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最近の病院経営におけるIT関係の動きについて

出典:月刊マーク 2003年5月号

 

IT投資について

私は医療が専門ではありませんが、IT関係では電子自治体の動きにかかわっています。。
病院経営では、最近、日本で初めてPFIが導入された高知県と高知市の統合病院の審査委員をこの1年半くらいつとめていましたので、最近の病院の新しい経営やIT関係の動きを少しお話させていただければと思います。政府は、「eジャパン」や「電子政府」という言葉を掲げ、2005年までに、日本をIT先進国にするといっています。
ただ、IT化をすれば何でもかんでも質が良くなったり効率化されたりするわけではありません。どの分野がよいのかいろいろ考えられた中で、医療、福祉はIT化が役に立つのではないかといわれたのが昨年あたりだと思います。
注力することが必要なのが医療分野であるということです。IT投資が必ず何らかの効果を生むということは間違いありません。電子政府の議論などでは、業務が効率化される、サービスの質が向上する、あるいは情報公開が進んで民主的になるといわれています。
一方で、ITの投資には必ずリスクが伴うという面もあります。ここの点をどうやってリスクマネジメントしていくのかを考えないと、IT投資は、若干の効果はあったかもしれないけれども、リスクはそれを上回るかもしれない、ということが起こります。リスクというのは、たとえばセキュリティの問題です。
情報のセキュリティは、IT化の非常に大きな問題です。  

ITのコストについて

もう1つの大きな問題はコストです。
ITのコストをどのように管理していくのかが、今、私がかかわっている分野で非常に大きな問題になっています。ITのコスト管理が難しいのは、技術の進歩が著しいこともありますが、後年度負担といって、作ってからあとのコストが非常に高いためです。比率から見ると、ITの後年度負担は、ビルに比べると1桁上であるといわれております。
たとえば10億円のビルを造ったのと1億円のITの投資をしたのでは、後年度の負担は、大体同じようなものであるということです。しかも技術がどんどん進歩するので、更新しなくてはいけない。こういうものは、これまで官も民もそれほど扱っていませんでした。このコストをどう維持管理するのかが、大変大きな問題としてあります。その際に何が問題なのかですが、まず何のためにIT化するのかという目的を明確にすることが重要だと思います。
そのうえで効果とは何なのか、効果はどうやって確かめるのかということもあろうと思います。
ITは、自分自身が変わってそれを受け入れていかなければ効果は出ないといわれています。IT投資をして「さて、効果は何ですか」といっても、効果が出るものではないということです。そういった意味で、効果は何なのか、それをどうやって検証し確認していくのかが2番めに必要です。目的や効果を押さえたうえで必要になるのは、本当に必要な機能は何なのという部分です。先ほどのプレゼンテーションにもありましたように、医療を知り尽くした方がITを入れていくと、医療業務に必要な本当の機能はこれだということがわかるのでしょうが、そうではなく、IT化が先行して「IT化ありき」で進んでいる場合は牛刀で鶏を切るような、非常に大きなシステムが入れられる場合もあるわけです。
先ほどの先生のお話の中にあったコストは、いろいろな病院の規模や種類があるので一概にはいえないと思いますが、一般的に私が見聞きしているコストと比べると、驚くような効率的なレベルにあります。医療の現場から見てほんとに必要な機能はこれで、必要なアウトプットのレベルはこれだということを、責任のあるお立場から見極められたからこそ、高効率な投資ができたのです。
ITは技術先行で作るのではない、経営不在のIT化はだめだということは一般論としてよくいわれています。特に、電子政府において公共分野にいろいろな形でITが投資されていますが、経営不在的なIT投資というのが多いというところがあります。
病院なら病院、そこを経営している方が、その方の専門性をもって見極めていくことが重要だと思います。たとえば、情報量が過剰だと先生が先ほど紹介されていたソフトでは扱えないということも起こったかもしれません。そうなると、今度は作り込みのソフトになって、たいへん大きなコストがかかったかもしれない。
それから、パッケージではないがゆえに起こるデバッグ作業も膨大になったかもしれない。そういうことが起こるわけです。  

