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電子自治体実現への戦略(9) WBTで効率的に人材を育成せよ

出典:地方行政 2003年3月号

eラーニングとは?

eラーニングとは、ITを活用した学習形態の総称と言うことができます。古くは、CBT(Computer Based Training)、CAI(Computer Assisted Instruction)といったものがあり、特に米国においては、1980年代半ばから、こうしたツールを用いた教育が実施されてきました。
インターネットの普及が進む現在においては、eラーニングの学習形態として、WBT(Web based training)がもっとも注目を浴びています。そこで、今回はこのWBTに着目し、自治体における庁内研修への導入について述べたいと思います。
まず、WBTとは、その名のとおり、Webをベースとしたトレーニングを行う手法です。その仕組みについては、図1に示すとおり、学習者がインターネットを通じて研修を受けることができる仕組みのことを言います。
このとき、学習者に対してインターネットで配信されるコンテンツ(情報の内容)は、静止画像であるものから、動画・音声、講習の実写映像など色々とあります。しかし、現状では、学習者側のインターネットの接続速度がそれほど速くないため、動画・音声レベルが主流となっています。
一方、学習者の学習進捗状況や、テストの成績などが、研修の管理者によって把握・管理されているため、学習が遅れている、理解度が不足している学習者に対しては、管理者側から学習の催促やアドバイスを行えることも特徴として挙げられます。さらには、学習者は、学習科目に関する疑問点について、電子メールや電子掲示板で問い合わせできる機能を付加することも可能です。



「産学公ネットワーク」による産業振興戦略

既存の研修と比較したWBTの一般的に考えられているメリットは、表1に示すとおりです。
まず、受講者のメリットです。
既存の集合研修では、忙しい生活の中、研修時間の調整や、その研修のペースにあわせて学習を進めていくことなどはなかなか難しいと考えられます。これが、WBTでは、インターネットに接続できる環境があれば、深夜であろうと早朝であろうと、会社の昼休みであろうと自分の都合のよい時間を活用して学習を進めることが可能となります。また、講師が少ないため、なかなか集合研修の実施ができないという特別な科目に関しても、WBTでは学習ができるようになる点で受講者にとっては学習の機会が拡大されることになります。
次に、運営者のメリットです。
既存の集合研修では、場所を確保し、それに見合う人数をある程度集めることによって、初めて研修会が実施できます。しかし、WBTの場合は、受講者の募集は行っても、その場所と人数を集めるという手間がかからないため、研修費用の削減が期待できます。
3番目は、学習コンテンツの提供者におけるメリットです。
冊子や、CD-ROMなどで学習コンテンツを提供している場合、その内容の変更や追加に対しては、冊子やメディアをまた印刷・製版し直さなくてはなりません。一方、WBTでは、配信元のコンテンツの修正および追加を行うだけで済むため、最新のコンテンツを素早く、かつ漏れなく提供できます。さらに、費用削減にも繋がります。
最後に、管理者のメリットです。
管理者は、学習者の進捗状況や理解度が容易に把握できれば、研修などを円滑かつ効果的に進めていくことができます。WBTでは、学習者の進捗およびテストなどの成績を一元管理できるため、学習者一人一人に対して適切なアドバイスや学習を促すような知らせを行うことが可能となります。その結果、研修の効率化や効果が見込むことができます。

庁内研修へのWBT導入

以上にあげたメリットにより、WBTは、インターネットの先進国である米国でその活用が広まりました。その要因は、大きく2つ挙げられます。
まず1つ目は、米国では、90年代にインターネットに代表されるIT分野で新産業が次々と創出されて景気が拡大し、企業の情報化投資が活発化するにつれて、社会全体でIT技術者が不足するという事態に直面したことです。そのため、IT技術者を大量かつスピーディに育成する方法が必要となったということです。
もう1つは、米国はもととも労働者の流動性が高く、各業務内容の細分化が進み、業務が分業で行われているため、人材の再教育が常に必要であったことです。
この2つの要因から、人材の大量かつスピーディな育成方法として、インターネットの爆発的な普及とともに、米国においてWBTは広がっていくことになったと考えられます。
ここで、自治体の研修へのWBT導入を考えるうえで、この米国のWBTが広がった背景を念頭において庁内研修への適用を考えてみましょう。 1)政府にIT化を後押しされ、IT技能の必要な自治体職員の育成が急務といわれている
2)異動の多い職場環境のため、職員は常に新しい知識やスキルの習得が求められる
3)今後、庁内の研修や講習会にかけられる費用が削減傾向である
どうでしょう?これら自治体における3つの現状は、米国でWBTが広まった背景と極めて似ていると思いませんか。
そこで、米国と同様、人材を大量かつ低コスト、そしてスピーディに育成できる方法として、WBTを庁内研修へ導入することが有効であると考えられます。

