々に興味を持つようになった。筆者も多くの人々から「万博を訪れたこどもたちが世界に関心を持つようになった」といった話を数多く聞いている。万博会場で目を輝かすこどもたちは「明るい未来」を多くの人々に感じさせ、遠くない将来に若い人々の中から世界に羽ばたく人材が多数生まれることを予感させている。
■これらのレガシーをどう生かすのか
これらのレガシーは、万博という世界的かつ巨大なイベントだからこそ、また、1970年と2025年の万博を成功させた大阪・関西だからこそ生まれた、大きなレガシーである。技術や商品のように目に見えてわかりやすいものではないが、大阪・関西の人々をはじめとする関係者・来場者の心に確実に残っているものである。こうしたレガシーをうまく活かして、さらなる歩みを進めることが重要である。
大阪・関西では、うめきたなどの再開発が進んでいるほか、今後、カジノ付き統合型リゾート(IR)の開業を控えている。地域ひいてはわが国全体の持続的な成長・発展のためには、今回の万博の成功で満足してその余韻に浸るだけではなく、この勢いを続ける努力をしていく必要がある。
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