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ホームページ運営に何を期待するか

出典:月刊自治研 2003年11月

1、電子自治体の中でのホームページの位置づけ

2003年を目標年度とした電子政府の取り組みは佳境に入ってきた。多くの議論を促した住民基本台帳ネットワークやICカードも導入に向けた取り組みが始まり、共同アウトソーシングセンターなどの新たなプロジェクトも立ち上がっている。また、CIO(Chief Information Officer)を設置する自治体も少なからずあり、IT整備はBPR(Business Process Re-engineering)と並行して初めて効果を発揮するといった議論も普及した。電子自治体にまつわる動きを、例えば筆者が深く関わってきたPFI関連の活動と比べても、本質的な議論が行われてきたと考えられる。筆者は、「電子自治体」(日刊工業新聞社、1999年)以来、電子自治体は自治体改革のための重要な取り組みになる、と指摘してきたが、それが現実になる可能性も出てきた。
電子自治体の活動が改革と連動してきたことで、これまで紹介された様々なシステムを再評価することが求められている。その中で、改めてその重要性を感じるものの1つがホームページである。
筆者は、電子自治体は、行政運営の効率化、行政サービスの付加価値の向上、行政運営に関する理解と参加の促進、を軸として進められるべきとしてきた。ホームページは、こうした基本理念から見ても重要な機能である。
例えば、ホームページ上での情報提供量が増える、情報提供を通じて行政サービスの利用度が増える、ということになれば、情報提供や行政サービスに関する投資効率が上がる。また、これらに関する事務が効率化されることにもつながる。
行政サービスの付加価値を向上することもできる。例えば、ホームページを通じて介護家庭への情報提供機能を高めることも可能だし、双方向性を活かして生涯学習などの機能を向上することもできる。また、ホームページを介することで、これまで手がつけられなかったサービスを実現することもできるようになる。
地域住民の理解と参加にも大きな威力を発揮する。国内外にかかわらず電子自治体先進地域と言われている自治体では、この点に関する取り組みに力を入れている。基本的なところから言えば、ホームページは情報公開のポータルサイトでなければならない。その上で、単に情報を発信するだけでなく、地域住民との双方向的な議論の場として電子会議室を整備することなどが行なわれている。
以上、簡単に考えただけでも、ホームページは電子自治体を推進していく上での基本機能ということができるのである。

2、ホームページに整備すべき機能

[1]問われる双方向的機能

次に、どのような機能をホームページに整備していくかを考えてみよう。1990年代の半ば、自治体にホームページが導入された頃は、地域の景色や首長の写真等、データ量の大きなデザインが先行し、提供される情報については質、量ともに今ひとつ、という状況があった。さすがに、最近では、こうした画像偏重のサイトは減ってきたが、機能的にはまだまだ向上の余地がある。
ホームページが住民との接点としての機能であるなら、第1に向上しなくてはいけないのは検索性である。ホームページにアクセスした人が、知りたい情報や機能に容易にたどり着けることが第1だ。海外の進んだ自治体のホームページには、シンプルなデザインの検索サイトのようなコンセプトのものもある。この点については、使い勝手には改善の余地はあるものの、国や進んだ自治体のホームページの機能は近年飛躍的に向上したと考えていい。今後は、検索慣れしていない人でも利用できるような分かりやすさ、検索対象情報の充実等を利用者のニーズに合わせて進めていけるか、が課題となろう。基本的な機能が普及してきた今こそ、運営能力が問われるところだ。
一方、自治体のホームページに対する取り組み姿勢を見ると、いくつか指摘される点がある。
1つは、双方向的な機能の必要性に関する意識が低いことだ。パブリックコメントや政策面での議論を行なう電子会議室の機能整備も遅れ気味、といった状況は先に述べた電子自治体の3つのビジョンの達成という観点から見ると問題である。
地域住民の理解と参加を得るために、まず重要となるのは情報公開であるが、これは電子自治体が目指すべき社会構造の第一歩に過ぎない。情報公開するという立場には、ややもすると基本的な情報は公共側が管理する、といった姿勢が垣間見えるからだ。情報は公開が当たり前であって、公開しないのは正当な理由を伴う例外的な場合に限られる。それは結局、情報を地域で共有するというレベルに至る。地域社会に関する情報は原則全ての住民によって共有されるという考え方だ。その上で、目指すべきなのが、情報の共創出とでもいうべき段階だ。地域を動かしていくための情報を地域住民一人ひとりが創出していくためには、政策等について意見を述べる機会とともに、地域住民の間の議論が政策につながっていく道筋が用意されるべきだ。
電子会議室のような機能については、議論された内容を政策にどのように反映していくべきか、あるいは他の情報ルートとどのような位置づけを図ればいいか等、検討すべきところはあるが、上述した観点から、電子自治体を進める以上、避けて通れない施策である。双方向的な機能が無ければ、ホームページは性能の良い掲示板の域を脱せない。

