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通信と放送「融合」の具体像
(「融合」の最前線:普及しない「インターネットでテレビ」)  

新保豊

出典:週刊エコノミスト 2005年5月3・10日合併号

“通信と放送の融合”最前線

 「通信と放送の融合」というキーワードが再び注目されるようになっている。が、その実像はなかなか見えてこない。あまりにも、曖昧模糊としたキーワードだからだ。ただ一部ではすでに、通信と放送の「融合」を具体化させたサービスが始まっている。インターネット回線でテレビ番組が見られるというものである。インターネットという通信インフラを利用して、放送を行っているという点で融合の一形態と言えるだろう。これが可能になったのは、2002年に施行された、通信回線を利用した映像配信に関する法律である「電気通信役務利用放送法」による。

 これらのサービスを提供する事業者は、電気通信役務利用放送事業者と呼ばれ、大きく二つに分けられる。一つは、インターネットの基本的な技術であるIP(インターネット・プロトコル)と番組の映像信号を混在させてデータを送信して、テレビに映す「IP系」、もう一つは、1本のネット回線でありながら、IPと映像信号をそれぞれ区別してデータ送信する「放送系」だ。

 この二つの大きな違いは、地上波やBS(衛星放送)などの番組をIP系は放送できないが、放送系は放送できる(同時再送信)という点にある。これは、放送と通信の著作権処理方法の違いに由来する。放送は、「ブランケット」方式と呼ばれる包括的な権利処理が認められているのに対して、通信の場合は、あくまでも一つひとつの権利を個別に処理しなければならないと決められている。IP系はIPと映像信号を混在させてしまうために、地上波やBSなどで放送される番組を流せないという取り決めになっている。

レンタルビデオよりも安く映画を観られる

 そのIP系では、KDDI本体が運営する「光プラスTV」、ソフトバンクグループのソフトバンクBBなどが運営する「BBTV」などがある。放送系では、関西電力グループのケイ・オプティコムが運営する「eoTV」、NTTグループのプロバイダーであるぷららネットワークスらが運営する「4thMEDIA(フォースメディア)」、CS放送のスカイパーフェクTVのグループ会社オプティキャストが運営する「ピカパー」などがある。

  IP系、放送系ともに番組を見るためのアンテナやテレビチューナーは不要。代わりに、映像信号を受信して、テレビやパソコンなどに映すためのセットトップボックスが必要となり、月額500円程度のレンタル料金が必要となる。

 提供される番組を視聴するための料金は、まずは光回線利用料が月額7000円弱程度かかる。そして、映画などを選択して好きな時に見られるオンデマンド型コンテンツの視聴に、1~3日間自由に見られて約100~500円程度だ。旧作の映画であればレンタルビデオで借りるよりも安いケースもありうる。提供される映画の作品数はハリウッド発を含め1500~5000近く。これだけあれば視聴者の多様なニーズを満たすことができるはずである。

 国内最大のネット接続サービスであるヤフーBB上で提供されるIP系のBBTVは、マンション向けが月額4189円と、光プラスTVよりも安価であり(光プラスTVはネット接続と合わせて月額6615円)、「無線TV BOX」を別途接続すると、地上波のテレビ(アナログ)を見ることができるようになる。

 また、放送系のeoT.V.では、工事費を含めた初期費用として8万8725円払えば、月額3675円で79チャンネル分を楽しめるが、初期費用が何とも高い。フォースメディアは5229円の初期費用のほかにセットトップボックスに当初2万6250円必要だったものが、その後1万5750円に値下げされた。

 ピカパーでは、初期費用が大きく抑えられ、同軸ケーブル1本で、地上波放送の番組を含め、スカパー!のほぼ全チャンネルも楽しめる。映像回線料はマンション1棟で1万8000円、マンション管理費から利用料が一括徴収されるというビジネスモデルだ。

顧客拡大に必要なコンテンツ

 ここに挙げた、テレビサービスを提供する事業者または親会社は、インターネット接続と固定電話の通信サービスを提供することが中核事業だ。つまり、各社のテレビサービスは、ネット接続と固定電話などを合わせて提供することで、顧客数を拡大させようという事業戦略を取っている。

