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イノベーション創出~コア技術でナンバーワンをめざせ~

出典:松下電器「新経営研究」 2003年4月号 ※インタビュー後に新保が加筆

「範囲の経済性」と「模倣障壁」

(1)勝ち残れる日本企業とはどのような企業でしょうか?

 最近は韓国や中国企業の躍進がめざましいが、日本にも特長を出して勝ち残っている企業がある。インターネットでは楽天、ブロードバンド通信ではソフトバンクBB、製造業でも半導体関連の圧縮技術に絞ったアクセルやザイン、メガチップ、効率的な金型製作に独自性をもつインクス他、10社ほどの元気印企業がある。
 かつての松下、ソニー、ホンダもベンチャー企業であった。これらの強いベンチャーには表のような共通の特長がある。 
 

【図表1】 日本企業再生の鍵を握る「ICTマネジメント」 

 
(注)  「CVC」: Customer's Value and our Competence。 
(出所)  日本総合研究所 ICT経営戦略クラスター(新保2002) 

 
 特に勝ち残りの条件として、少数企業による寡占化が進む「規模の経済性」から、コア技術の上に乗る複数の異種事業間シナジーを追求する「範囲の経済性」に収益源泉が移っていることを認識すべきである。  
 また、技術の独創性(クールさ)やパットン将軍配下の軍団(熱さ)のような他社が簡単に真似できない「模倣障壁」を如何に創り出すか。「範囲の経済性」と「模倣障壁」を武器に企業と個々人のビジネスモデルを構築してゆくべきだ。

(2)ベンチャー以外の日本の企業は勝ち残れないのでしょうか?

 ベンチャー企業の成功例は1つの側面。もうひとつの側面は伝統的な事業領域を含め、当初一見小さくとも異なる市場を生み出す持続力の発揮はどうかだ。
 例えば松下さんとも取引のある双葉電子工業では、大企業では手がけない蛍光表示管(シェア7~8割)など3つのコア事業を手がけているが、R&D部門における個々のエンジニアの発想と行動面において異色・異能なしくみづくりのトライ&エラーを日々行っている。  
 
●  チームを作り技術者にマーケッティング、事業計画、アクションプランを担当させ、さらに最終のお客様と接する機会を与え、事業全体を体得するようにさせている。 
●  ロシア人などの外国人技術者の知見を取り入れている。これは低コストの雇用を目的としたものではなく、高い技術ノウハウの取り込みのほか、異文化の発想法などを学ぶためである。 

 これらの取り組みこそ自ら体を張った特定市場で生き残るための要件となっている。

イノベーション創出のために

(1)それでは大企業が勝ち残るためにはどうすればよいでしょう?

 かつての日本企業を代表する強力なパワーであった「総合企業」をバッシングする風潮が最近あるようだ。しかし、企業が「総合」であるか「専業」であるかのタイプそのものは、企業のビジネスモデルに関することであり、企業にとってより本質的なこと(変えがたいDNAのようなもの)ではない。
 その時々の経営環境に合わせて自らを順応させることができるかが、その企業にとってより本質的なことだろう。

 すぐにDNAを変えるのは難しいだろうが、経営環境の変化に合わせ、企業自らを変革するには、個々のスタッフやチーム作りを通じ、「空気」を変革することが先決である。 ところが大概の総合企業にはその議論がないか、あるいは不徹底であったり、そのイメージがない。
 その次に企業トップのマネジメントの問題として、総合と専業、といったビジネスモデルの選択、あるいはどのようなモデルを創案し、そのモデルのもと、企業を引っ張っていけるか。その意味で、この2つのモデルはどちらも存在し得るものである。つまり、総合とか専業といった形(モデル)は二の次になる。もちろん、時代環境に相応しいモデルを選択すること、あるいは総合モデルであっても、米国GEのように、事業のポートフォリオに柔軟性をもたせること、言換えれば「選択と集中」は基本的なキーワードとなるだろ。

 一方で、国と企業との取組み・連携も重要な課題である。しかし、例えば、今も昔も「企業は人なり」は不変だ。その意味で現在の不況や自信回復には、起業人にメスを入れることは大切な取組みである。しかし、最近の経済産業省のベンチャー人材開発プログラムには、いろいろと欠如している視点がある。
 それは次のようなもので、結果的にまたも税金の無駄遣いになりそうな、「仏つくって魂入れず」のような仕組みのものが相変わらず登場するといった印象を与える。 
 
●  ベンチャーキャピタルの存否や資金調達に関する円滑な仕組みなどが不十分だとする問題はあくまで「外堀り」の議論。 
●  また、ベンチャー・キャピタルをわが国で生み出すための人材開発カリキュラムなどが検討されているが、これも同様に「外堀り」の視点。 
●  これまでの国の取組みの中には、橋や道路や建物といった箱物づくりに象徴されるものが多くあった。そして、ITやソフトウェア、サービスへの産業上のウェイトが高まる今日においても、やはり制度やプログラムといった、外見のことが中心になっている。 
●  そこに資金を投入しても、期待するほどの効果は得られない。Eビジネスやeコマース分野において、当時、国の産業・企業育成プログラムとして相当に税金が投入されたが、これといった企業は出現もしなかったし育成もされて来なかった。より本質的なものにメスを入れなかったからだ。 
●  強い企業、市場で生き残れる企業とは、経済的に合理性のあるプロセスを通じ、顧客への価値創出ができたかどうかどうかにあるが、国のプログラムではそこまでは無理。あるいはそれがミッションでもなかったわけである。  
 
