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NTT接続料問題(IP電話時代の新たな課題)

新保豊

出典:読売新聞「けいざい講座」 2003年2月24日

 IP(インターネット・プロトコル)電話の普及が進むなか、NTT接続料金問題がにわかに注目され始めた。総務省の省令案が三月に実施された場合5%程度値上がり、新電電・新興勢力への業績低迷は避けられない。減収に悩むNTTの経営への影響や、ブロードバンド市場勃興期での競争問題にも影響を与えよう。問題の本質を概観したい。

 NTT接続料とは、1994年当初KDDIや日本テレコムなどの新電電、および最近ではフュージョンやソフトバンクBBなどのIP系新興勢力を含め、各社がNTTの加入電話網を相互接続する際に支払う事業社間の回線使用料のことである。
 同回線使用料は各社合計で現在約4,000億円。各社の通話料収入の約40%を占め、経営の舵取りを大きく左右する。

 一方この額は、基本料、通話料、接続料(回線使用料)から成るNTT東西の固定電話収入約3兆4,000億円の中では約12%。とはいえ電話収入の減少に歯止めが利かない、最近の両社の経営状態からは一歩も譲れない貴重な収入源となっている。

 2月14日総務省は2003~2004年度のNTT接続料を現行より引き上げる省令案を情報通信審議会(同省の諮問機関)に答申。初の値上げの見込みである。
 過去毎年の引き下げに加え、日米接続料交渉合意に基づき、NTT東西は2000年度には20%超も引き下げた。

 今回の接続料改定に関する直接の引き金は、固定電話の通信量が2000年度をピークに減少へ転じていることにある。
 これは携帯電話や、NTTの交換機を経由しないADSL(非対称デジタル加入者線)への移行が大幅にあるためだ。2001年度の通話時間は前年比で30%超も減少する構造変化が生じている。

 現行接続料は1998年度の通信量を基準に算出されている。省令案では市内交換機(GC)接続で3分4.50円が4.37円へ下がるが、中継交換機(ZC)接続では同4.78円が5.36円へ。双方の加重平均で約5%の引き上げとなる。
 ZCでは、少ない接続ポイントでサービスを拡大できるため初期コストは小さい。新興勢力での接続形態はほぼ例外なくこれを用いているため、経営への影響は甚大だ。新電電ではGC接続が多いがそれでも総額年間50~100億円程度の減収につながる。それで各社は猛反発する。

 通信量が大幅に減少した場合、事後的に接続料を引き上げる事後精算制の問題もある。同制度が導入されれば、4月以降にもし2003~2004年度の通信量の減少幅が15%以上だったならば、接続料はさらに0.4~0.5円上昇する。
 NTTへの接続事業者とすれば、さらなる追い討ち要因になる。今のデフレ下、IPベースの機器・設備などの投資や収益見通しへの計画変更も迫られる。

 またNTTとすれば、同減少幅がそれ以下であれば500億円程度の接続料未回収要因となる。
 すでにNTTでは10万人規模の転籍・出向などの合理化を余儀なくされている。また、最近の電力通信系各社による光IP電話までが、NTT回線を経由しないといった事業環境の変化が加わるなどで、これ以上接続料収入が減れば固定電話網を維持できない。泣き面に蜂である。

 当面は前述の事後精算制のあり方が問われる。
 一方、NTTないし与野党議員の反発もあってか、通信量に依存しない加入者回線コスト(き線点RTなどの回線設備分)の接続料からの分離問題は今回も先送りされたようだ。

 たとえ同分離を行い、NTT基本料金への上乗せをするにしても、接続料問題の不具合を解決すべき時代的要請が出てきた。ただし、過去7年間1回も値下げのない不透明感のある基本料を値上げする場合には、前述の固定電話網の維持に関する社会的合意が不可欠となる。

 時代的要請とは、ブロードバンドIP化への対応である。
 その対応を誤れば、IP系新興各社によるIP電話などの新しいサービスは、目下の競争力を減じられる可能性がある。
 問題の本質は、接続料問題が、今発展しつつある新しい競争問題に対し、大きな弊害をもたらす要因を孕んでいることだ。

 少々先に眼を転じれば、接続料を巡る固定電話からの、NTTを含む各社収入の多寡そのものの背後に注目すべきであろう。
 固定電話市場のパイが縮小化(設備は不良資産化)しつつある、昨今の構造変化は回避しがたい。IP電話の普及で、電話機能がブロードバンドサービスの付属物となる予感がある。

 ブロードバンドIP時代の新しい競争下にあって、NTT陣営と競合他社陣営の両者にとって「拡大均衡」とするための知恵(創意工夫)と英断が、接続料問題にも求められている。  
 

【図表】 NTTの接続料金(3分間)の推移

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