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電子自治体はプロモーション指向で

出典:行政&ADP 2004年10月号

1 整備から利活用へ

2003年までに、住民基本台帳ネットワーク、住民基本台帳カード(住基カード)、電子申請などが開始され、既に整備されているLGWAN等と併せて、電子自治体の一応の基盤が整った。いよいよ、高度情報通信基盤を使った行政の効率化や住民サービスの向上を目指した取り組みが本格化する。その意味で、2004年は電子自治体の成否を占うターニングポイントとなる。
電子自治体の要素を、高度情報通信の基盤とこれを使った行政改革やサービスに分けると、ここまで数年間の活動は主に基盤整備を目的としていたと考えることができる。そして、e-Japan戦略Ⅱ等が示しているとおり、これからは整備された基盤をいかに有効に利活用するかが問われることになる。
しかしながら、ここまでのシステム等の利活用の状況については厳しい評価を受けざるを得ない。例えば、日本の電子自治体の認証システムの鍵となる住基カードの配布状況は2003年末でわずか30万枚弱という状況にある。人口当たりにすると100人に一枚以下、3,000を超える市町村当たりにすると一市町村当たり100枚程度というレベルだ。これでは、メリットを受ける住民は極めて限られる上、申請等を受ける自治体の側でも効率化等の効果は望めない。
一方、民間市場でのICカードの普及状況は目覚しいものがある。JR東日本のSUICAは既に多くの乗降客に利用されている上、コンビニの支払い機能との合体も実現している。そもそも使う機会が少なくメリットが感じられない、住民基本台帳ネットワークなどの議論によるイメージの悪さ、などが住基カードの利用を妨げているかもしれないが、民間市場での成功例との対比は鮮明だ。海外でも公的なICカードが成功している例は稀だ。日本の住基カードが投資に見合うだけの成果を上げるためには日本独自の工夫が求められる。
日本独自といえるIT基盤は住基カードだけではない。例えば、LGWANのような行政間の専用回線は海外でも稀だ。日本の電子自治体では海外諸国に比べてハイレベルな投資を行っているのである。
したがって、第一に確認しなくてはならないのは、成功した政策と言われるには海外諸国に比べても、より多くの投資回収(IT化のメリットを実現すること)を行わなくてはならない、ということだ。
もう一つ確認しなくてはならないのは、ITでは迅速な投資回収が求められる、ということだ。基盤整備が一応の段階に達して、これからは利活用、つまり成果こそが重要だ、という声はよく耳にする。しかしながら、何時までにどのくらいの成果を上げるか、という具体的な目標に出会うことは少ない。利活用のための具体的な取り組みプランはこれから、という自治体が多いかもしれないが事態はそれほど悠長ではない。
ITは他の公共インフラに比べて陳腐化スピードが比べ物にならないくらい速いからだ。
これまでの公共インフラは利活用の目標設定について寛容であった。例えば、上下水道の機能が完全に充足するには長い時間がかかる。道路にしても完全に開通して多くの人が利用するまでには相当な時間を要する。その代わりに、耐用年数が長いため長い投資回収期間を設定できた。だからこそ、これまで自治体は利活用について悠長でいられた。実際のキャッシュでの投資回収に迫られる面が少ない公共インフラで、2年や3年利活用の時期がずれたところでたいした問題は起こらなかったのだ。「いつかは役に立つ」と構えていてもどうにかなったのがこれまでの公共インフラなのである。
これがITとなると話が全く変わる。IT資産のライフサイクルは土木建築物に比べて桁違いに短い。オープン系のソフトウェアなら数年も経てば陳腐化は免れない。回線だって拡張が必要になる。有効に活用できなければ、あっと言う間に陳腐化するのがITだ。その意味で、これまでの公共投資に許された「何時かは役に立つ」という期待はIT投資には通用しない。

