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「水の世紀に向けて」(上)
-水道事業の発展へアウトソーシングの活用を-

出典:環境自治体 2003年5月号

水道法改正により第三者委託が制度化され、水道事業のアウトソーシングが注目を浴びている。中小規模の事業体を中心に、アウトソーシングへの関心は高まっており、コスト削減とサービス水準の維持のための有力手段として、導入に向けた検討が進められている。さらに、地方自治法も改正される見込みとなり、管理委託も可能となった。各事業体は、増えた選択肢を活用して、水道事業の更なる発展のため、大胆にアウトソーシングを行っていくべきである。

磐石でない水道財政

平成13年度地方公営企業年鑑によると、上水道事業を行う事業体は1,991、簡易水道事業を行う事業体は1,648存在している。これら全水道事業の経営状況を見ると、平成13年度決算では黒字の事業体が全体の85%の3,073となっており、概ね良好な経営環境に見える。しかし、今後増えてくる見込みである更新投資の備えは万全ではなく、企業債残高も水道の料金収入(約3兆円)の20倍に達している。
水道の需要は既に頭打ちの状態にあり、大幅な収入増も見込みにくい。こうした状況下で、水道事業の健全化、財政基盤の拡充を進めるためには、経営の合理化を進め、少しでも支出を削減するしかない。そのための有力な手法が、アウトソーシング(民間委託)である。

経営合理化の有力手法であるアウトソーシング

既に水道以外の様々の公共サービス分野において、アウトソーシングの導入が進められているが、他分野に比べて、水道分野における民間委託は進んでいるとはいえない。これは、水道が住民の健康や安全に直結するサービスであるため、安易なアウトソーシングは品質低下につながりかねない、とする意見が強かったためと考えられる。実際、日本におけるアウトソーシングは、歴史的に官民の人件費格差を利用したコスト削減の有力手段と位置付けられ、民間のもつ技術力や管理ノウハウを積極的に活用するという視点は必ずしもなかった。
しかし、最近ではアウトソーシングの位置付けが大きく変わりつつある。1999年に制定、施行されたPFI推進法の中で、PFIは「民間の技術力、経営能力等を活用する」方式と定義された。また、Value for Moneyの原則が打ち出され、コストが下がるだけでなく、公共サービスの品質の向上に力点がおかれている。アウトソーシングにおいても、コスト削減方策としての位置付けから、民間の持つ技術力の活用と、それにより官の仕事を本来行うべき政策立案等に集中させるという観点から、前向きな捉え方に変わってきつつある。
こうした状況の中で、水道事業体の見方も前向きになりつつある。日本総合研究所が水道事業体を対象に行ったアンケート調査(平成14年12月実施)によると、中小事業体ほど民間委託により効率化が進むと考えていることが明らかとなった。人的基盤や財政基盤が必ずしも十分とはいえない中小事業体から、アウトソーシングの取り組みが進展すると期待される。
□質問:民間委託により水道事業は効率化すると考えますか? 

水道法の第三者委託とは

昨年4月1日から改正水道法が施行され、技術上の業務を能力ある第三者に委託する制度が位置付けられた。狙いは、コスト削減ではなく、管理体制の強化である。主に、小規模なため、技術者を自前で確保することが難しい水道事業体を想定した委託制度ということができる。
さて、この第三者委託制度の特徴は、本来委託者である水道事業者が負うべき技術上の業務を、責任とともに受託者に委ねる点である。委託可能な技術上の業務としては、以下が挙げられている。 
1.水道施設が施設基準に適合しているかどうかの検査
2.給水開始前の水質検査、施設検査
3.給水装置の構造及び材質が政令で定める基準に適合しているかどうかの検査
4.定期及び臨時の水質検査
5.定期及び臨時の健康診断
6.衛生上の措置
7.給水の緊急停止
8.給水停止命令による給水停止
第三者委託を行った場合、受託者は直接厚生労働省や都道府県による監督を受ける。すなわち、受託者を水道事業者として扱うのに近い仕組みといえる。一般にアウトソーシングにおいては、受託者の監視監督は委託者の重要な責務である。水道法の第三者委託では、委託者とは異なる規制主体が監督するという観点で多少の違いはあるが、需要者への責任という観点からは、一定の監視が委託者にも求められるだろう。
導入後まだ1年を経過した段階であるが、既に、群馬県太田市や広島県芸北町で、この第三者委託制度に基づく委託が行われている。今後導入事例が増えるものと期待される。


 
(出典:厚生労働省資料) 

