"IT革命第2幕"を勝ち抜くために
第64回「Skypeは通信市場へ激震をもたらすか(1):その魅力とビジネスモデル」
出典:Nikkei Net 「BizPlus」 2005年7月14日
Skype(スカイプ)が注目されている。今年(2005年)2月中旬、テレビ東京「ワールドビジネスサテライト土曜版」で"どこまで広がる無料電話"なる特集があり、収録の協力を求められた。その時簡単にコメントしておいたが、以降もSkype熱は高まるばかりであり、この6月末にもあるところで話をする機会を得た。そこへは通信業界のみならず放送業界、電力業界その他さまざまな企業から120名ほどの関係者が集まった。そこで言い漏らしたことを含め、今回は4回シリーズで、このSkypeの通信市場へのインパクト(影響)について考えを整理しておきたい。
(1)Skypeの魅力
日本にも少し前に上陸していた、Skypeについては昨年(2004年)頃から時折耳にしていた。ただ、最初は会員同士の無料電話くらいといったイメージしか持ち合わせていなかった。少々本格的に勉強してみたのは、そのテレビ放映の翌々日(2月14日)、世界情報通信サミットのセッションの1つである「シームレス時代のネットワーク戦略」のパネラーとして来日していたSkype幹部と、東京・有楽町の東京国際フォーラムにて立ち話をしたのが契機となった。
遅ればせながら今年になり、筆者もオフィスの同僚らとSkypeを使ってみた。ファイァウォールなどのセキュリティの仕掛けを持つ、オフィスのパソコンにも自宅のそれにも、確かに大変簡単にSkypeのソフトウェアをインストールできた。新宿の量販店でも行けば700円ぐらいで、耳掛けタイプのイヤホンとマイクが販売されており、その日のうちにすぐに無料電話ができる。
音質がよいとの前評判どおり、例えば、Yahoo!BBのBBフォンと比べると若干音質は落ちるが、それでも携帯電話やMSNメッセンジャーなどよりははるかによい。加入電話の周波数特性が200〜3,400Hzであるのに対してSkypeでは50〜8,000Hzとの測定結果もあり、Skypeの場合、通常の固定電話と比べその特性は2倍以上の広さをもつ。ピア・トゥ・ピア(P to P)仕組みのなかで、スーパーノードといった注目すべきテクノロジーに支えられており、このあたりの独創性がこれまでのメッセンジャー(Yahoo! メッセンジャーやMSN Messenger)あるいはNet2Phoneや標準的VoIPクライアントとは根本的に異なる。
具体的にはSkypeの場合、ユーザーPCにおいてファイアーウォールやNAT(ネットワーク・アドレス変換)を固定させたり集中化させたりせずに、あくまで自律分散の枠組みのなかで、第3者に中継を託す仕組みをとっている。それゆえSkypeのクライアントのうち、一定の条件を満たしたものがスーパーノードに自律変化する。こうした仕組みが、呼設定時間は下手な携帯電話より速く、ボランタリーな分散システムとは思えないほどのパフォーマンスを実現しているのだ。
MSNメッセンジャーでは既に400万人弱のユーザーを抱えるが、Skypeの登場でそのシェアは代替される可能性が出てきた。Skypeの売りである上記の特徴(音質とファイァウォールやNATコンフィギュレーション)が、その他の利便性の高い機能(例えば、会議通話やビデオ通話など)と組み合わされ、その利用が身近になれば、これまでの普及の勢いが急速に衰えることは考えにくい。
(2)有識者が見るSkypeの激震度
前述の"世界情報通信サミット2005"の前後に、日経デジタルコアのネット会議メンバー間で、「IP電話・スカイプの衝撃」をテーマにネット談義が行われた。いささか強引ながら、その内容を次のような図表に整理してみた。図表では縦軸にマグニチュード(震源地の潜在性)、横軸に震度(当該業界・市場への実際のインパクト)をとっている。
【図表】 有識者が見るSkypeの激震度

(出所)世界情報通信サミット2005「ネット会議」(2005年2月)での各氏の発言を推定して筆者作成
有識者のSkypeへの印象としては、概ね現在はマグニチュードも震度もそれほど高く見ていないように思われる一方、今後のポジションとしてはかなりその影響が高いことが覗われる。
なかには現在既に、Skypeのインパクトを高いものと見ている有識者もいるように思われるが、現在のインパクトはさほど高いとはいえない。すなわち、いまは潜在的な脅威を推し測っている段階であり、実質的な影響はないに等しい。しかし将来例えば、2008年以降の新興勢力(恐らくソフトバンクとイー・アクセス)による携帯電話市場への本格的参入時期には、多大なインパクトとなるに違いない。
(3)Skypeのビジネスモデル