ライフサイクルが短いことに加えて、IT投資には原資がない、という問題がある。自治体がIT投資をしたからといって、税金を上げることができる訳でも、補助金や交付金がもらえる訳でもない。公共財政が逼迫する中で、なけなしの資金をはたいて整備するのが電子自治体のITなのである。そこでIT投資を回収する原資は効率化によって生まれる余剰資金でしかない。経営感覚のある自治体ならば、できるだけ早く投資した以上のメリットを生み出そうと考えるはずだ。
仮に、IT資産の平均的なライフサイクルを5年としてみよう。ITが業務効率化する、といっても一年目は成果が出にくい上、維持管理のためのコストがかかるから、収支はマイナスだろう。収支のバランスがとれるのは投資してから2年目くらいからかもしれない。そうなるとIT投資は3年目から5年目の収支で回収しなくてはならないことになる。
自治体は民間企業に比べて人材の柔軟な配置転換が難しい、などの制約があるから、効率化成果とコストのバランスをとるためのリードタイムが2年しかない、というのは楽な話ではない。IT投資に先立って、ITを使ってどのように業務を効率化するかを周到に検討しておかなければ実現は不可能だろう。それができなければ、どんなに稟議書がオンライン上で回されようが、ペーパーレス化されようが、IT投資は効率化どころか財政負担になる。日本の公共財政は破綻状態にあるのだから、自治体には投資から2年以内に明確なメリットを生み出すための緊張感が求められる。

2 投資回収の考え方

(1) 行政運営の効率化

ITの成果として効率化が上げられることが多いが、ITを導入して必ず効率化の成果が上がるのは計算と処理くらいである。しかしながら、計算や処理のためのITはホスト中心の時代から導入されている。電子自治体の中で投資されているITは計算や処理というよりも、コミュニケーションに関わるものが殆どである。
そして、これらを目的としたITが効率化の成果を上げるか否かはひとえに、ITをどのように使うか、業務をどのように変えていくか、にかかっている。そこで、何の目論見もないIT投資が偶発的に効率化の成果を上げると考えるのは間違いである。ITを導入することによって、業務がどのように変わり、コストがどのように減るのかを具体的にイメージし、関係する人の中で共有し、確実に業務を変えていかなくてはいけない。それに加えて、複数年にわたる緊張感のある回収計画のフォローが必要になる。例えば、電子決裁が事務コストを削減するというのなら、実際に紙代、人件費、などがどのくらい削減されるのかを具体的に掲げ、一年目から目標に向かって事務を改革し、成果をフォローしなくてはいけない。
もう一つ、効率化について重要なことは、効率化は結果で評価される、ということだ。例えば、業績が低迷している民間企業がなけなしの資金をはたいてIT投資を行い、コストも減らず、収益が改善されないのに、「ITで効率化に励んでいます」と言ったところで株主は納得しない。効率化は、何時までに、いくらを、という具体性をもって初めて説得力が出てくるものだ。
しかしながら、現状の自治体で効率化の成果をどれだけ結果で示せるかは分からない。財政状況があまりに悪い上、人事面での制約、意思決定手続きに要する時間、自治体独特のしがらみ、などを考えると、ITによる効率化の成果を1、2年後に明示するのは容易ではないからだ。効率化の成果は、他の様々な施策の効果と重なり合って、多少の時間が経ってから明確になるだろう。