民間からの提案

第三者委託は新しい制度であることから、その導入手順や契約のあり方について、必ずしも明確な概念が形成されていない。水道事業には渇水や水質事故等の、受託者が負いがたいリスクが存在しており、その取り扱い等を明確にすることが、民間が参入するにあたっての重要な要件となっている。
こうした背景を受けて、日本総合研究所が主宰する「スマート・コミュニティ・コンソーシアム2002(SCC2002)において、上下水道事業にノウハウを有する企業が集まり、水道事業のアウトソーシングのあり方について検討を行った。ただし、必ずしも第三者委託の枠組みに拘ることなく、主として浄水施設の運転、維持管理を長期にわたり民間に委託する場合の考え方を整理した。検討成果は、「水道事業の長期責任委託に対する提案」として取りまとめた。 
(本資料の入手を希望される方は、ご連絡下さい。 石田直美 ishida.naomi@jri.co.jp
まず、現在の委託と中期及び長期のアウトソーシングについて、メリット等の整理を行った。次に、民間として水道事業のアウトソーシングを受ける際の基本的考え方について、以下を提案した。
1.発注による民間への委託であることを明確にすること
2.可能な限り幅広い業務を民間に委ねること
3.複数年に渡る契約とすること
4.民間の技術を評価し、効率化や品質向上の意欲のわく構造とすること
5.民間の努力によって防ぐことのできないリスクは、公共のリスクとすること。
ただし、原水や浄水後の水を監視、管理し、危険がある場合にそれを把握し速やかに緊急の給水停止を含めた処置をとるのは、受託している民間企業の役割であり、実施の責任は受託者が負うべきである。しかし、その対応により生じる追加的なコストは、委託者が負担すべきものと提案している。
アウトソーシングを行うことで、コスト削減メリットも期待されるが、水道事業が需要者の健康や安全に直結したものであることを踏まえると、コスト削減を優先しすぎることには問題もある。水質基準の遵守や危機管理体制が確実であることが大前提となる。したがって、入札のような価格のみの評価で受託者を選定する方法は好ましくない。
公募プロポーザル方式や、条件付一般競争入札(技術審査を行ってから入札を行う方式)等で受託者を選定すべきである。
□アウトソーシング(民間委託)方式の類型とその特徴
 

委託にあたっての第三者の支援

アウトソーシングを行う場合であっても、委託者は需要者に対して水道事業体としての責任をもつ。この責任を果たすためには、委託者は、適切な業務分担、責任分担のスキームを構築するとともに、当該業務に関する技術力や遂行能力のある受託先を選定することが必要である。さらに、第三者委託を活用する場合には、受託業者の業務は厚生労働省や都道府県が直接監視することになるが、そうでない場合は、委託者自らで受託者の業務遂行の状況を監視し、問題があれば適切に対処する必要がある。 
しかし、中小事業体を中心に、こうした能力を内部で持っているところは少ないと想定される。その場合は、中立的な外部のアドバイザーを活用することが有効である。日本総研では、自治体が民間委託を行う場合のコスト評価、施設機能評価、トラブル対応支援等を行うサービスを「エンジニアリング・サポート・サービス」(ESS)を命名し、ESSを提供する中立的組織の立上げに向けた検討を行っている。高い技術力が求められる廃棄物分野を当面のターゲットとしているが、水道分野についても同サービスを提供していくべく、検討を進めているところである。

アウトソーシングの発展

ここまで、一般的なアウトソーシングについて整理をしてきた。今後は、さらに一歩進んだ民間活用の方式が出てくる。それは、管理委託に基づく民間への委託である。 
従来の地方自治法においては、公の施設を管理委託することは制限されていた。それが、地方自治法が改正され、規制が撤廃される見込みである。こうなると、水道施設を民間企業等に貸し付け、民間企業が主体的に水道事業を運営し、需要者からの料金も収受するというモデルが考えられる。受託者の自由度は一気に拡大し、需要者への幅広いサービス提供が期待される。
実際に、こうした委託方式がとられているフランスにおいては、受託者が積極的にカスタマーサービスを拡充しているといわれる。例えば、異常時の問合せが24時間可能なコールセンターの整備等である。また、近年安全な水への関心が高まっている。需要者の施設内に高性能な膜処理装置を設置し、水質管理等の関連サービスを提供することも考えられる。
管理委託が実現すれば、受託者の創意工夫の余地が拡大し、サービスを凝らすことで、サービスの質向上とコスト適正化の両立が期待できる。
各水道事業体は、これまでの常識にとらわれず、水サービスの充実と財政健全化の両立のため、思いきった民間活用を進めてはどうだろうか。需要者の多様なニーズに対応したきめ細かなサービスの提供は、民間が得意とするところである。
単純なコスト削減でない、需要者へのサービス向上と両立する委託スキームを如何に構築するかがポイントである。

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