[2]欠かせない現場部門との連携

次に指摘できるのは、サービス提供機能の整備が遅れていることだ。電子自治体の政策効果を最も端的に顕在化させる1つの方法は、政策を通じて地域住民が直接接するサービスの満足度を向上することだ。日頃使っているサービスが便利になる、あるいは今までになかったサービスが提供されるようになる、ということになれば、行政に対する評価に直接跳ね返る。財政状況が厳しい中、巨額の負担をしてまで進めるのが電子自治体政策であり、地域住民の理解を獲得することは極めて重要なテーマである。その意味からも、住民向けサービスにITを積極的に導入することで、より便利なサービス、あるいはこれまでにはなかったサービスの実現を目指すことが求められる。
サービス提供へのITの導入が遅れていることは、電子自治体推進のための活動がIT関連部門に留まっていることの現われであろう。実際、電子自治体に関わる方方の話を聞いても、殆どの自治体の活動がIT関連部門に留まっているのが現状ではないだろうか。この点は、ホームページ運営に関する体制整備が大きな課題の1つとなっていることにも反映されている。
住民とのコミュニケーションを活性化しよう、良いサービスを提供しようと思った場合、これだけ便利になったITを利用しない手はない。海外の進んだ自治体では、ホームページについても、IT関連部門はポータルの部分を担当し、個別のサービスに関してはサービス担当部局の自己責任に基づいた運営に委ねる、という形態をとっている例が見られる。住民向けサービスにITを取り込む際に不可欠なのは、サービスを担当する部門の現場の知恵である。ホームページについても、全庁のIT化を担当するIT関連の部署がやれることは共通基盤の整備に限られると考えるべきだ。電子自治体の効果を高め、地域住民の理解を得るためにも行政サービスを担当する現場部門を巻き込んだホームページの運営は不可欠といえる。
ところで、ホームページの内容については、利用者側とのアクセスポイントをどのレベルで設定するか、という問題がある。多くの自治体で、ホームページの各課へのアクセス先は開示されているようだが、上述したようにホームページのポータル部分をIT関連部門が担当し、個別サービスについては現場部門が担当するようになった場合、個々のサービスレベルについて適切なアクセス方法が表示されるべきだろう。アメリカのシアトル市では、部門に留まらず、担当者のアドレスも公開されているという。ここまでいけば、個人レベルまで行政運営に関する責任感が浸透していくだろう。

