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論説 道路事業でビジネス創出を

出典:道路建設  2004年10月号

速度無制限の高速道路や時速200kmで走ることが是か非かの議論は別にして、車王国ドイツには文化や価値観と密接に関係した道路の存在がある。道路はそれを使う人に便利さと喜びを提供し、その事業は利用者に理解される存在であるべきだ。こうした観点をベースにして道路分野でのビジネスのあり方を考えてみたい。

不満こそサービスの源泉

先日出張でドイツに行った。アウトバーンといえば、誰もが知る速度無制限の高速道路だが、そこでは車王国ドイツならではの光景が繰り広げられていた。片側3車線の中央ラインを走る車の多くは、車好きの日本人なら誰もが知っている高性能車だ。ただ速いだけではない。高速での制動力、ハンドリングなどを含めた、日本では見ることができない車の野生の姿がある。聞けば、ドイツには三度の飯よりも車が好きな人がたくさんいるという。この道路とそれが創り出した文化がある限り、ドイツの車の性能は世界のトップであり続けるだろう、と思った。 日本の道路は整備状態はいいし、高速道路も込むとはいえ便利な方だろう。しかし、道路をよく利用する人たちの評価は必ずしも高くない。その人たちの話を聞いてみると、最大の問題は道路の最大の利用者であり、コストの負担者である運転者に優しくない道路運営に起因するように思う。例えば、無計画と思われても仕方がない道路工事は何時になってもなくならない。つい最近掘ったところのすぐ近くを工事していることはよくある。一体誰が、利用者ができるだけストレスを感じないように工事をマネジメントしているのだろう。工事の仕方にも問題はある。 すぐそばに路地があるのに、何故車線を塞いで工事をしているのだろう。利用者には車の通行よりも工事機材の配置の方が優先されているように見えている。信号機のすぐ手前で工事しているときなど、交通整理すれば車の流れは、ずっと改善される。道路工事で円滑な車の流れは、どのように管理あるいは評価されているのだろう。何個も続いた直線の信号のタイミングがずらされているのは何故だろう。あるいは、カーブの手前などに故意に凹凸が設けられているのは何故だろう。暴走行為を防ぐことが目的だとしたら、取り締まりの怠慢を利用者に押し付けているのではないか。 恐らく、多くの道路利用者がこうした指摘に対して共感の意を示すはずだ。指摘の中には勘違いもあるかもしれない。しかし、そうだとしたら、道路管理者は利用者に対して説明をしなくてはいけない。道路管理の情報をもっているのは、道路管理者なのだから説明責任がある。 資産の有効利用という観点も重要だ。最近、建設中の高速道路の下を車で通った。高速道路の高架の下には2車線の一般道路があるが、2車線使えるはずの車線は1車線しか使えない。閉鎖されている車線の中で何らかの作業が行われている様子もない。仮に、全線にわたって供用できなくても、ある信号から信号の間だけでも供用化すれば、その間の通行は円滑になるはずだ。道路建設資金をつぎ込んで建設した資産をできるだけ早く供用化する、言い換えれば、投資を回収できる状態にする、という意識が欠けているように見える。 工事管理、信号管理、利用者への説明、資産の早期供用化など、テーマは違っているように見えても根っこにある問題は共通している。道路利用者を顧客とした道路運営がなされていない、あるいは資金負担者などに対する説明性が低い、ということだ。道路の建設、運営には、国、都道府県、市町村、公団、道路工事を行う民間事業、清掃事業者、警察など様々な団体が関与する。各々は堅実な業務を行っているかもしれないが、道路利用者にとっては運営に責任を持っている人の顔が見えない。これは取りも直さず道路事業が顧客志向で運営されていないことを意味している。ここで利用者の不満をビジネスチャンスと思えるかどうかで、産業としての発展性を占うことができる。

