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分散型電源はネットワーク化に向かう (5) 燃料電池のネットワーク化

出典:分散型発電新聞 2004年8月15日

日本総研では、昨年6月にDESS(Decentralized Energy System & Software)コンソーシアムを設立し、民間企業約30社とともにマイクログリッドビジネスの研究を開始した。検討モデルの特徴は、以下の7つに整理される。対象マーケットは限定していないが、現在は集合住宅に燃料電池を導入するモデルを中心に検討を進めているところである。分散型電源のネットワーク利用の将来モデルの一事例として紹介させていただく。

【特徴1】個別分散
 分散型電源はできるだけ細かく分散配置する。集合住宅では、各戸単位で燃料電池を設置する。
【特徴2】統一規格の分散型電源
 統一規格で大量生産された分散型電源を使用する。集合住宅では、各戸に1kWの同規模の燃料電池を設置する。
【特徴3】ネットワーク化
 集合住宅の各戸に設置された燃料電池を自営線でネットワークし、需要家間で電力の相互融通を実施する。また、集合住宅内の電力需要は、各戸の燃料電池だけで全て賄う。
【特徴4】電熱併給
 燃料電池をコージェネレーションとして利用する。
【特徴5】原則自給
 原則として、各戸の燃料電池でその住民の電熱需要を賄う。ただし、効率の向上や不足電力のバックアップなどを目的として、ネットワークを通じた電力融通を実施する。
【特徴6】需給一体性
 需要者自らが供給者となることである。これは、個別分散によって初めて実現する。
【特徴7】単一施設、または単一区画
 ネットワーク化の対象は、単一施設等の単一区域内に限定する。集合住宅の場合、集合住宅内だけでマイクログリッドを構成する。

個別分散で需要一体化

このモデルのメリットは、次の4点である。
1つ目は、やはり総合エネルギー効率の向上(環境性の向上)だ。個別分散では、熱負荷の最も近くに分散型電源が設置される。そのため、熱需要のある住宅の燃料電池を優先的に稼動させることで熱を最大限に有効利用できる。これは、実際の熱融通を伴わずに、バーチャルに熱を融通するということだ。燃料電池は小規模でも発電効率が高いので、大規模なコージェネレーション数台を集合住宅にまとめて設置する場合と比較しても総合エネルギー効率は向上する。加えて、個別分散では熱配管の敷設が不要であり、配管の敷設コストや配管による熱ロスも最小化できることもメリットである。
2つ目は、信頼性の向上である。本モデルでは燃料電池を自営線でネットワーク化し、ネットワーク単位で電力品質調整とバックアップを行う。そのため、電力系統が停電した場合にも、燃料さえ確保できていれば電力供給が継続できる。家庭用などの小型の分散型電源は、電力品質の調整を系統に依存しているため、系統に接続していないと運転ができない。これは、需要家のイメージと異なるだけでなく、接続台数が増えれば系統の安定性や信頼性への影響も指摘されているが、本モデルではこうした課題が解決できる。
3つ目は、経済性の向上である。総合エネルギー効率が向上するため、需要家のエネルギーコストは削減される。一方で、電力品質調整などの新たな機能を持つため、設備関連コストは増えることとなる。本モデルでは、電源単位ではなくネットワーク単位での設備負担となるので、設備増加に伴う経済的負担を極力抑制できる。そういう意味でも経済的合理性は高いと言えるだろう。
4つ目は、需給一体性による需要家の省エネルギー意識の改善である。本モデルでは、エネルギー供給機器(燃料電池)を需要家自らが所有するため、需要家のエネルギーに対する意識改革を引き起こし、省エネルギー意識が高まる効果が期待できる。
一般家庭は、エネルギー消費量とCO2排出量の増え続ける一方で抜本的な対策がない分野だ。燃料電池はその対策の一つとして普及が期待されているが、マイクログリッド技術と組み合わせることで導入メリットは更に増すこととなるだろう。分散型電源のネットワーク化は、こうした可能性も秘めている。

(つづく)

 

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