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IT時評:「次の一手を読む」

第2回「『最後の護送船団』業界が解体するとき~民放も例外ではない」  

出典:日本経済新聞「NIKKEI NET」 2006年3月27日

 NHKの肥大化によって「受信料制度」「公共放送の枠を超えた番組」「地方におけるNHKの過大な権益」などが弊害として指摘されている。こうした 「巨人としてのNHK」が民放の健全な発展を妨げているのではないかというわけだ。前回取り上げたNHK改革論議はここに端を発している。

 だが、その民放もやはり、“最後の護送船団”とも言える旧態依然たる状況が続き、多くの問題を抱えている。 

あらがいきれない通信と放送融合の流れ

 経済対策などで国がどんな失策を重ねようと、技術は進んでいく。そうした技術革新に裏付けられた製品やサービスが消費者ニーズを刺激する。両者は相互に関連し、これが発展に向けた基本的なけん引力となる。「通信と放送の融合」はその象徴だ。

 インターネット(通信)と放送は、いまのところすみ分けの関係にある。しかし、当初補完関係にあった財やサービスが、やがて代替関係となり、主従が逆転した(しそうな)ケースはいくつもある。古くはレコードとCD、最近ではCDとiPod。アナログカメラとデジカメもそうだ。これらのケースでは、いずれもデジタル技術が下敷きにある。

IP放送はなぜブレイクしないか

 こうした技術進化と消費者ニーズの変化・多様性に、放送業界は十分応えているとは言いがたい。象徴的な例として、「通信と放送の融合」に不可欠なIP放送が、なぜ普及しないかを制度面から分析してみよう。

 技術的に通信と放送の融合が進むと、両者の垣根が無くなる。いまはパソコンでも放送コンテンツを楽しめるようになった。インターネットを使ったIP放送という方式でだ。しかし、放送コンテンツすべてか、というとそうなっていない。制度上は垣根が存在するわけだ。

 有線テレビジョン放送では、放送事業者(地上系・BS系・CS系)のテレビ放送またはテレビ多重放送を受信し、そのすべての放送番組に変更を加えないで同時に「再送信」(2次流通)できる。一方、2003年7月にサービスが始まった「BB TV」(ヤフー)や「光プラスTV」(KDDI)などのIP放送ユーザーはなかなか増えない。5万~10万円もする高価なSTB(セット・トップ・ボックス)が必要だというのも、ネックであることは確かだ。しかし、IP放送は有線役務利用放送として制度化されているにもかかわらず再送信をすることができないという、供給者にはめられた制約のほうがよほど問題だ。

 現在、NHKや民放各社は「映像品質が見劣りする」(技術)、「放送対象の地域を越えてしまう」(県域免許)などを理由に、地上デジタル放送の再送信を認めていない。これが、IP放送普及の最大の障害となっているというのが実態に近いだろう。

再送信・2次流通前提のビジネスモデル構築を  

 筆者の見方はこうだ。技術面では、閉域的な仕組みであるIP網は映像品質も高いので問題ない。県域を越える放送は、より多くの視聴者にコンテンツを楽しんでもらえるのだから、顧客である広告主にとっては歓迎すべきことだ。

 残るのは著作権の問題だけだ。確かに複雑に絡み合った権利関係を解決し、コンテンツを流通させることは至難の業だろう。しかし、コンテンツによっては、古いものは急速にその経済的価値を失う。したがって、その流通を促進する仕組みを確立しておく必要があるだろう。

 たとえばコンテンツ制作の時点から、放送局などのコンテンツホルダーと権利団体(または個人)との間で、2次流通や再送信を前提とした合意をとりつけておく。権利クリアランスシステムを介在させることも効果があるかもしれない。別の表現をすれば2次流通を前提とした(いわば通信と放送の融合を前提とした)ビジネスモデルを描くことだ。  

「広告主・消費者のニーズは何か」を見直そう

 コンテンツ流通の鍵を握るのは広告主だ。彼らは数の論理で動く。インターネット人口が今後も増え、ブロードバンド通信網やパソコン・携帯電話などを媒介とした動きが加速している。これまでの放送網以外のルートでコンテンツを視聴する消費者の数が一定レベルに達すれば、広告の流れもシフトする。一方、消費者には放送網も通信網もない。「おもしろいコンテンツ」を入手することだけに関心がある。

 こう考えてくると、コンバージェンス(通信と放送の融合)の流れは、技術革新や消費者ニーズを追い風に、放っておいても一層加速するだろう。関係業界がその将来を見通して、再送信や2次流通を前提としたビジネスモデルを構築することが急務というわけだ。

 放送業界が、規制や制度で守られた状況下で延命策を取り続けることは命とりになる。「通信と放送の融合」を阻む垣根を取り除いておくことは、放送業界にとってもプラスになるだけではない。ひいては国富の増加に寄与することにほかならない。

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