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自治体におけるアウトソーシング導入のポイント 最終回

出典:地方財政 2004年4月号

付加価値の高いアウトソーシングマーケットを


1 構造改革の受け皿としてのマーケット

アウトソーシングに関する連載の最後として民間マーケットとの共存について述べることとする。日本でアウトソーシングというと、公共団体が行なっている業務を民間事業者に委託することで、サービスの質を同等以上に保った上でコストを削減する、という理解が主流だ。また、多くの場合はコスト削減が絶対命題になり、コスト重視で事業者を選定する傾向が強い。アウトソーシングを行うために一定以上の質を前提としてコストを削減することは重要だ。ただし、これはやみくもに民間事業者を「叩けばいい」ということを意味していない。仮に、一回切りのアウトソーシングを行なおうとするのであれば、コストだけの評価で民間事業者を選定しても一定以上の質を確保した上でコストを削減することは可能であろう。しかしながら、近視眼的な結果だけを重視した調達が長い目で見て公共団体にとってプラスにはならないだろう。長期的に効果のあるアウトソーシングを行なうためには、民間マーケットとの共存を図ることを考えなくてはいけない。昨今の日本の公共財政の状況や政策の流れ、あるいはアウトソーシングにおいて先進的な諸外国の経緯を見ても、アウトソーシングはひとたび歩き始めたら戻ることはできない道であるからだ。公共団体にとって、アウトソーシングとは、公共団体が本来手がけることに集中し、実務的な業務は民間事業者に委ねる、という選択と集中のための取り組みである。そこで、民間マーケットがその受け皿となるのならば、長期にわたって公共側からの高度な要請に応えうるマーケットが形成されなくてはならない。そのためには、複数の民間事業者が切磋琢磨し成長していけるマーケット作りが不可欠だ。構造改革の成功とその受け皿となるマーケットの成長は表裏一体の関係にある。以下では、公共団体としてアウトソーシングを通じて良質なマーケットをいかに作るかを考えてみたい。日本の公共投資はピークで40兆円、GDP対比で8%にも達するレベルにあった。昨今の投資抑制で減ったとはいえ、いまだに20兆円は優に超えるレベルにある。一般に、大きな市場からは競争力の高い企業が輩出するものだが、世界最大級の建設投資大国である日本の建設会社の国際競争力は高くない。技術力やスケジュール管理などについては高い
評価を得ているものの、国際市場でのシェアは低下傾向にある。こうなった理由の一つは、業務を発注する公共団体の要請が時代のニーズに即したものではなかったことだ。昨今、海外の有力な建設会社の収益基盤はコンセッションやPFIのような付加価値の高い事業によるものだ。これは、構造改革の中で、顧客側が事業者による主体的な事業運営とファイナンスを含めたリスク移転を望んだからである。日本では構造改革が遅れたため、付加価値のある事業が立ち上がらず、公共マーケットで業務を受託する民間企業の競争力が低下した。二つ目は、競争政策が不十分だったことだ。日本では強い企業が育つべき分野でも、競争より共存が優先されたため、強力な企業が育つための大規模工事やマネジメント能力が要求される事業への取り組みが大幅に遅れた。
日本の構造改革手法でトップを切って導入されたPFIにおいても付加価値の高いマーケットが立ち上がっているとはいえない。まず、専門的なサービスオペレーターが育っていない。付加価値の高い民間マーケットの中心となるのは施設等の建設事業者ではなく、サービス提供者であるべきだ。施設建設というビジネスは、あくまでサービスの主体である公共団体に必要となる事業資源を提供するためのビジネスであるからだ。日本のPFI市場で活躍する企業の多くは、建設、プラント関係の企業である。先進的な経験を持つ外資系企業の活躍が見られないことも問題だ。既に日本市場から撤退した企業も複数あるし、プロジェクトファイナンス等に高い実績を持つ外資系金融機関の活躍もない。先進的なノウハウを有する外資系企業の活躍が見られない理由は、日本のマーケットに彼らの先進的なノウハウを評価する仕組みが無いからである。三つ目は、マーケットが全方位的に発展していく、というイメージを持てないことだ。PFI法施行後5年経っているにもかかわらず、一分野で事業数が10を超える例は一つもない。自治体の数が3,000を超えることを考えると、分野ごとのPFIの普及率は1%にも満たないことになる。このような状況が続いていくようでは、構造改革の受け皿となる付加価値の高いマーケットを作ることはできない。