 表に05年4月現在の、各通信会社のテレビサービスの契約数をまとめた。普及率は全国世帯数を分母にしているために、軒並み0.1%にも満たない。仮に、各社が当面の目標とする、例えば首都圏などの暫定世帯数を分母にしてみても、0.3~0.11%程度だ。開始後の時間経過からして、揺籃期とも位置づけられるが、「テレビ」をつなぐ「ネット基盤」に依るモデルであるために、総じて普及速度は遅く、勢いが感じられない。

  しかし今後、技術や“放送”するコンテンツの整備などに絶えずイノベーション(技術革新)が生起し、収穫逓増型の様相を帯びてくれば、通信と放送の「融合」ではなく、これまでにはなかった価値を提供できるという点で「統合」になりうることもある。

 いずれにせよ、ネットテレビが普及するためには、やはりコンテンツがカギとなる。ヒット率は小さくても、確実に収益が出るコンテンツを安価に調達するには、コンテンツ供給体制の整備が不可欠だ。良質なコンテンツの獲得は投資額に依存する、つまり、リスクが伴うために、1)すでに儲かっている別の事業ラインからの安定投資ができる組織体制(コングロマリット化)の実現、2)一度に大量のコンテンツを提供してくれる事業者との関係、あるいはそのための仕掛け―――が求められることになる。

 そのためには、①NHKの民営化や地上波のローカル局、ケーブルテレビ局を含んだ業界再編を促す産業政策、②価値あるローカルコンテンツを生み出して広く流通させ得るコンテンツ供給の仕組みの整備―――が重要となってくる。
 
 

【図表】 通信会社のテレビサービスは低調 
 

(注)  普及率は、全国世帯数約4,700万を分母にして計算した2005年4月時点のもの。 
(出所)  筆者推定により作成

コラム:「日本とは違う米国の“融合”」

 IT大国である米国では、「融合」はどのように進んでいるのか。2つのケースを示そう。

 固定電話やインターネット接続サービスを展開する大手通信会社ベライゾンは、2005年中にも「フィオス」というテレビ番組の放送サービスを始める。このサービスは、光ファイバーを経由してテレビ番組をパソコンではなくテレビでいつでも好きな時に、つまりオンデマンドで見ることができる。

 同サービスは、米マイクロソフトが開発した「マイクロソフトTV」と呼ばれるソフトが基盤となっている。このソフトは、やはり大手通信会社であるSBCコミュニケーションズが昨年から始めた、光ファイバーを経由した動画配信サービス「Uバース」にも採用されている。ちなみにSBCは、Uバースを始めるにあたり、マイクロソフトと事業提携を交わし、マイクロソフトに4億ドルを支払っている。

 現在、米国の通信市場では、ベライゾンやSBCなどの通信会社と、コムキャストなどのケーブルテレビ会社が顧客獲得戦を繰り広げているが、マイクロソフトは、ケーブルテレビ会社にもマイクロソフトTV採用で攻勢をかけている。

 欧州では通信機メーカーのノキアが通信市場で主導的であるために、「ノキアが王様」といわれることがあるが、米国の通信産業でも「マイクロソフトが王様」と言われる日が来るのだろうか。

通信機器会社がサービスの需要開発

 携帯電話に掲載される通信機器の有力な開発会社である米クアルコムは、携帯電話向けサービス「メディアフロー」を2006年から展開する予定だ。メディアフローは、携帯電話とは別のテレビ放送用周波数を使って、携帯電話に動画を配信するという“放送局”的なサービスである。

 ちなみに、クアルコムは同サービスを2007年に、日本でも展開することを視野に入れている。

 ここでユニークなのは、携帯電話会社ではないクアルコムが、周波数の免許を取得して、顧客である携帯電話会社向けに、新サービスの需要開発を仕組んでいることだ。そのためにつくられた子会社の「メディアフローUSA」が、提供される動画を集約して、パートナーである携帯電話会社に配信する。

 メディアフローに参加する携帯電話会社は、追加のネットワーク機器の敷設や周波数帯免許取得のための費用を負担することなく、個人ユーザーにサービスを提供できるのである。また、コンテンツを提供する側のテレビ局にしてみると、コンテンツの新たな流通経路を獲得することになる。

 メディアフローの普及拡大が成功すれば、クアルコムにとっては、顧客である携帯電話会社の需要開発に成功することになり、通信機器の発注がおのずと舞い込むことになる。「急がば回れ」を地で行く凄さがクアルコムにはある。

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