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日本政策投資銀行はゴミ溜め 

出典:月刊THEMIS9月号

誰も責任を取らない国策銀行
日本政策投資銀行は不良債権の溜り場
民間企業にも3セクにも大盤振舞いの理由は天下り役人が存在意義を示したいだけだ。

1. 抱え込むのは危険企業ばかり

金融庁は8月1日、公的資金を投入している大手銀行や地方銀行などに、収益改善が進んでいないとして業務改善命令を出した。不良債権処理などで赤字を計上せざるをえなかった銀行側にしてみれば、到底納得のいく措置とはいえず、「命令を出す基準が不明瞭」として金融庁へ弁明書を提出している。
そんな中、政府系金融機関である日本政策投資銀行(小村武総裁、元大蔵省事務次官)の危ない肥大化が進んでいる。小泉政権下で特殊法人見直しの目玉の一つであった政府系金融機関の抜本的改革が先送りされ、「ここで官の存在意義を見せ付けておけ」とばかりに、「不良債権」を抱え込んでいるのだ。 
ダイエー、新潟鐵工所、西武百貨店など、民間金融機関が抱えきれない融資先に対して、政策投資銀行などが出資して作る再生ファンドが新たに融資している。息も絶え絶えの企業を「財政投融資」で延命させる様は、不良債権を民から官へ移し替えているだけであり、行き着く先は不良債権に埋もれた政策投資銀行の姿ではないのか。帝国データバンクによると、今年3月の時点で、不動産・地域開発関連の第3セクターで借入金残高があり、メーンバンクが判明しているのは全国に337社ある。 
そのうち、メーンバンクがもっとも多いのは地銀や第二地銀の112社だが、日本政策投資銀行を含む政府系金融機関はそれに次ぐ110社と、高い比率を占めている。しかも、その110社中、56社が「債務超過懸念」企業、10社が「債務超過」企業だ。 
今年6月18日、金融関係者を「ついに」と驚かせる記事が日経新聞に出た。「大阪市の3セク向け債権、200億円~300億円、政策銀が放棄へ」がそれだ。全国の第3セクターは破綻寸前の企業が多い。その中で大阪市の第3セクターである、アジア太平洋トレードセンター(ATC)、大阪ワールドトレードセンター(WTC)、湊町開発センター(MDC)の3社は6月23日、大阪簡易裁判所に債権者の大阪市や金融機関に債権放棄を求める特定調停の申し立てを行った。 
今年3月頃から、今回特定調停を申し出た3セク3社について、大阪市は三井住友銀行など大手4行と政策投資銀行に対し、合計2千200億円の融資額のうち、800億円の債権放棄を要請していた。この申し立てに最も早く応じる意向を表明したのが、日本政策投資銀行だったという。 
大手信用情報機関の関係者はいう。「これまで政策投資銀行をはじめ、政府系金融機関は厳として債権放棄に応じてこなかった。だが、大阪の件では全体の融資額の3分の1を占める最大の債権者である日本政策投資銀行が逸早く応じ、金融界は驚かされた」今年3月現在で、大阪市の3セク各社の債務超過額は、ATC253億円、WTC236億円、MDC95億円の合計584億円に達する。すでに融資銀行は、申し立てが出る以前から再生は難しいと踏んで引当処理を行っており、6月末までには出向させていた人材も引き揚げるなど、距離を置く動きに出ていた。そこへ登場したのが政策投資銀行だ。3社の再生計画が特定調停に持ち込まれれば、裁判所が再生計画に携わることになり、計画の透明性や実現可能性が高まる。 
政府系金融機関が債権放棄に応じる条件が満たされたというわけだ。大阪市の3セク各社にとっては、まさに救世主のような存在である。 

2. 3セクにとっては救世主だが

一方、今回の政策投資銀行の「徳政令」を一番歓迎しているのは、全国に3000社を超えるといわれる第3セクター各社なのは間違いない。『第3セクターをリストラせよ』の著者である、日本総研の井熊均氏はいう。「日本の3セクは、将来の収益性を含めて市場価値で見ると資産はないに等しい。金融機関は、計画時に公共という錦の御旗をちらつかせられ、過小資本の3セクに莫大な融資を行わざるを得なかった。だが、融資は相当な割合で返済不可能だろう」政策投資銀行では、全国にある第3セクターのうち、何社に融資しているかは明らかにしていない。帝国データバンクによると、融資額が大きく累損が拡大している「不動産・地域開発系」と、鉄道や新交通システムなどの「運輸系」の3セクでは、政府系金融機関がメーンバンクになっている企業が多いという。今後、それらの3セクが大阪市と同様の債権放棄を求めてきたらどうなるのか。 
万が一、不良債権処理で政策投資銀行に損失が出た場合、その穴埋めを行うのは税金だ。
日本政策投資銀行総務部報道担当の川住昌光課長はいう。 
「大阪の第3セクター各社への債権放棄については、日経新聞の誤報であり、実際には要請もなければ引き受けた事実もない。全国の3セクへの融資については、今年3月の段階で融資高約1兆8千億円のうち、2千900億円と約16がリスク管理債権だ。だが、仮にこれらがすべて万が一破綻したとしても、すでに大半が引当済みであり、税金による補填がなされることはない」ただ、「頭の体操はいろいろしているところだ」という。 
政策投資銀行の大盤振る舞いは、なにも3セク向け融資に限ったことではない。'01年4月の緊急経済対策で、金融再生と事業再生が日本経済の最重要課題とされたことを受け、政策投資銀行はすぐさま事業再生融資制度を創設した。DIPファイナンス(事業価値担保融資、いわゆるつなぎ融資)を手がける一方、事業再生ファンドへの出資にも踏み込んだ。この事業再生ファンドへの出資については、'02年12月の「改革加速プログラム」で、出資対象が拡大されてもいる。「その極めつけが、'02年12月のダイエー再生ファンドである『ダイエー企業再建ファンド』への出資と、今年5月の『みずほアドバイザリー』に対する出資と役員派遣だ」(金融関係者) 
ダイエー企業再建ファンドに対し、政策投資銀行は100億円をコミットし、うち30億円を出資している。同時に、UFJ、三井住友、みずほコーポレートの主力3行は、500億円のデット・エクイティ・スワップ(債務株式化)により取得した優先株及び普通株を、ファンドに現物出資した。ダイエーはこうして調達した資金を、「新三ヵ年計画」達成のための戦略支援(店舗改装や商品開発)に充てているが、収益の改善は思うにまかせないでいる。 
「ダイエーについては、事業再生部が約6ヶ月間をかけ、50店舗以上の店長や経営幹部へのインタビューを行い、厳正な審査を行った。その結果、再生可能と判断した。しかし、デフレ状況の中で小売業界全体が厳しく、なかなか当初の計画通りの売上げが上げられていないのは事実だ」(前出の川住氏) 

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