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シーズをつかめ シンクタンクが提案する再生への処方せん 
地域の知的財産ビジネス 異業種への適用で有力な差別化技術

出典:日刊建設工業新聞 5月9日号

知的財産が競争力の源泉となる時代が始まり、競争のルールが「どこでも作れるものを、早く、安く作る競争」から、「他では作れないものを、いち早く生み出す競争」へとシフトした。
このため、国全体を革新するという発想では、変化のスピードが遅すぎてグローバルな競争についていけなくなっている。もっと国から地域に重心を移していく必要があり、地域という小さな単位の中で知的財産の創出・活用を促進し、これらの地域活力を総合することで日本全体の競争力を高めていく戦略が求められている。

各地で拡大する知財活用の取り組み

政府の知的財産戦略本部がまとめた「知的財産推進計画2004」の中でも、知的財産を活用して地域を振興するために「地方公共団体の知的財産に関する自主的な施策策定を奨励する」ことが明記されており、北海道、秋田県、東京都、愛知県、大阪府、島根県、福岡県では、知的財産戦略本部を設置し、地域独自の知的財産戦略大綱や実施計画を策定する動きなども出てきた。各地の知財活用の取り組みは、今後ますます拡大していくものと予想される。
しかしながら、実際に地域の現場に入ると、知財の活用がなかなか新たなビジネスに結びつかない現実も見て取れる。発明やノウハウを製品や事業に結びつけるプロセスは常にリスクを伴うことが大きな原因であり、知財活用に取り組む地域では「早く成果を出したい」「目に見える成果を出したい」という地域振興の顕著な効果を求める声が同時に高まっている。

どうすれば地域のビジネスにつながるのか

リスクを乗り越え、知財の活用を地域のビジネスに結びつけていくには、一体どうすればいいのか。そのための有効なアプローチとして、「知財の移転によるニッチ(すき間)・ビジネスの創出」を挙げることができる。一つの事業環境(事業者、市場規模など)では不要と思われた知財でも、別の事業環境に移すことでビジネスとして生かすことができるケースがかなり存在する。つまり、活用環境を変えることで、知財と市場の『すき間(事業化の障害)』を埋めることが可能になる。
代表的ケースが、『大企業』の知財の『中小企業』への移転。事業分野からの撤退や市場規模の縮小により大企業にとって不要となった技術やノウハウを中小企業に移転する場合がこれに当たる。リスクが大き過ぎて大企業としては参入をちゅうちょするビジネスでも、果敢に挑戦するベンチャーが出てくる可能性はある。
また、大企業には小さ過ぎる市場でも、中小企業にとっては魅力的な規模となる場合も十分に想定できる。
第2のケースが、『同業種』にとっては汎用化して差別性がなくなった知財の『異業種』への移転。ある業種ではあたりまえの技術でも、別の業種に適用すると有力な差別化技術として使える場合が、やはりかなり存在する。
第3が、『域外』の知財の『域内』への導入。『海外』で開発され、何らかの理由で実用化が進んでいない知財を『国内』に移転して事業化するケースも、こうした取り組みに含まれる。『地域間の事業環境格差』に着目した取り組みである。
効果発現には一定の投資と時間が必要。

一定レベルの知財の集積が必要

こうした知財の移転によるビジネスの成功例として、米国大学のTLO(技術移転機関)の活動がよく取り上げられる。しかしながら、これらの実態を探ると、次のような事実が明らかになる。Association of University Technology Managers Inc の99年度のデータをもとに、まず、米国134大学の「研究費」と「発明発表件数」の相関を見ると、大学が投じた研究費(インプット)に応じて、発明発表件数(アウトプット)が増えていることが確認できる=図表1。

この関係を地域に適用すれば、知財を創出する人材や資金(インプット)を強化すれば、発掘される知財の数(アウトプット)も増えていく、というシナリオが成立することになる。前述のように、実際に日本各地の知財活用の取り組みは拡大傾向を示しており、これから地域の知財はますます増えていくことになる。
一方、「ライセンスされた知財の累積数」と「知財収入」の相関を見ると、この場合は直線的関係が認められない=図表2。

全体の傾向として、累積数が200件未満のケースでは、知財収入の顕著な増加が見られない結果となっている。したがって、この関係を地域に適用すると、知財活用への取り組み(インプット)を強化し、発掘される知財の数(アウトプット)が増えてきても、しばらくの間は目標とする地域の振興(アウトカム)に結びつかない、ビジネスとして目に見える成果があらわれない、といった事態が起こり得ることになる。
関係者のコメントを総合すると、米国の大学のケースでも財政的にブレーク・イーブン(知財活用による収入が支出と同等かそれ以上になっている状態)を達成しているTLOは、全体の40~60%程度と想定され、ブレーク・イーブンに達するまでに7~15年の期間を要している。このことは、知財活用のリスクを低減し、ビジネスとしての成功確率を高める上で、「一定レベルの知財の集積」が必須(ひっす)となることを強く示唆している。
つまり、地域の知的財産ビジネスに取り組む場合は、前提条件である知財の集積のために一定の投資と期間が必要になることを、あらかじめ覚悟しなければならない。ビジネスとして成立させるまでの時間軸をどのように定めるか。このことが知的財産ビジネスに取り組む際の、極めて重要なポイントとなる。

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