WBTの有効的な活用方法の提案

これまで述べたように、WBTの庁内研修への導入が有効であると考えられますが、既存研修の全てをWBTに入れ替える必要があるということではありません。
すなわち、導入については色々と手法があり、科目の内容によってWBT活用の研修スタイルが変わってくるからです。そこで、次に述べる3つのパターンに場合分けを行い、WBTを活用した研修スタイルを提案したいと思います。
WBTを活用する研修パターンとして、その科目の特徴から「必須科目」「特別専門科目」「自己啓発科目」3つに分けられます。
「必須科目」とは、一般常識、庁内規定、公務員法や個人情報保護法などの法律関係、情報セキュリティー、接遇など、職員が必ず覚えておかなくてはならない科目を指します。
「特別専門科目」とは、各現場における専門知識・技術(建築、保険、教育、産業など)、各現場に導入された庁内システムの使い方、職場で必要なIT専門知識(情報化推進課など対象)など、現場で必要となる専門的な科目を指します。
そして、「自己啓発科目」とは、英語などの語学、ワープロや表計算ソフトのスキル学習、マネジメントの学習、会計・経営事務など、直接の業務への関係が薄いが、個人のスキルアップより、間接的に業務を効率的に進めることができるような科目を指します。
これらそれぞれの活用スタイルについて、「場所」「時間」「管理」3つの視点で整理したものが表2です。
まず、必須科目については、前述したとおり、職員の方々にかかわる法律や、ITの導入によって必要となるセキュリティーなどのリスク回避など、知らないでは済まされないような内容の科目ですから、短期集中的に受講し、各受講者の理解度が把握・管理の徹底がされているスタイルがもっとも効果があると考えられます。
したがって、最適な受講場所としては、パソコンが整備された教室で一気に学んでしまう方法がよいでしょう。また、受講時間については、研修担当者が職員全員に対しての受講日程を一元管理することが望まれるため、当然業務時間内に実施して構わない科目であると考えられます。さらに、このとき、各職員に対して、受講の必要があるかないかの判断は、研修担当者が各職員の理解度を把握した上で決定する必要があるため、進捗管理システムが必須です。
次に、「特別専門科目」は、配属先の課内において特に知っておかなくてはならない知識やスキルですから、異動等により新しく課に配属された場合においても、迅速に身に着けておく必要があります。換言すれば、OJT(on-the-job training)的に現場に出て学ぶような科目のことを指しますから、受講の場所としては、現場である自席、もしくは課のパソコン上で学習することが望まれます。また、自席および課のパソコン上で受講するに際しては、職場全員の理解が必要となるため、課内で受講のルールを設定し、課内の研修責任者を決めて、スケジュール化された受講体制を確立することが有効です。受講時間に関しては、「必須科目」と同様業務への関連性が高いため、業務時間内で行っていくべきであると考えます。なお、進捗管理については、受講者の理解度を測る上では必要ですが、特にその進捗具合の管理を徹底する必要はないと考えられます。
「自己啓発科目」については、庁内の業務とのかかわりが薄く、個人のキャリアアップを目的に学ぶ科目を指しますから、庁内でルールを作って学習し、業務時間内で学習することにはあまり適さないと思われます。受講場所としては、自宅など、ネットワークのつながる環境であれば、特に場所を限定する必要もありませんが、庁内のパソコン教室を開放し、いつでも受講できるようにすることも有効と考えられます。進捗管理については、受講者自身が自己管理として活用できると便利であると考えられます。

WBTへの取り組み事例

日本総研の事例ですが、「必須科目」と「自己啓発科目」のそれぞれについて、西宮市の協力のもと、庁内職員の住民に対する応対マニュアルをWBT化しています。システムについては、(株)日立インフォメーションアカデミーにご協力いただきました。
この応対マニュアルの特徴的なところは、学習内容については職員の現場体験に基づいて、現場職員が自ら作成した点です。自治体における応対や接遇については、民間企業側ではなかなかイメージがつかめないものですが、職員自らの現場体験から作成されているため、その内容は極めて臨場感があり、学習効果も期待できるものになりました。このコンテンツは、実際に、西宮市の新人研修などに活用されているところです。
また、このような「必須科目」は、他の自治体においても汎用的に使用できるものであるため、完成度の高い1つのWBTコンテンツがあれば、自治体間で共有して活用していくことも有効であると考えられます。
「自己啓発科目」については、同じく西宮市の庁内研修においてWBTを活用して実施しましたが、受講者にアンケートによれば、75%強の方々が満足した結果となっています。このような高い満足度を得られたのは、WBTの学習場所を庁内のパソコンルームを開放する形で実施したことが大きな要因であると思われます。

最後に、WBTと集合研修の組み合わせについて述べておきましょう。
WBTに最も期待できることは、前述のとおり、大人数に対して、その知識やスキルを一定のレベルまで、一気に、効率的に引き上げることです。換言すれば、ある一定のレベルの受講者を迅速に育成することや判別することが容易になるということです。
このWBTの特徴を利用すると、WBTでの集合研修には次の2つのメリットが期待できます。
1)集合研修時間の短縮などによる研修全体の効率化
2)受講者の知識・スキルの一定化による研修効果の向上
以上述べたように、WBTは、WBTそのものの導入で満足するのではなく、科目によって、効率的かつ効果的な活用手法を検討する必要があります。また、集合研修や学習場面についても、適切な組み合わせが実行できれば、その効果は相乗的に大きなものになると考えられます。
したがって、ここで提案した内容を踏まえ、自治体の研修担当の方々が庁内研修へのWBT導入について積極的に検討していただけることを期待したいと思います。 

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