Skypeは、ルクセンブルクのベンチャー企業スカイプ・テクノロジー社の商品だ。Skype登場の前は、P to Pファイル交換の音楽ソフトKaZaA(カザー)のほうが有名であった。そのKaZaaの生みの親でもある、デンマーク人のJanus Friis(ヤヌス・フリス)とスウェーデン人のNiklas Zennstrom(ニクラス・ゼンストローム)によって、同社は2003年に設立された。
電話業界が大きな新天地に見えた2人にとって、「電話の世界はぼったくりとしか思えない料金設定であり、中央集中型インフラへの依存など、次のターゲットとしては理想的だ」と考えたようだ。4カ月ほどでKazaaを開発した実績のある二人は、電話業界への進出を決めた後、わずか6カ月程度でSkypeソフトを開発してしまったらしい。Skypeの普及速度はすさまじく、Skypeを見た米国連邦通信委員会のマイケル・パウエル前委員長に「これで通信業界は終わった」と言わせたほどのものだ。
同社のコア業務は目下、無料電話ソフトをスピーディーに展開・配布していくことである。加えて、主要な電話サービスとしてSkypeOutがある。これはSkypeから実際の固定電話や携帯電話にかけられるサービスのことで、10/25/50ユーロから選べるプリペイドタイプのものだ。
日本のウェブから日本の電話にかけてかかる値段(分単位)は、固定電話で0.027ユーロ(約3.6円)、携帯電話で0.157ユーロ(約20.8円)となり、かなりの格安だ。Skypeを導入済みの一部の国々(先端国)での利用状況として、2005年3月の累積利用者は100万人を突破している模様。その売上高は1,000万ユーロ(約13億円)程度と推定されるが、同社の従業員規模が100人未満であることを考慮すると、決して悪い数字ではない。
またSkypeInというサービスがある。これは、国や地域ごとの電話番号を各ユーザーに付与する有料サービスで、利用料は12カ月30ユーロ(約3,900円)、3カ月10ユーロ(約1,300円)。例えば、英国でロンドンの電話番号を取得すれば、本人が米国ニューヨークにいたとしても、ロンドンの家族からは英国内の通話料金で電話できる。そのほか、Voicemailなども用意されており、SkypeInのユーザーは無料で利用できる。
同社のビジネスモデルは、これらSkypeOutやSkypeInといったサービス提供により利益を上げることであり、周辺機器販売やその他の連動ビジネスに注力することはないと、当初、CEOのニクラス・ゼンストロームは表明していた。
しかしながら、最近ではわが国においても周辺機器ではバッファロー社などと、あるいはPHS・携帯電話機器分野ではKCCS(京セラコミュニケーションシステム)などのメーカーとも連携を進めている。先月下旬(2005年6月22日)には東京大手町にて、スカイプ・テクノロジー社とパートナー企業らが集い「Skype Night」が開催された。そこでは、今年11月7日に向けた本格的なビジネス連携が明確に打ち出されていた。そうなるとスカイプ・テクノロジー社には電話サービスに加え、提携ライセンスフィーやレベニューシェアなどの収益源も見込める。
前述のSkypeInでは目下、同社とフュージョン・コミュニケーションズが、既存の電話番号のままSkype電話に転送できる仕組みを開発中であり、今秋からSkype利用者はフュージョンのIP電話に加入すれば、割安料金で一般の固定電話と発着信可能になる。こうした関連の動きがさらに加わればれば、Skypeは一層身近な存在になっていくに違いない。
また、ビデオ映像もやり取りできる「SkypeVideo」や、企業向け「Skype for Business」も提供が予定されている。すでに先月(2005年6月)、米Santa Cruz Networksが、IP電話ソフトウェア「Skype」にテレビ電話やデータ共有機能を追加するプラグイン「vSkype」(ベータ版)を発表しており、Skypeのビジネス向けアプリケーションが着々と用意されつつある。
さらには、GPRSやWi-Fiのデュアルモ―ド端末による「Skypeモバイル」も注目の的だ。米国やUAE(アラブ首長国連邦)など海外や国内(ライブドア)などで一部、その動きが出てきた。(注)「GPRS」: 最大9.6Kbps のGSM方式の携帯電話網を使った、2.5Gのデータ伝送技術のことで、最大115Kbpsにもなる。
特に最後の「Skypeモバイル」については、わが国の今後の電波再編のなか携帯電話市場への新規参入も取り沙汰されており、今後のSkypeの動静、ひいてはわが国の通信市場へのインパクトを測る上で重要な鍵となろう。以降では、このあたりのこともまじえ考察を続けてみたい。