 これらは 「空気」や「DNA」を変革できるような契機づくりとなっていないが、それでは国と民間との連携を通じそれができないかというと、そうでもなさそうだ。例えば、少し前に金融危機に直面した韓国がIMFからの勧告を受け、国を挙げて「集中と選択」を行い、見事に世界トップクラスのブロードバンド大国、あるいは半導体などの分野でトップの地位を得ることに成功した。効果的な膨大な資金と優秀な人材の集中的な投入と、その背景としての危機感、修羅場的な雰囲気(空気)が、幸か不幸か当時、国全体にできあがっていたといえる。

 翻ってわが国、あるいは日本企業の実態を眺めてみると、前述の顧客への価値創出の点で、自らの強固なこだわりや思い入れなどについて、韓国や米国シリコンバレーあるいはイスラエルなどの企業戦士には負けている。

 今の時代に、戦士などとは古臭いかも知れないが、戦う志(気持ち)の無い状況で、現在の戦争である企業競争に勝つことは決してできない。

 その前提があって、例えば、商品開発などのプロセスにおいては、すぐにはリターンが得られそうもない、現実から遊離・超然とした状況下のR&D活動などを通じ「セレンディピティ(serendipity)」が個人やチームに備わってくる。この能力の獲得を通じてこそ、業組織の空気を変え、DNAを変革できることとなる。
(注)「セレンディピティ」:一見偶然の事象から本質を見逃さない洞察により、創造的発見を導く造作や能力のこと。

 わが国のマーケット成長において、最近随所で閉塞感が漂うように見えるのは、成長が飽和している場合が多いからであろう。飽和は「イノベーション→差異化→低コスト化」というマーケットの流れの最終局面で起こる。わが国の大企業の多くが、現下、価格競争に陥っているのはその証左といえよう。低コスト化のフェーズに長く留まり過ぎている。

 まさに総合企業あるいはそこでの企業(起業)人には低コスト化からイノベーションへの転換が迫られている。 どう変革するか。閉塞状況の日本の企業を変える方法には「黒船効果」がある。外国人を自陣に送り込み、外圧により変化の「契機」を与えイノベーションを引き起こすのだ。

(2)イノベーションを生み出す手法として新保さんがご提案のICTマネジメントをご紹介下さい。

●ICTマネジメントとは
 ICTのCは情報通信のCommunicationという意味の他に、次のようの意味がある。ICTのCは人間的なもの、右脳的なものである。実践する個々のスタッフの人間力が重要である。

 1.顧客とのCommunicationのC
 2.コラボレーションのC
 3.コーチングのC
 
 

【図表2】 日米の意思決定やアクションにおける相違 

 

(注)  「CVC」: Customer's Value and our Competence。
「セレンディピティ(serendipity)」:一見偶然の事象のなか本質を見逃さない洞察により創造的発見を導く造作・能力。 
(出所)  日本総合研究所 ICT経営戦略クラスター(新保1999-2002) 
 
 図中の「CVCの仕掛け」における、カスタマー(C)、そのバリュー(V)とそれを実現するための自社のコンピテンス(C)からなるトライアングルにより、イノベーティブな商品とそれを生み出す仕組みづくりが競争力の源泉になる。自社のからだに組み込まれた固有の型(モデル)は変えがたい自社の価値基準、行動規範のようなものである。

●意志決定
 意志決定の仕方や組織面での文化・風土が異なる状況下で、米国流のメソッドを導入しても逆効果となる。 
 

【図表3】 CVCの3軸空間と企業/事業の型(7つの事業展開モデル) 

 

(注)  「CVC」:Customer's Value and our Competence。「4.マイスターA型」「5.マイスターB型」は、事業拡大などを経て「2.デファクト標準型」へのシフトもある。 
(出所)  日本総合研究所 ICT経営戦略クラスター(新保1999-2002) 
 
 鍵を握るのは「トップ下スタッフ」である。トップダウンというよりも、スタッフによる「これなら行ける」という現状を打破するコンセプトや戦略のもと、イノベーティブな商品と事業を創造・再構築するパワーが求められる。

松下への提言記事

 昨年、NHKで放送された松下の中国戦略のTVを見た。意気揚がる中国に(ビジネス面でこのまま)いい思いをさせてはならない。コモディティ化の進んだ商品領域で戦うならば日本は守勢を余儀なくされる。それを打破するのはやはり有為な人材(パワー)だ。「社風」や「人の意識」を変えるのは難しいが、この問題に取り組むことが常勝への布石となる。

 日本企業全体として、過去に例外なく頭角を現した人がかいくぐってきた "修羅場"の経験が今決定的に不足している。「ボリュームの洗礼」が必要だ。クリティカルマスを超えると量から質に転換でき、浴びるほどの新境地や未知の体験へと自らを追いやることで発想と行動規範の転換(セレンディピティの獲得)ができる。

 どのような仕組みでやるかが課題であるが、松下さんにとって日本企業の縮図・代表としてのチャレンジし甲斐のある主題ではないでしょうか。

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