(2) 公共サービスの付加価値の向上

そこでIT投資に対する住民の理解を得るために、効率化以外の目標を目指すことが重要になる。筆者は、電子自治体に関する著作等で、電子自治体の効果は、「行政運営の効率化」、「公共サービスの付加価値の向上」、「行政運営に関する理解と参加」である、と述べてきた。つまり、IT投資の説明性を得るためには効率化を追求するのと並行して、いかに公共サービスに対する住民の満足度を上げるか、行政運営に対する理解を得るか、を考えることが求められる。
電子自治体の効果として電子申請などが上げられることが多いが、自治体がサービス機関であることを鑑みるなら、申請手続きが便利になること以上に、住民が受けるサービスの質そのものが向上してしかるべきである。そこで重要になるのが、実際に公共サービスを提供している現場部門の巻き込みだ。先に述べたように、2003年までを電子自治体の基盤整備の期間と捉えるなら、ここで中心となっていたのはIT推進室等のIT推進部門であった。そして、これらの部門の担当者からは「現場部門の理解が得られない」、「経営層の理解が得られない」といった課題が指摘されてきた。電子自治体が整備から利活用の段階に移行するにはこうした状況を変えなくてはいけない。
例えば、高齢者福祉の分野での利用が考えられる。介護が必要な高齢者を抱える家庭に介護に役立つ情報や自治体が提供できるサービスに関する情報を適宜送り届ける、あるいは介護家庭での問題や相談ごと等があれば何時でもアドバイスに応じる、という環境が整えば、介護をする人の助けになれるだろう。また、住民と福祉部門という1対多数の関係だけでなく、同じ環境で生活する人達のコミュニケーションを活性化することができれば、介護する方々の支えになるかもしれない。こうして福祉の現場でITが活用され、住民の負担の解消や安心づくりに役立てば、苦しい財政状況の中でIT投資を行うことを支持してくれる住民が増える。
これをできるだけ多くの分野で積み重ねれば、IT投資に対する地域の理解は向上する。
公教育に対しては様々な要請がある。例えば、ITを導入して生徒の悩み事を時間を限らず個別に聞いてあげれば、悩める生徒の支えになるかもしれない。また、数学の苦手な生徒を個別に指導することができるシステムを作れば、学習効果を向上させることができる。民間の教育ビジネスの現場では実際にITを使った指導が行われているから、システムの流用も考えられる。
医療の分野でもサービス向上は考えられる。公立病院は多くの地域で地域住民の安心の拠り所となっている反面、短い時間の診療のために長時間待たなくてはならないことへの不満も多い。ここにITを使った予約システムを入れて、待たずに診療できるようにすれば地域住民の評価も高まるはずだ。自治体は様々なサービスを提供しているから対象はたくさんある。


(3) 行政運営に関する理解と参加

公共サービスの付加価値の向上に加えて、もう一つ重要なのは行政運営に関する理解と参加を促進することである。サービスの付加価値が高まることが住民の満足度につながることは確かだが、住民が常に受け手に立った状態で、満足度を獲得し続けられるかどうか分からない。サービスの出し手に対する理解が無い状態での評価は一方的になる傾向があるからだ。また、電子政府の動きをe-democracyと呼ぶように、電子政府自体は新しい住民参加の仕組みを作るための試みでもある。ホームページによる情報提供や相談受付等は、行政運営に対する理解を高めるとともに、電子自治体の基本ともいえる機能である。電子自治体が進められる以前と比べると、自治体の情報公開のレベルは飛躍的に向上した。ホームページのコンテンツの充実、使いやすさ、アップデートなどは大きく改善された。デザインも機能的になってきた。一方、利用内容を見ると、公開情報の検索などを目的としたアプローチが主で、実際のサービスにつながる利用、双方向的な情報交換、などについては改善の余地がある、と言われている。実際のサービスにつながる利用を増やすためには、先に述べた公共サービスの付加価値の向上のための方策を考えることが第一である。双方向的なやりとりを増やすためには、相談機能を高めるとともに、FAX、電話、窓口、等どんな方法で相談があっても的確で統一性のある受け答えができるためのデータベースを作りあげるといい。相談を受けた自治体職員が対象となるテーマを検索すると適切な回答がパソコン上に表示されるようなシステムだ。
住民参加を促すための仕組みとして最も普及しているのは電子会議室だろう。住民と行政、あるいは住民同士がインターネット上で議論するための仕組みで、成功している地域では多くの参加者を得ている。ITを使ってこうした情報交流の仕組みができることは望ましいが課題もある。議論の内容がどのように政策等や地域づくりに反映されるかである。
もちろん、ネット上でのコミュニティが創られたこと自体にも価値はあるが、より実効性を求めるのであれば、いずれは電子会議室の議論がいかに地域づくりに反映されているかが問われるはずだ。地域通貨の仕組みにITを導入しよう、という動きもある。地域通貨は住民の持つ能力等を貨幣を介さないで交換するための仕組みだが、ITは住民が提供するサービス等の需給のマッチングシステムとして機能し得る。地域通貨では実際にサービス等の交換が行われるので、ここにITが導入されるとより実体のあるシステムができる。

