"IT革命第2幕"を勝ち抜くために
第65回「Skypeは通信市場へ激震をもたらすか(2):普及見通しと脅威」
出典:Nikkei Net 「BizPlus」 2005年7月21日
Skypeはいったいどの程度普及するのだろうか。消費者や法人企業にしろSkypeユーザーとすれば、Skype電話の相手方が大勢いるほうが都合がよいに決まっている。しかし、競合サービスを提供するプレイヤーにとってSkypeの今後の普及の程度は、大きな関心事だろう。では、現在大変勢いのあるSkypeには死角はないのか。脅威は何か。
新たな市場発展の揺籃期において、自社にいかに有利な経路をつくり出せるかで、将来市場でのポジションが決定づけられる。つまり、パス・ディペンデンス(経路依存性)を考慮すれば、Skypeにとっては今のうちにいかに有力なパートナーを獲得しておけるかが成功の鍵となる。
さらに、将来の情報通信市場では、固定電話よりもモバイル市場のほうがその成長性が高いため、そこへの足がかりへの模索が必須となろう。現在はフリーライダー(ただ乗り)ともいえるSkypeが将来、一定の足場(市場シェア)を獲得するようになれば、規制の対象にもなってくる。
(1)普及の見通し
Skypeのこれまでのダウンロードの状況をみてみよう。2004年4月に1,000万回あったものが、2005年1月には5,000万回、そして2005年4月には1億回となった模様だ。また、このときの登録ユーザー数は3,800万人(ダウンロード数の約4割)といわれている。どんな新技術やサービスにおいても将来の断続的な変化を見通すことは難しいことであるが、この勢いが仮にそのまま続けば2005年5月末には登録ユーザー数4,300万人程度となっていると推定される。Skypeの場合、普及要因がシンプルであるため、概ねこのようなトレンド予測をすることには一定の意味があるだろう。
直近3カ月間で5,000万回のダウンロードがあったようだ。グローバル(正確には一部の先端国)で1日ざっと16万人のペース、月約500万人の増加という凄まじさだ。さらに最近の数字では、1日18万人超といわれる。過去のペースを外挿すると、恐らく今月(2005年7月)末には、28万人ほどが登録しているに違いない。
Skypeのなかでも、国や地域ごとの電話番号を各ユーザーに付与する有料サービスであるSkypeInについて前回、説明したのを思い出して欲しい。このSkypeInが提供されている、いわば先端国というのは米国、英国、フランス、ポーランド、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、ノルウェー、香港の現在9カ国。つまり、Skypeのグローバルベースのユーザーといっても、そのヘビーユーザーの大半は、現時点でまだ一部の国々に限るとみなせよう。
普及の今後の見通しはどうだろうか。
2005年4月末時点での月間平均伸び率は117%台の伸びだ。その前の月では同118台%、さらにその前月では同119台%という傾向になっている。つまり、先端国のなかでは、Skypeの月間平均伸び率はわずかながら下降傾向にあるともうかがえる。もちろん、Skypeの発展段階としてはまだ初期であるとみなせるだろうから、この時期に今後の見通しを予想しても、その振れ幅は大きくならざるを得ず、あまり意味がないかも知れない。
例えば、このように前年比で積み上げの予測をすると全体的な傾向を見誤ることがある。最近、筆者は「先端国でのSkypeユーザー登録数は2005年4月末の1日あたり18万人の増加から、2007年2月末には同102万人をピークに増え続け、2008年3月末に飽和(7.3億人)に達するとみなした」といったような予測をしたのだが、これは過大であった。本稿にて訂正したい。
今後、中国とインドのような多大な人口を抱える国への普及も見込めることを考えれば、ありえない数字ではないだろうが、7億人台というハードルはいささか高い。そこで本稿の見通しでは、まずインターネット人口や携帯電話人口をベースにして、より包括的な考えのもと予測してみたい。もちろんそれでも、Skype普及の規模感を概観する程度の話であり、あくまで参考とみて頂きたい。
2005年4月のインターネット人口は8億1,320万人であり、前年比で107%だ。このときのSkypeの登録ユーザー数を4,400万人とみなせば、インターネット人口に占める割合は5.4%となる。2006年には同割合が8.0%に達し、さらに2009年には同16%までに上昇すると予測した。そして、Skypeのパートナー企業の動きを読む限り、この頃にはSkypeのモバイル端末への組み込み形態も一層進んでいるだろう。そうなると、それまでのインターネット依存モデルから携帯電話依存モデル、つまり携帯電話人口をベースにした状況を推定するのが妥当だろう。それを前提に、2015年での携帯電話人口の13.5%、すなわちSkypeユーザーは3億4,500万人程度を占めるとみなした。
