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最初にPFIありき、ではなく、まず財政改善あり

出典:市政 2003年3月号

<インタビュー> 
平成11年のPFI推進法の成立以来、日本においても活発化の一途をたどっているPFI事業。 今、各地にPFIによる新しい施設が続々と生まれており、PFIの導入を検討している自治体も増加している。
しかし、「まず財政改善の議論が、その前提になくてはいけない」と、日本総合研究所の井熊均さんは指摘する。 今後、地方自治体がPFIによる事業を展開していく上で、どのような考え方を持ち、何に留意すべきなのだろう? PFIを日本に紹介し、自治体のPFI事業にも実際に携わってこられた井熊均さんに、アドバイスを伺ってみた。

PFIの最大のメリットは財政改善効果

--ここ数年、PFIによる事業が大きな注目を集めており、今後も自治体において、PFIの導入がさらに盛んに なるだろうと言われています。そこで、基本的なところから伺いたいのですが、PFIの導入は、自治体行政に どのようなメリットをもたらすものなのでしょうか。
 
井熊
PFIというのは、イギリスの構造改革の中から出てきた議論なんです。 ですから、財政改善のための取り組みの1つと言ってよいと思います。 例えば、従来のやり方で公共団体側が施設を発注した場合、どうしても過剰仕様になってしまう。 なぜかと言うと、日本の公共事業は、施設建設の段階で運営や維持管理の責任等が明確でないので、 誰が使っても大丈夫なように建設するわけです。それで結果的に過剰仕様の施設ができ上がってしまうんです。 
しかし、PFIによって民間が施設を建設するなら、民間は自分の責任において、コストと質の一番バランスの 良いところを取ります。そのため、過剰仕様にならない施設ができる。 さらに、PFIの場合は、施設の運営・維持管理・更新という面も、民間が一体的に行います。
それも例えば20年という具合に長期間ですから、民間としても工夫の余地があり、計画的で非常に効率的な 運営が可能になります。そのことによって、たいていは財政改善効果が生まれるわけです。 

--財政改善効果が、やはり最も大きなメリットなのでしょうね。それ以外にも、何かメリットはあるのでしょうか。

井熊
リスク管理の問題もありますね。特に今の廃棄物処理施設やIT関連の施設などでは、技術的な面での管理ノウハウが 必要になっています。しかも、その技術レベルというのは、一般の公共団体が管理できる技術を超えているんです。 例えば廃棄物処理でも、今まではごみを燃やすという方法でしたが、最近はごみを溶かすという技術が出てきました。
これは従来の技術とは大きな違いで、かなりのリスク管理が必要になってきます。現実的に今、 公共団体は技術者の採用を抑えていますし、技術的な管理ノウハウが必要な場合は、やはり技術を持った民間に任せて、 リスクを守ってもらう方がよいと思います。

大規模プロジェクトこそPFI効果が発揮できる

--PFI導入の現状について、お聞きしたいと思います。現在、PFI導入に積極的な自治体というと、 どのような自治体なのでしょうか。 

井熊
現状でPFI導入の中心になっているのは、人口が30万人以下くらいの市だと思うんです。例えば、日本で最大のPFI事業は、 近江八幡市と高知市の病院プロジェクト。廃棄物処理現場も、PFIで最初に建設したのは室蘭市でした。
ですから、 比較的に中規模の都市が日本のPFIを主導しているという印象ですね。 中規模の都市ですと、PFI事業を行おうとした場合に、比較的に合意形成しやすい。そして、そこそこに行政に力が あるけれど、人材が不足している。そうした条件があることが、PFIを積極的に導入できる要因になっているのでしょう。
それに対して、政令指定都市などの大きな自治体では、PFIの導入が遅れている印象を受けるんです。 まず、大都市の場合は、非常に合意形成が難しい。実際に、トップがPFI導入を決断しても、現場の反対で頓挫したという ケースもあります。大都市では現場が力を持っているので、あえて民間に任せなくとも、自分たちでできるという声が 上がり、それを否定しがたい面が確かにあるんです。ただ、大きな都市であっても、財政が悪いところは当然あります。 やはり財政を考えると、PFIに前向きに対処するべきだろうと僕は思うんです。

--具体的なPFI事業として、今のところ日本では、どんなものが多いのでしょうか。

井熊
これまでは、美術館や市民ホールなどの文化施設をPFIでつくるというケースが多く見られました。 しかし、そうした箱モノの事業では、せっかくのPFIの効果が小さいんですね。今後はより付加価値の高い PFI事業に変わっていくことを、僕は期待しているんです。 というのは、都道府県レベルで、十億円規模の施設をPFIで建設しても、1番のメリットとなるはずの財政効果は、 あまり出ないんです。
やはりPFIで大型プロジェクトを行ってこそ、財政効果が期待できる。最近ようやく、 財政再建を真剣に考えようとする自治体が増えてきて、大規模なプロジェクトをPFIで行い、 財政効果を出そうという動きが出てきたところです。 PFI事業の優等生は、病院と廃棄物処理施設だと思います。例えば廃棄物処理施設などは、100億円単位の施設も珍しくなく、 市町村では最大級の投資ということになりますよね。 しかも機械物だから、20年に1回くらい更新のための投資が必要で、投資サイクルが短い。 つまり、財政的には大きな負担になるわけです。
しかし、これをPFIでやれば、 自治体の財政改善効果は非常に大きいはずです。