2 投資対象となるマーケットを

構造改革の受け皿となるマーケットを作るためには、民間事業者が思い切った投資ができるマーケットとしなくてはいけない。民間企業は新しい分野に投資する場合、投資回収に数年以上の期間を要するのが一般的だから、数年先のマーケットが見えないことには大きな投資の判断はできない。専門的なオペレータが育っていないのは、日本での本格的な改革に関していまだに懐疑的な見方が多いことの現われだろう。マーケットの期待を高めるためには、政府が将来の改革に向けた明確な目標を示すことが基本だろうが、個別の公共団体でも目標や方針を明示することは可能だ。例えば、5年、10年の単位でアウトソーシングの目標を示すことができれば、多くの民間事業者の注目を集めることができる。それによって、優れた民間事業者による質の高いサービスを先行的に調達し、他の団体に対する差別化を図ることができるかもしれない。次に言えるのは、付加価値が認められるマーケットを作ることだ。価格だけを叩き合うマーケットで付加価値のあるサービスを提供する事業者は育たない。付加価値の高いアウトソーシングではサービスの質は実務を担当する民間事業者の知見やノウハウに依存する。公共事業やPFIでも質とコスト両面から評価を行なう総合評価方式が導入されているが、民間事業者の付加価値を取り込むのにはまだまだ不十分である。民間事業者から提出された提案書を一方的に評価するという従来の入札を躊躇した方法では民間事業者の付加価値を評価することはできない。付加価値を評価するために不可欠なのは民間事業者とのフェース・トゥ・フェースのコミュニケーションである。提案書で事業者を決めようとするのは、責任ある立場の業務を頼む人材を書類だけで評価するのと同じだ。コストにしても、長い目で見れば、提案された内容を変更できない入札制度に縛られて価格を叩くだけよりも、重要度の低い部分の仕様を落とし、重要度の高い部分に資金を振り向けるための交渉を繰り返した方が効果的だ。その上で、民間事業者がとっておきのアイデアを出せるような個別交渉ができれば、質とコスト両面での効果はさらに高まる。こうした民間事業者選定を行うことの前提として、信頼あるマーケットを創るために、どの程度の競争性を求めるかを考えなくてはいけない。理論的には5社の中から選らばれた企業よりも10社の中から選ばれた企業の方が優れている可能性があることは否定できないが、構造改革の受け皿となる付加価値のある民間マーケットを創るためには、公正な範囲で、ある程度の協調が存在しえる適切な競争状態があった方がいい。海外のマーケットを見ても、毎度の入札で過剰な競争が行なわれているような状況はない。民間事業者がサービスの付加価値を維持するためには継続的に一定以上の仕事量を確保することが必要だからだ。業務を受託するまでに要するコストの問題もある。付加価値の高い業務はリスクを伴うから、受託までの検討や契約交渉にコストがかかる。PFIなどで、業務を受託するまでにかかるコストは請負工事とは比べ物にならない。ここで、常に10社が応札するような競争環境にあった場合、受注する業務には10回分の応札コストを上乗せしなくてはならない。こうしたコストを無視すれば、結果的に割高な調達コストとなって公共側に跳ね返ってくる。付加価値の高いサービスのための適正な競争環境は請負工事のそれよりも低くあっていい。その代わり、業務を受託するに当たって厳しい資格要件を求めるなどにより適切な競争環境を作ればいいのである。競争環境を多少犠牲にしてでも、事業者への信頼性を優先するのが高付加価値マーケットといえる。民間事業者の選定は、国全体というよりも、むしろ個別の公共団体の取り組み姿勢の問題である。最近では、硬直的だった入札制度に対しても柔軟な解釈が浸透しつつあるから、個別団体の判断で民間事業者の付加価値を評価することは可能である。一方、民間事業者の付加価値を評価するためには、説明性に関する意識を高めていかなくてはならない。付加価値の高いサーービスの調達は価格だけで決めることはできない。公共団体が自らの置かれた状況に応じて民間事業者に要件を提示するのであれば、事業者の選定が各団体の価値観に依存する部分があるのは当然である。しかしながら、日本では、定性的な説明を避け、定量化に走ろうとする姿勢が散見される等、自らの価値観を主張して事業者を選定しようとする人は残念ながら多くない。付加価値のあるサービスに関する民間事業者の選定結果を100%客観化することは所詮不可能である。客観性に固執せず、たとえ定性的であっても、自らの価値観を毅然と説明する姿勢を重視すべきだ。その結果として、事業者選定の結果等に対する議論は当然起こるだろうが、付加価値のあるサービスを求めるのならば、公共団体として選定に至った経緯を住民等に真正面から説明し議論に応じる、という姿勢が不可欠である。投資優先の開発段階を終え、公共団体独自で最適な方向性を目指すことが迫られている中、個別の事情に応じた主体的な判断とそれに対する説明性が避けられなくなっている。そこでは、公共団体には説明力、議論への対応力、あるいはそのための開かれた組織運営などが求められているのだ。