サービスビジネスを創出せよ

道路事業で顧客志向という言葉がどれだけ真剣に語られてきただろうか。安全、防災など道路には一般国民の通常の利用以外の目的がある。しかしながら、道路利用のほとんどが一般国民の利用で占められている以上、道路運営の主たる目的は利用者の満足感に焦点を合わせなくてはいけない。他の目的については例外的な位置づけを設ければいい。 そうであるなら、顧客に対する統一的な窓口をつくり、説明性を向上し、顧客の満足度を上げる、という通常のサービスで当たり前になっていることを行うべきだ。 道路公団の民営化の議論の際に、多くの国民が民営化を支持したのは道路事業に透明さが足りない、と考えている人が多かったからだろう。顧客を明確に意識し、その満足度を獲得することを目的として事業を運営するとともに、組織として顧客などの理解を得ていく。こうした志向は官民、事業分野に左右されることのないビジネスや事業の真理である。当然、道路事業も例外ではない。そして、顧客を明確に定義し、サービス事業としての意識を高めることは、道路事業が産業として進化するためにも重要になる。 日本の産業構造は1990年代以降大きな変換点を迎えている。中でもインフラづくりを主たる業としてきた産業では、その傾向が強い。日本は、これまで経済成長を背景に旺盛なインフラへの投資を行ってきた。しかし、20世紀末を迎え、概ねのインフラ整備が一段落したところで、インフラ投資は減少傾向が顕著になっている。ピーク40兆円に達した公共投資は既に30兆円を割り込み、今後も減少傾向が続く。電力の投資も既にピーク時の半分まで減っている。上下水道も概ねの投資は終わってしまった。海外諸国のGDPに対する建設投資の比率をみれば、これまでの日本が、あまりに突出していた。今後は、日本の投資規模が海外との比較において説明できるレベルに落ち着いていく。これに2006年をピークにした人口減少や環境問題が加わってくるので、インフラ投資の市場が減少するスピードは今までよりも速まるだろう。その結果、かつて基幹産業と言われたインフラ整備のための産業は転換期を迎えている。今後、日本の産業政策を考えるに当たって、市場の転換期に対する理解は重要だ。市場の変化を理解しない取り組みは、これまで優秀な人材を投入して築いてきた世界最高レベルの事業資源を枯渇させることにもつながるからだ。市場の変化に対するキーワードはサービス志向だ。新しいインフラをつくることに焦点を当てるのではなく、これまでつくったインフラの維持管理、あるいは、有効活用をサービスビジネスとして育てるのである。その際、先に述べた現状の道路運営に対する不満がビジネスの源泉になる。こうした考え方は市場のトレンドとも整合的である。何故なら、新規投資のスピードが落ちることによって、建設市場は縮小しても、ストックの量は投資の積分値として増え続けるからだ。したがって、これを対象としたビジネスにも成長性が期待できる。しかも、維持管理や有効活用の市場では、インフラ建設のために培ったノウハウが活用できる。インフラ整備に関係してきた企業は、こうした時代のトレンドを捉え、これまでに培ってきた事業資源のスムーズな移行を図っていくべきなのだ。他のインフラ関連産業の分野ではサービス志向による新たなビジネスの立ち上げが始まっている。 先に述べたように、電力分野ではピーク時の半分まで投資が落ち込んでいる。近年、この市場で注目されているのは、省エネルギーサービスや自家発電代行事業だ。いずれも顧客の既存の施設に対し、事業者が複数年にわたってリスクを取って、サービスを提供することが共通している。 上水道の分野では2002年の水道法の改正に伴って、アウトソーシングに注目が集まっている。既存の水道施設の維持管理、運転を複数年にわたって行うものだ。海外には、より長期の期間、更新リスクをも負担する先進なモデルもある。公共投資の分野で進められているのはPFI(Private Finance Initiative)だ。公共側の要求水準にしたがって、20年前後の期間にわたり事業上のほとんどのリスクを民間事業者がとって運営する。大手ゼネコンは、この市場での重要なプレーヤーだ。 本来であれば、1980年代からインフラ関連の産業は投資中心の市場から運営中心の市場へと移行すべきであった。バブルの発生やその後の混迷により、10数年にわたり移行が遅れたが、日本でも確実に市場の移行は進んでいる。重要なことはこの期を捉え、一企業としても産業界としてもこれまで培った事業資源を最大限有効に活用した新しいフロンティアを拓くことだ。そこには、縮小が避けられない従来型の市場に執着するより大きな果実が存在するはずだ。

 

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