3  成果のための体制作り

公共サービスの付加価値の向上と行政運営に対する理解と参加のための利活用を進める上で重要になるのは、どのような体制で行うか、である。ここまでの電子自治体の成果を見ると、IT推進部門が直接手がけたシステムやサービスが多く見られる。ITの基盤を整備する時代には、リード役となるIT推進部門による成果作りが必要かつ有効であったことは確かだ。しかしながら、前述した福祉、教育、医療、などといった日々のサービスに直結した分野のシステムをIT推進部門が直接手がけることは難しい。そもそも、人員が不足しているし、例えば、福祉の現場でどのようなサービスを提供すれば住民に喜んでもらえるかを知っているのは、毎日住民と接している福祉部門の方々であるからだ。
ITを実際のサービスに活かせるか否かは、現場部門が持っているノウハウをいかに引き出すか、にかかっている。
そのためには、何よりも現場部門の方々が「ITがサービス向上に役立つ」と思っていただくことが第一である。お仕着せでシステムを与えられ、懐疑的な気持ちでサービスを提供しても住民の満足度を得られるサービスにつなげることは難しい。関心を持っていただいたら、次はどのようなサービスを提供するかを考える。ここで、ITを使ったサービスの仕組みやセキュリティを始めとする留意点に関するIT推進部門のサポートが重要になる。親身で頼りになるサポートの存在が理解されることで、現場部門が持つサービスに関するノウハウやアイデアが引き出され、ITの知見と合体していくことになる。
ここから、公共サービスの付加価値の向上のためのIT推進部門の役割が見えてくる。すなわち、現場部門にITの効果を理解してもらい、ITを積極的に使おうという姿勢と新しいシステムとサービスを創りあげようという意識を持ってもらうことである。
そこで、IT推進部門が行うべきなのは、庁内マーケティングとプロモーション活動である。庁内でのネットワーク作りやセミナーなどのイベントを通じた啓蒙活動、個別の担当者へのアプローチによるテーマの掘り起こし、ITを使ったシステムの提案、現場部門と一体になったシステムとサービスの検討、などである。そして、可能性の高いテーマが出てきたら、企画、財政といったスタッフ部門も巻き込んで、リーディング・プロジェクトとして立ち上げを図る。そこでは、常に現場部門が主体となり、IT推進部門はサポートに徹する。
こうしたプロモーションとプロジェクト・コーディネーションこそが、利活用の段階に向けてIT推進部門が担うべき役割である。基盤整備の段階で培ってきたITに関する素養は、現場部門のIT利用をサポートするために投入するのである。そのためには、IT推進部門のスタッフ構成を変えていくことも必要になろう。基盤整備の段階では、どのようなシステムを整備するかが主眼であったのだから技術系の人材が重宝されたのは合理性がある。一方、作り上げたシステムをどのように利活用するか、が政策の主たるテーマになると、プロモーションとコーディネーションに向いた人材が中心となっていく。技術が分かる人に加えて、新しいプロジェクトの立ち上げに関わった経験のある人材、コミュニケーション能力の高い人材、事業経験のある人材、などの重要度が高まることになる。

公共サービスの付加価値の向上のためには現場部門の主体的な関与が必要なのに比べると、住民の理解と参加を向上させるための施策については中心となるべき部門が必ずしも明確でない。これまでの自治体から住民への情報提供が一方的かつ限定的であったことを考えると、こうした活動のための新たな組織や担当が創られるべきなのだろう。民間企業では投資市場からの要請が強まることによって、IR(Investor Relations)のための専門部署ができた。官民にかかわらず、情報の重要性が高まる中、組織のコミュニケーションは容易に担える役割ではなくなっている。

