コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

メディア掲載・書籍

掲載情報

特別企画 企業誘致特集 新施策も続々、変わる企業誘致
地域活力を経営に取り込め!

金子直哉

出典:プレジデント  2005年3月21日号

企業と地域が結びつき日本の産業力強化へ

限られたリソースでより短期間のうちに研究開発の成果を求められる産業界。
ならば大学との連携のみならず、地域の知財すべてを活用すべきだろう。
そこで企業と地域との包括的提携の必要性を説くのが、日本総合研究所の金子直哉主任研究員である。

産業用地の長期割賦分譲、融資制度、さらには賃貸制度、さまざまな助成など、全国の各地域は企業の負担軽減に配慮を重ね、地元へより進出しやすい条件の整備に余念がない。また、それぞれの地域がもつ利点として自然環境や各種インフラ、すでに地域内に集積した産業、優秀な人材の豊富さなどをアピールし、企業誘致に熱意を示す。
一方で企業の意識はどうだろうか。財団法人日本立地センターが実施し結果を公表している。「新規工場立地計画に関する意向調査」によると、新規立地計画が「ある」とする企業の割合は2001年を底に上昇へと転じた。04年の調査では、前年比1.3%増の9.1%まで回復している。このうち新規立地の希望時期を「早急に」および「3年以内に」と答えた企業の合計は、59.4%にのぼった。

実際の立地状況も、経済産業省が発表した「平成16年上期工場立地動向調査」結果をみると、立地件数は600件で前年同期比166件増、立地面積が626ヘクタールで同じく64ヘクタール増と上向きである。さらに注目すべきは、新規の立地地域として海外を検討しているのはわずか11件にすぎなかったことである。昨今、デジタル家電分野を中心に、先端技術にかかわる生産拠点の国内回帰が始まったとされるが、それを裏付けるデータともいえよう。今後、短期間のうちに海外生産拠点が減少するとは考えにくいものの、国内・海外生産拠点の役割分担は一段と鮮明になり、国内立地もいっそうの増加傾向をたどることが予測できそうである。

地域の知財がすべて生かされる共同機構づくりの推進を

デジタル家電を代表として、世界をリードする日本の技術や製品が登場したことは、けっして偶然ではない。「失われた10年」のどん底で日本の産業界は、かつての欧米キャッチアップ型からフロントランナー型へと脱皮を図ることが急務とされた。それを実現するため各業界・企業が並々ならず努力した結果が表れているのである。日本総研創発戦略センター上席主任研究員の金子直哉氏も、こう指摘する。「知的財産が競争力の源泉となる時代に入っています。競争ルールが『どこでもつくれるものを、早く、安くつくる競争』から、『ほかではつくれないものを、いち早く生み出す競争』へとシフトしたのです。これに伴って、国全体を革新するという発想では変化のスピードが遅すぎ、グローバルな競争についていけなくなりました。もっと、国から地域に重心を移していく必要があります。地域という小さな単位のなかで知的財産の活用と新たな創出を促進していく。そして地域活力を総合し、日本全体の競争力をますます高める戦略が求められているのです。」 金子氏によれば、生産活動に関しては地域の特化が進みつつある。近畿にみられる液晶関連工場の集積地域は典型例だ。そこで次のステップとして同氏が提言するのは、「知的財産」をキーワードに「研究開発分野でも企業と地域が連携すべき」ということだ。提言の背景には、企業の研究開発戦略における大きな問題も存在している。「新しくてユニークなモノを次々に市場へ送り込むため、企業自身による研究開発は2~3年で製品化できるテーマに絞られる傾向が強まりました。テーマの数は例えば大企業でも数十件程度。
本当は、より未来的な研究も含め、取り組みたいテーマがその2倍、3倍はあるのです。そこで企業は時間や人員の面で自社研究が困難なテーマについて産学連携を推進しています」大学もまた地域活力の源泉の一つには違いないが、現時点での産学連携は企業が直接に大学自体と共同研究を行い、二者間だけで完結するケースが多く、地域全体との結びつきがみられないのも実情だ。つまり共同研究の成果が上がっても、地域全体の振興に及ぶとは限らないのである。この現状に対して金子氏は、企業と地域全体がメリットを得るためには「企業と地域による包括的提携のもとで研究を進める共同機構づくりが有効」と考える。