3、ホームページの運営体制

[1]外部人材の活用も視野に

ホームページの運営についてまず重要になるのは、掲載情報の更新が適切に行なわれることだ。このホームページにアクセスすれば、新しい情報が得られる、あるいは常に最新の情報が用意されている、という評価を持ってもらうことが継続的な利用を促すことにつながる。この点については、多くの自治体で週1回ないしはそれ以上の更新が行なわれていることから考えて、利用者に受け入れられる状況にある、と考えていいだろう。ただし、今後住民向けサービスの分野にまで機能を拡張していく場合は、サービスの種類によってはより頻繁な更新が必要になる可能性はある。この点は、個別サービスの特徴をよく知っている担当部門の住民志向に立った判断に委ねたいところだ。
一方、ホームページの運営体制については課題もある。まず、質の高い運営を実現するためには、毎日利用者の評価を意識し、掲載内容の更新や機能アップを考える人がいることが必須条件である。片手間で質の高いホームページの運営はできない。この点では、多くの自治体が専門担当者を置いていることから、一応の体制はできていると見ていい。しかしながら、ホームページの運営を庁内人材に頼り続けるべきか、については検討の必要がある。
今や、世界中に無数のホームページがある。その中で、地域住民、あるいは地域外の人にアクセスしてもらうためには、他のホームページに負けない魅力が必要になる。そのためにはホームページのトレンドを踏まえた新しい機能やデザインの導入、あるいは運営者のパフォーマンスの評価などが必要になる。もちろん、ホームページについて高い知見を有し、顧客への感度も高い人材を庁内で確保し、当人のパフォーマンスを評価する仕組みを導入することも可能である。自治体職員の中でも高いレベルで必要な素養を持ち、パフォーマンス評価にも応じる人材はいることだろう。一方、現在の自治体の人事制度や雇用環境の中でどれだけ継続的にこうした人材を確保できるか、あるいはパフォーマンス評価などがどれほど機能するかを考えた場合、外部人材を登用する、という方法もある。
既に、ホームページの運営を外部機関に委ねている自治体もあるが、筆者らでも最近は外部人材を活用している。経験的に言うと、組織という制約無しに人材を選んだ方が、運営やデザインのセンスという意味では、高いレベルの人材を確保しやすいように思われる。
外部人材の活用の可能性と先に述べたサービス担当部門の巻き込みという点を踏まえた場合、今後のホームページの位置づけを踏まえた運営体制づくりが課題となっていることが分かる。ホームページに限ったことではないが、ここまでの電子自治体関連の成果はIT関連部門に依存しすぎたきらいがある。
2003年を1つの目標年度として一定の成果を上げてはきたものの、多くの人に利用してもらい満足度を高め、本当の意味での評価を受けなくてはならないのはこれからである。そう考えた時、利用者のニーズを吸い上げるためには現場部門の知恵や市場の中で生きる外部人材の知見が有効だろうし、地域住民との交流を深めていくためには現場部門の方々の活躍は必須となるはずだ。ホームページの効果と人材の登用も含めた投資効率を最大化するための体制づくりを考えていかなくてはいけない。
調査で、小規模自治体における取り組み体制が大規模自治体に比べて、総じて低いレベルにあるのも、IT関連の人材面の課題が関係していると考えられる。全国的なレベルでの普及を考えても、外部人材の登用を含めた体制が一般化されるといい。
また、上述したようにホームページが情報公開、情報共創出、サービス提供のための機能を確保していくとなると政策的な重要度も増す。これを責任ある形で迅速に運営していくためには庁内の横通しの体制も不可避となろう。現段階では担当課ベースの連携が基本となっているが、CIOに相当する経営層の常態的な関与が必要なはずだ。
このように、今後のホームページ運営については、IT担当部門、現場部門、外部人材、そして経営層等の関わりを踏まえた体制づくりが求められている。

[2]求められる高度なマネジメント機能

最後に、IT関連部門、サービス等の現場部門、外部人材等が参加した場合の各々の役割分担について触れておきたい。一般論として、外部人材はできるだけ有効に活用し、市場の中でも先端的なシステムを導入、維持管理していくべきである。つまり、技術については外部依存性を高めていく。その上で、特に住民向けのサービスについては現場部門の主体的な活動を促進し、市場のニーズに応じた情報やサービスの提供機能を高める。現場レベルのホームページについても、個別、あるいは共同で外部人材を使えばいい。
このように述べると、これまでの電子自治体を主導してきたIT関連部門の役割が縮小されるように見えるが、そうではない。ホームページの内容や運営体制を充実すればするほど、運営計画や情報管理、あるいは、政策との連動、地域住民との交流が重要になるからだ。個別の運営を外部人材や現場部門に任せた上で、自治体としての統一感を維持しくいくためには、これまでより高度なマネジメント機能が必要になる。つまり、ホームページという基本機能が定着し次の段階を目指すに当たって、IT関連部門にはシステム構築からホームページ運営、あるいは情報交流のマネジメントといった、高度な役割が求められているのである。

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