3 公共団体の責務

信頼感のある民間企業を選定し、創意工夫と自己責任を委ねることにより、効率性と質の絶妙なバランスを維持する、というマーケット指向の構造改革は決して公共セクタ-不要論を意味していない。公共セクターの存在意義は今後もなくなることはない。求められているのは公共セクターの役割シフトである。第一に重要となるのは、限られた経営資源をどこに投入していくかを明らかにすることだ。選択と集中に基づく構造改革の出発点は公共セクターの経営戦略である。自らの主体性が決まっていない中で、コスト削減だけを目的としてアウトソーシングを行なっても高い効果は期待できない。アウトソーシングで議論の対象となる官民のリスク分担はそもそもこうした選択と集中の戦略に基づくものでなくてはならない。その上で、アウトソーシングを進めるに当たって、公共団体職員の雇用に関する姿勢を明確にしておかなくてはならない。付加価値のあるアウトソーシングを進めるといっても、既存の業務に関わっている公共側職員の存在を無視することはできない。ただし、もともとアウトソーシングは現状対象業務で働いている公共側職員の仕事を奪うことを直接意味するものではない、との理解も必要だ。海外のアウトソーシングでも、公共側職員を民間事業者が受け入れるなどして雇用は確保されている。その際、民間事業者が当該職員に対して従来と同等以上の雇用条件を提示するとともに、効率化で過剰となった人材にも他の活躍の場を与えている。多くの公共団体では、雇用などの問題から今すぐアウトソーシングを実行することは難しいが、10年先には職員の退職などで公共団体だけでは支えられなくなる、という状況にある。そこで、当面は公共団体が中心となって事業を運営することを前提としつつ、施設の維持管理等の業務だけを民間に委託し、官民で長期的な人材確保の計画を合意しながら、公共側の人員が不足する分、徐々に民間の人員を増やしていく、という方法が考えられる。例えば、こうした具体的な方法を提示することで、雇用を守りながら、サービスを支えるノウハウを民間に徐々に移転するためのビジョンを示すことができる。マーケットに対しても公共セクターが負うべき重要な役割がある。性能発注やアウトソーシングはひとたび開始されると民間への委託内容が広範かつ高付加価値化し、民間事業者に求める素養は高度にならざるを得えず、結果としてマーケットの淘汰へとつながっていく。そこで、付加価値の高いサービスに対して相応の報酬が支払われていくのなら、そこに参加する企業にはこれまで以上に高いモラルと責任感が求められるは当然だ。そこで重要になるのが、厳しい監視とペナルティの執行者としての公共団体だ。日本では談合等が発覚すると指名停止等の措置がとられるが、何時まで経っても談合がなくならない、という状況はペナルティを含めた監視、公正のシステムが十分に機能していないことを示している。構造改革の受け皿となる付加価値の高い民間マーケットを育成するためには、公正なマーケットづくりが不可欠である。付加価値の高いサービスと信頼性を期待されている民間事業者は、期待に応えられなかった場合に厳しい措置を受けなくてはならない。そうでなければ、高付加価値のマーケットは限られた民間事業者が自由に報酬を分け合うマーケットになりかねない。昨今、国レベルでは公正取引委員会の機能強化や違反業者に対するペナルティ強化などが検討されているが、個別の公共団体でも、内部での規律を強化する、情報管理を徹底する、付加価値の高いサービスに対して厳しい資格条件を提示する、など公正なマーケット作りを指向することはできる。マーケットの監視強化に対して、経済界からはいまだに反論が出るが、公共団体にはこうした姿勢は付加価値の高いマーケットの形成を脅かすものである、という毅然とした姿勢が求められている。

