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机上でなく現場を見る 退職技術者生かす雇用モデルを提案

柴田協子

出典:日本物流新聞 2003年12月10日  

「一度、見せてもらって来い」
上司のアドバイスにしたがい、千葉県にある自治体のごみ焼却施設を見学し、炉の点検作業にも同行した。数年に一度という炉のオーバーホール時に立ち会えたのは非常にラッキーだった。同僚からもうらやましがられた。しかしそこは、生やさしい所ではなかった。「ジャングルジムのような炉内は視界が悪く、足はすくみました。全身は灰まみれです」と打ち明けるが、後悔しているわけではない。「できるだけ現場を見るように心がけているんです。机上で得た知識だけでは、何を発言するにしても説得力に欠けますから」

ごみ焼却施設でのダイオキシン問題はもうすでに解決されたかに思える。環境省によると、全国の廃棄物焼却施設から出たダイオキシン類の総量は、過去6年間で9割削減されたという。ダイオキシンの排出を抑えるため、焼却炉が高温で運転されるようになったからだ。多くの人が知っている。しかし、高温での炉の操業がどれほど難しいかを知る人は少ない。「何がどんな割合で入っているのかわからないのがごみ。その燃え方は予測がつかず、きめ細かく点検しながら稼動させる作業はまさに『職人芸』です。」
炉は「職人芸」をもつ技術者によって支えられているのが現状だ。しかし、その高い技術がいつまでも維持できるという保障はどこにもない。自治体の炉の操業は、機械メーカーによる業務委託が進んでいる。人件費も含めたコスト削減を迫られている自治体にとって、自前で技術職員を育成し確保することは難しいからだ。
ところが、日本総合研究所が実施した「ごみ焼却施設での民間委託についてのアンケート」(02年5月)によると、半数の自治体が「民間の業務を評価できる人材がいない」と回答。不安な評価・監視体制が浮かび上がった。

こうした実情はごみ処理施設に限られたことではない。そこで柴田さんは、ごみ処理施設の例を1つの雛形として、社内の「エンジニアリング・サポート・サービス研究会」で、退職した技術者の活用を提案している。退職技術者のネットワーク作り、必要に応じて現場責任者にアドバイスする、というものだ。「管理費用の妥当性を評価し、報酬を受け取る。中立的な立場からアドバイスできる退職者なら、住民に対しても納得のいく説明ができます」安定操業を維持できる自治体と経験を生かせる退職者。双方にメリットがある。「高齢者=福祉ではないところがよかった」。そう気づき、高齢者への関心が高まった柴田さんは、南カルフォルニア大学大学院でGerontology(老年学)を学び、その思いはなおのこと強くなったという。「人はもっとうまく年を重ねられるはず。私は年を取ることを肯定的にとらえていきたい」。その考えが現場技術の継承に生かされる。

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