IT化の目的について

そういった意味で、今必要なIT化の目的は何なのか、そのためにはパッケージソフトでいいのか、そういう見極めができる方がぜひとも参加しなくてはいけないし、そうした方こそがリーダーシップをとらないといけません。
次に、原資金はどうするのかです。先ほどの例でありましたような、残業代が減ったなどでITの維持管理コストが吸収できる例は非常に少ないと思います。また、IT化によって10人でできるものが5人でよくなったときに、本当に5人、人を減らせるのかということがあります。人が減らなければコストは減らないわけですから、そうした人員の問題を解決できません。あるいは、人員の削減をしてまで効率化の原資を求めるべきなのかどうかということもあります。
そういった意味で、コストの問題をどのように配分していくのかは非常に重要な問題だということです。病院は、やはり、民間企業に比べて売上げをどんどん拡大する業態ではないと理解しております。民間のこれまでのIT投資は、売上げの拡大やリストラの中でコストを吸収してきたのではないかと思います。
病院や公共団体の中でIT投資をする場合、コスト吸収をどのようにするのかに関して、民間企業よりもずっと難しい戦略を作らなければいけないと思います。 

IT化の発注について

多くの病院で、ITの整備は民間にアウトソーシングをして開発なり維持管理なりをしています。今のITの発注は、計画から設計開発、メンテナンス、更新まで、ほとんど1社で随決するようなことがよく行われています。公共発注こういうことが行われているのはITくらいです。
発注者側から情報がブラックボックス化されて、コストがアンコントローラブルになってしまうために、コストが高いのか安いのかわからないようになってしまうわけです。2001年、政府からITに関しては開発だけを発注するのではなくてライフサイクルベースで発注しなさい、あるいは性能発注をしなさいなどもいわれましたし、最近はマルチベンダー化を考えるところが多くなってきています。新しい発注形態をどのように作るかが課題になってます。民間の先端的なノウハウを使うのはよいのですが、いかにコントロールを可能な状況にして頼むかが、非常に大きな問題としてあるわけです。任せきりというのは、発注の仕方としてはたいへん危ないということです。
私はPFIに携わっていることもあり、発注形態についてはここ数年、海外の事例を含めて勉強を、ずいぶんしてきたつもりです。ITの発注は、おそらくいろいろな契約、発注行為の中で、今もっとも先端的なノウハウが必要とされている分野です。イギリスやアメリカやオーストラリアという先進国でも、もっともホットな契約ノウハウの話題として出てくるわけです。ですから、これまでと同じような形で容易に発注してしまうことには、非常に大きな危険が伴います。
1つの方法としては、専門家をできるだけ育成する、あるい第3者としての専門家にきちんと入ってもらうというようなことがあります。もう1つは、一遍にすべてのシステムを作るべきなのか、どうかということがあります。コアの部分から徐々に作っていって、それが確率されてから拡大していくという方法もあるかもしれません。このように、発注に関するリスクを十分に考えたうえで整備をしていかなくてはいけないと思います。以上、特に病院にITを入れる場合に重要となる簡単なポイントをいくつか示させていただきました。ITは効果は非常に大きいが、1歩間違うと大きな痛手を食うかもしれないし、そういった事例は現実にあるわけです。
先ほどのような、非常にうまくいっているITの整備の事例をお聞きになって、すぐにIT化するというのは、姿勢としてはやや短絡的でしょう。どういうところに視点を置かれて、どういうことに気をつけて、どういう体制、あるいはどういう契約で発注、整備をしていったのか、細かい部分に注意していかないといけないと思います。
先ほど、経営者、トップが率先して行わないとIT化は成功しないというようなお話がありました。最近、ITの政策の中でCIO、チーフ・インフォメーション・オフィサーとかが重要だということをいろいろな人がいっていますが、まさしくそのことをいわれたのだと思います。経営者が、誰かに任せきりで整備するようなものではありません。やはり、マネジャークラス、経営者クラスの人がITのディテールまで興味や関心をもつことが大切です。
今は経営上、まさしく何10年に1回という大きな改革のポイントだと思いますので、ディテールを見失わない整備が重要なのではないかと思います。  

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