4 第三者機関マーケット

公正なマーケットの育成のためにもう1つ必要なのは、専門的で厳格なジャッジメントとアドバイス機能である。New Public Managementが進む先進国では、弁護士、コンサルタントといった第三者的な立場から専門的なジャッジメントやアドバイスを行なうサービスが発達している。という。この点で日本は、弁護士はアメリカの20数分の1しかいないし、コンサルタントのノウハウのレベルはまだまだであるなど、欧米先進国から大きく立ち遅れた状況にある。サービス機関の量と質だけでなく、モラルの面でも見直すべきところがある。一部の分野ではコンサルタントが事業者の選定に恣意的に関与することが珍しくないなど、ジャッジメントやアドバイスに求められる公正さに対する自覚は不足している。自由で付加価値の高いマーケットでは、ジャッジメント、アドバイスのマーケットに対してはアウトソーシングの受託事業者に対する以上に厳しい姿勢が求められる。弁護士、会計士、コンサルタントは委託者の経営の根幹に関わる重要な情報に接するのだから、守秘義務を始めとする責務と高いモラルが求められる。例えば、重大な談合等に関与した場合、ジャッジメントやアドバイス機関には、指名停止などのプレーヤーに求める措置を超えた厳しい判断があってもいい。不正を行なうようなジャッジメントやアドバイスは存在理由がないのだ。アメリカが世界有数の監査機関であったアンダーセンに鉄槌を下したように、日本でもマーケットのルールを犯した者に対しては厳格な姿勢で臨まなくてはいけない。一方、厳しい姿勢で処することの条件としてジャッジメントやアドバイス機能の委託の方法についても考えなくてはならない。現状では、これらの機関の選び方が公共事業等の事業者と大差ないし、専門的な業務に相応しいレベルのフィーが支払われていない。これでは、専門的な知見と高いモラルが支払われていない。これでは、専門的な知見と高いモラルを持ったジャッジメント、アドバイスの機能は育たない。専門的で責任あるポジションに対しては、付加価値を評価することと、適切な報酬を支払うことが不可欠だ。日本では重要な事業に対してマネジメントコストを払う、という概念がまだまだ希薄だが、事業を適切にマネジメントするには、専門的なアドバイスができる第三者機関が必要であり、それに対しては初期投資の3%程度のマネジメントコストがかかる、というのが国際常識である。それをないがしろにした構造改革の行き着くところは、これまでと違った形でのハードウェア依存でしかない。公共事業が談合に陥ったのも、第三セクターで不良債権が続出しているのもマネジメントコストを認めなかった日本のマーケットの慣行と無縁ではない。

おわりに

ここまで、アウトソーシングの基本的な構造に加えて、廃棄物、病院等、個別分野でのアウトソーシングのあり方について述べてきた。確かに、適切なアウトソーシングを行なうためには、基本的なノウハウや個別分野での事情を理解することは重要だ。しかしながら、本稿で述べたように、アウトソーシングとは本来公共団体の改革を基盤として実施されるべきものであって、流行や国からの指示によって行なうものではない。まずは、アウトソーシングの手法論から入り、結果的に包括的な改革につながっていく、という方向もあり得るが、最終的には公共団体がどのような姿を目指しているかを明示しなくてはいけない。という理解が必要なのだ。
本稿で述べたようにマーケットに対する理解も不可欠だ。付加価値のあるマーケットから抜け駆け的に短期的なコストメリットを享受する、という取り組みができないではないが、そうした姿勢はマーケットを傷つけるだけでなく、マーケットからの評価を下げるというリスクをも伴う。公共団体が社会から求められている改革を成し遂げるためには、自らの取り組みをもってモラルを示さなくてはいけない。マーケットとの共存ではそうした姿勢が問われている。
日本でもアウトソーシングやPFIが普及し始めて数年が過ぎた。今こそ、単なるコスト削減のツールとしての理解を排し、本質を捉えた取り組みが求められているといえよう。

 

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