「地域独自の知的財産を棚卸しし、大学に加え地域の研究機関、中小企業を含む地元や外部の企業と広く提携して新製品・事業を創出していくわけです。しかし、共同機構づくりは容易でありません。研究にはリスクがつきまとうからです。したがって、より多くの参画者でリスクを分散することが必要になります。また、地域全体がもつ知財を結集し生かすには、舵取り役がきわめて重要です。研究の市場性が高まるほど、舵取り役による適切なマネジメントは欠かせなくなります」

核となるのは地域の公設研究所
競争的資金の獲得も追い風に

金子氏の提言には類似した成功事例がある。同氏自身が携わったプロジェクトで、原子力発電燃料処理の技術を汚染土壌修復などに転用した「原位置ガラス固化」という環境技術の事業化だ。
米国連邦研究所にあったシーズを活用すべく、日本総研が舵取り役となってコンソーシアムが形成された。「建設会社、商社、エンジニアリング会社、公益企業に参加を仰ぎ、国からの協力も取り付けることができました。ベンチャー企業を設立し、約5年間で事業化を果たしています」 この事例を企業と地域の共同機構にあてはめるとき、舵取り役には「地域の公設研究所が最適」と金子氏はいう。 「例えば県立の技術研究所といった公設研究所は自治体が関与する組織であり、地域における 求心力と中立性が確率しています。さらに、公設研究所の役割は従来、地元企業の支援にあったので、企業マインドの理解もスムーズです。共同機構の要として円滑に機能できるでしょう」 また、「共同機構は国などが設けている競争的資金(研究資金助成)の導入を目指すべき」とする金子氏。確かに助成を得られれば、参加者が人や資金を供出しやすい土壌ができる。そのうえ競争的資金の供与は研究テーマへの高い評価を意味するため、共同機構のインセンティブも向上するはずだ。

提携すべき地域選択を助ける「地域の知財活力評価」データ

では、企業側はどんな研究テーマについて、どの地域と提携すればいいのだろう。日本総研が受託した、共通指標に基づく地域の知財力評価に関する調査研究(独立行政法人工業所有権情報・研修館)が大きなヒントの一つをくれる。これは地域ごとの分野別発明者の累積数に基づいて、地域の特徴を分析した調査研究である。分野別発明者数は、各地域がもつ研究のニーズとシーズを示唆し、分野別発明者の割合は、地域の知財における強みと弱みを示唆する。例えば、発明者全体のうち多数は東京に集中している一方で、分野別に発明者数の全国対比を割り出すと、東京もバイオ、高分子、機械部品、食料品などについては、他の分野に比べ低い率にとどまっていることが分かる。詳細は工業所有権情報・研修館のウェブサイトで閲覧することができる。
この分析結果は、企業と地域との共同機構づくりのみならず、企業が諸施設の立地先を検討するうえでも役立つのではないだろうか。
最後に金子氏は、共同機構の成否を左右するカギについてこう語る。
「技術実証とマーケティングを繰り返し、新市場を開拓していくことが大切です。技術の完成後にマーケティングするのでは遅すぎ、事業化は困難でしょう。その意味では商社などの参画も大いに期待され、リスク分散のためにもより多くの異業種企業を集めるべきです。それには、地域のもつ知財が多様な業種に貢献し得ることを示す複数のビジネスモデルを束ねた、具体的な『産業ビジョン』を地域(自治体)の長が打ち出さなければ。そのビジョンを企業と地域が共有し、WIN-WINの関係を築きあげ、各地域はもちろん、日本全体のさらなる活力アップが実現することを願っています」

メディア掲載・書籍
メディア掲載
書籍