いずれも、これらはSkype普及における「甚大シナリオ」と呼ぶべきものであり、このシナリオでは、加入電話や国際電話あるいは携帯電話などモバイル通信への影響は甚大となろう。一方、「非看過シナリオ」では、それほど甚大でないにしても現実の市場では見過ごすことのできないさまざまな影響をもたらすに違いない。そしてこの場合、主にインターネット依存モデルのみに依拠し、2015年でのSkypeユーザーは1億4,000万人程度を占めることも想定されよう。これらをグラフで示すと次のようになる。
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(注1)【世界】「甚大シナリオ」:2009年まではインターネット依存モデル、2010年からは携帯電話依存モデルに基づく。「非看過シナリオ」:2015年までインターネット依存モデルに基づく。
(注2)【日本】「甚大シナリオ」:2007年まではインターネット依存モデル、2008年からは携帯電話依存モデルに基づく。「非看過シナリオ」:2015年までインターネット依存モデルに基づく。
(出所)筆者(新保豊)作成
同様に、わが国での状況を推定してみた。世界レベルの状況との違いは、携帯電話モデルへの移行時期がやや早めであり、日本版「甚大シナリオ」では2008年から携帯電話依存モデルに基づいているとみなした点だ。2005年4月のわが国のインターネット人口は7,070万人程度であり、前年比で109%だ。
このときのSkype登録ユーザー数は130万人ほどとされているため、その割合は1.8%となる。その後その割合は増大し2007年4月には同8%ほどで471万人程度に達するのではないか。これ以降は携帯電話依存モデルに従い、さらに勢いを増すに違いない。
すると、2015年4月にはSkypeユーザーは携帯電話ユーザーの25.5%ほどを占め、その数は2,635万人程度に達するのではないだろうか。「非看過シナリオ」では、2007年4月に314万人(インターネット人口の4%)、2015年4月に718万人程度(同人口の8%)に及ぶとみなした。これらの普及規模は、関連市場に対して後々大きなインパクトを与えることになるだろう。
(2)Skypeの脅威
インターネット電話ソフト「Teleo」という、Skypeと似たサービスが出ている。米国のTeleoというベンチャー企業が開発したものだ。これは、SIP(Session Initiation Protocol)との互換性を持っているため、企業などで使われているVoIP(Voice over Internet Protocol)システム上でも使用できる。また、ファイアウォールの中からでも設定を変えることなく使用できる点で、Skypeと同様に使い勝手がよい。通話料金はSkypeよりも若干安く、また固有の電話番号を備えている点で、より通常の電話に近い。
『Skype世界規模の電話代無料革命』(2005年2月)の著者である清成啓次氏は、次のようにその著書で述べている。「インターネットの世界が全てIPv6に移行した場合、SkypeでなくてもP2Pは当たり前になり、Skypeと同じようなソフトは市場にあふれるだろう。ただ、問題はこのIPv6自体の普及が世界的にあまり進んでいないこと。もし普及するとしても、全世界のインターネットが対応するには相当な時間がかかる。Skypeの普及速度のほうがはるかにスピードがあり、逃げ切り可能だと思われる」
筆者も「逃げ切り可能」だと思う。前述の通り、Skypeの普及の見通しにおいて、その普及の速度は相当に速い。IPv6については目下、世界のなかでわが国が最も関心を示しているものだ。韓国あるいは欧州でもそれなりの関心を示している反面、米国での関心は必ずしも高くない。また、IPv4のスキームであっても現行のIPアドレスの振り方を工夫するなどで、かなり効率の高い利用はできる。さらに、何といってもIPv6への切り替えなどのコストが多大であり、IPv6の普及についての見通しを悲観視する専門家も少なくないのが現状である。
Teleo などとは別の類似サービスによる"新規参入の脅威"はまだ続くだろう。また、IPv6(新技術)といった"代替品の脅威"がなくなったわけではない。新しい技術やサービスが、その後の経路を決定づける(パス・ディペンデンス)ためには、こうした脅威をはねのけることが大事だ。そのほかに、自らの布陣を強力にしていおくためのさまざまな方策が重要になる。パートナーシップの構築はその1つとなる。
次回では、主に「パートナーシップとモバイル市場への足がかり」について考察を続けたい。Skypeの仕組みに関心を寄せ、相互に業容を拡大したいビジネスパートナーにとって、そのアライアンスの現状と今後の可能性はどうか。あるいは、Skypeの主な利用形態は現在、インターネット接続のパソコン中心ということになるが、さらなる発展のためには、携帯電話などモバイル環境との接点の模索が鍵を握ることになる。その見通しはどうか。