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シーズをつかめ シンクタンクが提案する再生への処方せん
ニーズに応じた支援サービス狙え

出典:日刊建設工業新聞 2004年6月21日号

危機的状況にあるごみ処理事業
熟練技術者の有効活用で自治体サポート

「導入して最も良かったのは、コスト縮減効果よりも事業期間にわたってごみ処理の担い手を確保できたことだ」。ごみ処理施設に長期責任委託(ライフサイクルにわたり運営業務を包括的に民間に責任委託する方式)を導入した自治体担当者の声だ。PFIなどの民活事業では民間の創意工夫によるコスト縮減ばかりがクローズアップされる。しかし実際には、自治体にとってごみ処理施設の性能を維持して、ごみ処理事業を継続させることがいかに重要であるか、自治体担当者の声はこのことを改めて認識させられた言葉であった。

進む民間委託



従来、ごみ処理施設の運営は自治体の直営が前提となっている。業務委託をする場合でも基本的なリスクを自治体が負うことが多いのが実情だ。ところが、ダイオキシン類の規制強化への対応のため、ガス化溶融炉などの最新鋭の技術導入が進んできたことなどにより、政令指定都市などの一部自治体を除く自治体の技術者が高度な技術を理解し、ごみ処理施設を維持管理することは困難な状況になりつつある。また、財政状況の悪化に伴い、年間数億円を超えるごみ処理施設の維持管理コストを縮減させたいという自治体の意向も強まっている。財政負担の軽減や高度な技術への対応するため、技術力のある民間への業務委託が進むのは必然といえる。こうした流れの中、多くの自治体で、ごみ処理施設の業務委託手法を見直そうという動きが出始めている。石川北部アール・ディ・エフ広域処理組合(石川県)では、RDF専焼炉(処理能力160トン、ガス化溶融炉の運転、維持管理、補修および更新業務、運営期間15年間)に対し長期責任委託を導入した。長期責任委託を導入する効果は大きく四つある。
第1に運転から補修までの一括契約となるため、事業にかかるリスクをパッケージ化できる、
第2に委託契約書に官民のリスク分担を明文化するので民間にリスクを移転できる、
第3に長期間にわたる契約を締結することで財政負担の平準化が図れる、
第4に性能発注による民間の創意工夫で約3割のライフサイクルコストの縮減が可能になる
などである。
長期責任委託は従来の業務委託の延長として解釈できるため、現行法の範囲内での導入が可能である。自治体にとって効果があるだけではない。民間にとっても事業運営の裁量権が大幅に認められるというメリットがある。まさに自治体、民間の双方にとってメリットが見込める新しい委託方式だといえよう。現在まで、石川北部アール・ディ・エフ広域処理組合をはじめ、長期責任委託の導入事例は5件を超えている。

サービス水準の維持が問われる



ごみ処理施設は稼動年数が経過するとともに、施設の劣化に伴う維持管理コストが増大し、予期せぬトラブルも発生しやすくなる。また、住民の環境意識の向上に伴い、ごみ処理に課される地元との協定事項や環境基準は強化される傾向にある。ごみ処理施設でトラブルが発生すると、信頼を回復させるのは容易なことではない。このため、適切に維持管理することはごみ処理を継続する上での生命線であるともいえる。
財政が潤沢であった時代には、予防保全の考え方に基づき十分な維持管理がなされていた。しかし、昨今の厳しい財政状況の中、ごみ処理事業に対する予算枠が縮減され、本来必要となる維持管理計画と予算枠との乖離(かいり)は大きくなる一方だ。限られた予算で、ごみ処理施設の性能を維持するには、周到な計画に基づいた運転や維持管理が欠かせないのは言うまでもない。ところが、実際には予算枠の縮減に応じ、その場しのぎの対応に留まり、重要な設備の整備項目が積み残されるケースが多く見られる。十分な維持管理がなされず、事業リスクを先送りすれば施設の稼動を脅かす重大なトラブルが発生する可能性が当然高まる。財政状況が厳しい中で、いかにトラブルを減らし、ごみ処理事業を安定的に継続させるか。多くの自治体が直面している課題だ。


モニタリングの重要性



こうした課題を解決する手法として長期責任委託は有効だといえよう。ただ、長期責任委託をはじめとする業務委託を導入した自治体には、管理者として説明責任を果たすためにも、高い水準でモニタリングを実施する能力が求められる。
日本総合研究所が実施した『ごみ焼却施設での民間委託についてのアンケート』(02年5月)によると、約4割の自治体が「民間の業務を評価できる人材がいない」と回答している。長期責任委託などを導入した場合、民間の事業内容を判断するモニタリング能力に不安を抱く自治体は少なくない。モニタリングを実施するに当たっては、モニタリングの仕組みと、技術的な素養を持った技術者の存在が必要である。しかし、個々の自治体がそれぞれモニタリングの仕組みを構築し、専門的な技術者を確保することは極めて困難である。そこで、民間のプラントメーカーを退職した熟練技術者によるごみ処理事業のモニタリング支援が注目されている。「現場を歩いて音を聞くだけで施設の維持管理の状況が分かる」(メーカーを退職した熟練技術者)。こうした熟練技術者であれば、高度な現場経験だけでなく、モニタリングに求められる中立性を確保することも可能であろう。さらに、現場への技術や知恵の継承も期待できる。長期責任委託などのPPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)では、長期間にわたり事業を安定的に継続させるためのモニタリングが不可欠である。ごみ処理事業におけるPPPに向けた動きは今後確実に加速する。自治体のニーズに応じた支援サービスのビジネス展開が期待される。
 

 

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