以上述べたような議論に対して、IT推進部門はただでさえ忙しいのだから、現状の役割にプロモーションやコーディネーションの役割を加えたり新たな部門を創ることは困難、あるいは、新しい機能に投入する資金的余裕がない、という意見もあろう。これに対しては2つの取り組みが考えられる。 1つ目は、技術的な役割の民間事業者へのシフトである。ホストコンピュータ中心の時代には自治体職員自らの手でシステムを立ち上げた例は必ずしも珍しくない。しかしながら、ITがオープン系の技術を中心とした時代になると2つの理由から自治体が自ら技術スタッフを抱えることは難しくなっている。まず、IT分野の技術進化のスピードが速くなったため、自治体単独で技術の進化に追いついていくのが難しくなった。また、公共財政が逼迫する中で技術系人材の強化も難しい。これに加えて、官民を問わずIT関連の技術者の獲得競争が高まったことも人材確保を難しくしている。
こうした状況の中で、多くの自治体職員が、もはや自治体の中で民間企業に伍し得る技術系人材を維持していくことは難しい、と感じている。
そうであれば、電子自治体の技術をサポートする役割は思い切って民間事業者にアウトソースしてしまえばいい。
民間企業への依存度を高めることについては、自治体の中での技術蓄積が空洞化することに懸念を感じる人もいるが対応策はある。一つは、システムの仕様づくりや発注管理を行う機能を別の民間事業者に委ねることである。システム構築の機能をシステムのコンサルティングとインテグレーションに分離するのである。もう一つは、自治体内部に外部から専門性の高い人材を確保することである。既に一部の自治体で実施し成果を上げている。
現在の自治体と民間企業の技術面での格差やますます厳しくなる公共財政の状況を考えるのならば、ITに関する技術の維持については中途半端な自前主義よりも徹底した外部資源の活用を考えるべきだ。その上で、自治体職員はシステムを利用する立場から、システムの基本的な要求水準を作り、民間事業者が構築運用するシステムの管理に専念すればいいのである。そうすることで生まれた余裕をプロモーション機能の向上に向けることができる。
しかしながら、民間事業者にシステムの構築運用をアウトソースし、さらにこれを管理するために専門性のある別の民間事業者を使う、となると当然そのためのコストが発生する。これをどうにかしないことには電子自治体はますますIT関連の資金回収が難しくなる。
そこで、2つ目の視点としてITの調達改革が重要になる。これまでも1円入札に代表されるIT調達の歪みは色々なところで指摘されてきたし、政府からも改善のための指針は出されている。しかしながら、IT調達の問題は解決されているように見えない。その理由はいくつかある。
1つには、海外先進国に比べて日本では公共団体の調達手法が遅れているからだ。自治体の調達の多くがいまであに開発請負や業務委託、あるいは契約条件が不明確な随意契約に依存している状態でIT調達を改革することはできない。ITは土木建築や機械プラントと比べても先端的な契約テクニックが必要な分野なのである。
2つ目は、自治体が十分な技術的な素養を確保することが容易ではないからだ。ごく一部を除けば、専門性のある民間の人材等を確保できている自治体は少ない。また、調達のコンサルティングも全ての自治体が気軽に活用できるほど普及しているとは言いがたい。日本には強力なベンダーが多い割にコンサルティングビジネスが海外に比べて成熟していない、というマーケットのアンバランスがある。国が提示したIT調達の方針を実現するためには、国をあげて調達ノウハウを培う、との姿勢が必要だ。
3つ目は既存の構造は改革するのに複雑すぎる可能性があることだ。統一された整備計画無しにシステムが整備されたケースが少なからずある上、ベンダーお任せ主義になっていることからシステムの実態データが十分に把握されていない、権利関係が十分に整理されていない、という状況が考えられる。自治体担当者にしてみれば、厳しい状況を前に途方にくれるという状況にもなりえる。
しかしながら、こうした理由を指摘しているだけでは仕方がない。IT調達が改革されない最大の理由は、自治体職員が、稼働率が低い、随意契約で競争が無い、仕様が適切でない、といった現状に敢然と立ち向かう姿勢がないことかもしれない。国内経験が無ければ海外の先進的事例を学べばいい。日本で最も先進的なIT調達を実現した岐阜県の電子県庁の戦略アウトソーシングはそうした積極的な姿勢の結果である。また、自らに専門的知識がなければ、日本中を行脚して自治体を救ってくれるコンサルタントを迎えればいい。やる気さえあれば現状は必ず解決できる。
その意味で、現在のIT調達の現状はここまで述べてきた電子自治体の改革のための反面教師といえる。
ITの利活用、すなわち、ITを使った効率化と住民満足度の向上、を実現するために与えられた時間は多くない。短期勝負で目標を設定し、不退転の姿勢で臨むことを期待したい。

 

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