まず、財政構造改革の議論が前提

--今のお話の中でも触れていただきましたが、自治体がPFI導入を検討する際の留意点について、 井熊さんにお話しいただきたいと思います。

井熊
ただPFIで何かをつくればいい、という考え方はいけません。考え方の順序として、財政構造改革の議論が前提に ないといけないんです。まずは投資を減らし、今ある施設を有効利用する方法を考える。 それでもどうしても施設が不足というときは、PFIでつくる。そうした考え方の順序がないと、 PFIで必要のない施設までつくってしまう恐れがあります。ですから、最初にPFIありき、ということではなく、 あくまでもまず財政構造改革ありき、というところから考えてほしいと思います。 
もう一つには、PFI事業にふさわしいものを考えることですよね。ふさわしいものというのは、先ほどもお話ししたように、 財政効果が大きい分野ですね。さらに、どこの自治体にもあり、中核的な公共サービスと言われているものをPFI事業で 行うことです。そうすれば、他の自治体へのノウハウの波及効果も期待できます。実際の問題としては、 事業計画をつくろうとするときに、民間のコンサルタントはたくさんいますけれど、 しっかり実務の分かった民間の専門家と組むことです。 一番悪いと思うのは、実務知識のないコンサルタントと財政計画のない自治体とが組んで、PFI事業を進めることなんです。 それでは、どんな効果があるのか分からない、ただの箱物PFIになってしまう恐れがあります。
 
--最近はPFIに加えて、アウトソーシングという方法も行われていますよね。 PFIとアウトソーシングの違いは、どのような面なのでしょうか。

井熊
僕は、PFIはアウトソーシングの一部だと考えていいと思うんです。 それぞれの違いについて、少し乱暴な分け方をしますと、アウトソーシングと言った場合は、 今ある施設の運営や維持管理を民間に任せること。 PFIは、大きな資本投下をともなって、大規模な施設の改修や新設を民間に委ね、さらに長期間にわたってその運営、 維持管理も民間に任せること、というとらえ方ができます。 --では、自治体としては、PFIとアウトソーシングをどう使い分けたら効果的なのか、アドバイスをいただけますか 井熊 PFIよりも、既存施設のアウトソーシングの方が大切だと僕は思うんですよ。
なぜかと言うと、 インフラの整備をほとんど終えている日本では、毎年の公共投資は基本的に更新のための投資なんですね。 廃棄物処理場を例に取ると、毎年2~3%を更新して、30年から40年かけて全部を更新し終える というサイクルでやっています。それを考えると、PFIで財政改善ができるのは毎年2~3%パーセントでしかありません。 だったら、残りの九十七パーセントの大部分を、まずアウトソーシングすることから始めたほうが、 当然、財政効果が出てくるはずです。 一般企業に例えて考えると、よく分かると思いますよ。
ある会社が放漫経営で破綻しそうになったとき、 まずは競争力のない事業部門や不要な資産を売ってしまいますよね。これを行政に置き換えると民営化ということになります。 次に、内部の業務を効率的に改革をします。これが行政ならば、アウトソーシングや独立行政法人といったことです。 そこまでやって、なんとか大丈夫だという時点になれば、新規の投資をします。これがPFIということになります。 ですから、PFIは最後に来るものなんです。 

これからは、民間がプレーヤー、行政がジャッジ

--PFIの導入によって、行政の役割も従来とは変わってくるのではないでしょうか。これからの行政の役割について、 井熊さんはどのようにお考えですか。

井熊
確かに行政の役割は変わってくるはずです。 例えば廃棄物の処理事業であれば、処理施設の建設や運営は民間に任せて、行政は廃棄物のリサイクルの仕組みをつくったり、環境監視をしたり、民間に委託したサービスを管理する、といったことが役目になります。 それはいろいろな公共サービスに言えることで、福祉についても今後は民間に任せて、それがルール通りに行われているか、 不利益をこうむっている住民がいないか、それを監視して、必要なところに手を加えていくのが行政の役目になると 思うんです。将来は教育の分野にも、アウトソーシングやPFIが導入されていくかもしれません。
つまり、PFIの時代にあっては、実務を行うプレーヤーは民間、全体のコーディネートやジャッジが行政の役割ということ になります。日本で構造改革と言うと、行政の人数を削減する話ばかりが出て、あたかも行政が不要であるかのように 言われています。 けれど、それは大きな間違いだと僕は思います。 行政の予算と人材は限られているのですから、実務は民間に任せるのは当然のことで、求められているのは行政の役割を どうシフトさせていくのか、そこのところだと思うんですよ。 

--全体を俯瞰したとき、今後のPFI事業の普及にとって何が課題となるのでしょう。その点を最後に伺いたいと思います。

井熊
国の制度改正が遅れていることが、現時点での問題でしょうね。PFIを進めようとすれば、その前提に地方分権への志向が 必要となってきます。 というのは、今後は公共サービスの実務を民間に任せて、行政がその監視を担うようになります。その場合、 現在の日本の省庁システムは、市民の立場からのサービスの監視には、非常に不向きなんですね。そうした役割は、 やはり地方自治体にしかできないことなんです。
ですから、日本が中央集権のままでは、日本のPFIは進まない。 地方分権をまずしっかりと確立することが、大切になってくると思います。 そして地方自治体としては、公債に頼りすぎた財政ではもう限界なのですから、財政改善について真剣に考えるべき だと思うんですよ。繰り返しになってしまいますが、財政改善という目的がまずあって、そのための手法の1つとして PFIがあるんです。だから、財政改善からの発想が大切だということを、しっかり認識していただきたいと思います。 

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