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歳出 地方公営企業 -改革の考え方
破綻する自治体、しない自治体
~自治体財政危険度をチェックする 第2章/歳出

出典:地方自治体職員研修臨時増刊号

1. 連結ベースで自治体改革を

日本の公共財政はGDPの104%にも達しようとする巨額の長期債務を抱え、まさに破綻寸前にある。危機に瀕した日本経済を再生するには今しばらく苦しい時期を経なくてはならないだろう。しかし、その中においても国民生活へのマイナスの影響は最小限に留まるようにする必要がある。そう考えたとき、各地域の生活環境づくりを担う地方自治体の財政をできる限り円滑に改善することが重要になる。
最近では、民間企業も連結会計が当たり前になっている。親会社の業績がいくらよくても、子会社群が赤字だらけだったり、連単倍率(※1)が低かったりするようでは市場から評価されない。また、子会社が大きな負債を抱え込んでいることが分かれば企業の信用力も低下する。
民間企業でも公共団体でも財政面での改革を行う場合に連結ベースでの改革を先行させることが重要だ。その意味は2つある。1つは、上述したように、企業なら子会社、公共団体なら外郭団体というのは単なる組織的な形態に過ぎないから、連結ベースで評価しないと本当の財務状況には分からないからだ。例えば、あるサービスを外郭団体が運営している場合と、自治体本体に取り込んで運営している場合で、財務評価に差があるようでは評価の意味がない。

もう1つの意義は改革の範囲は規定しておくことである。改革が必要となっている組織は往々にして業務範囲が肥大化している。肥大化した守備範囲では管理が甘くなり、また運営が非効率となって損失が拡大するのはお決まりのケースだ。20世紀の後半に先進国で行われた改革に共通していたのは、民間でできることは民間に任せ、公共団体の守備範囲を再定義したことだ。伸びきった官の守備範囲を縮小することは構造改革の重要なテーマである。

構造改革は軸となるコンセプトにしたがって進められてなくてはいけない。これまで、日本では縦割り行政により、海外の体系的な政策が部分的に導入され効果が減じられてしまった面がある。公共団体だけでなく、民間企業でも成功している改革では体系的な施策が平行的に実施されている。その意味で、日本が改めて見るべきはイギリスの構造改革の体系である。1970年代末から始まったイギリスの構造改革で、まず始めに行われたのは、国営企業の民営化である。ここで、民間にできる事業まで手を出していた公共の守備範囲が縮小され、以降縮小された守備範囲の中での改革が行われた。また、民営化により新たな資金が捻出されたことも重要だ。

自治体が構造改革を行う場合も、こうした体系的な戦略に沿った改革を進めなくてはいけない。そこで、まず注目すべきなのが外郭団体なのだ。そして、公営企業は外郭団体の中でも重要な役割を担ってきた。まずは、役割が終わった公営企業については積極的に統廃合を進めるべきだが、地方公営企業法が対象としている事業は基本的に地域住民の生活の基盤となるものが多いため、多くは事業の継続性に対するニーズがあると考えられる。

公営企業の改革で重要なのは収益構造である。例えば、上水道事業の収入は基本的に水道利用者の利用料金による。利用料金が収入の大半を占める事業について考えられるのは民間移転の可能性である。民間に事業ないしは事業の権利を売却すれば、将来のリスクは大幅に低減するし、一時的な資金を調達することができるからだ。

2. 避けられない事業売却

日本では公的な事業の売却いまだ進んでいないし、売却という行為自体にナーバスになる傾向があるが、日本の自治体も早晩事業の売却を伴うドラスティックな構造改革が必要だと思い切れない理由の1つは公債による資金調達の規模を維持できると思っているからではないか。資金が永遠に円滑に調達できるのであれば、改革は経費をじっくりと下げる形で進めればいい。しかし、資金調達に少しでも負担を感じるのであれば、金利や返済面で負担の大きな負債を加速度的に減らさなくてはならない。返済資金が滞ったり、金利が上昇したら、日々の業務による経費削減など焼け石に水となってしまうからだ。民間企業の改革は常にこうした危機感を背負って行われる。そして、今や公共団体でも資金調達が永遠に円滑に行えると思っているようではリスク感覚に欠ける。

縁故債に頼ってきた公債により資金調達は早晩行き詰まり、自治体も市場での公債の受け入れ余地を前提として資金を調達しなくてはならなくなる。結果として、課題な負債を抱え続けることは自治体にとっても大きなリスクとなっている。その時重要になるのが、資産や事業の民間への移転である。

利用者からの直接の資金収入があり、将来の収益を割り戻して得られる資産運用価値が負債を上回れば、資産を含めた事業を民間事業者が買うインセンティブが生じる。公共団体として料金収入は失うが、将来の事業リスクに加えて資産や負債を民間事業者に移転することができる上、一時的な資金を得ることも可能だ。その分、公共団体として料金収入は失うが、将来の事業リスクに加えて資産や負債を民間業者に移転することができる上、一時的な資金を得ることも可能だ。その分、公共団体として本来取り組むべき業務や公共サービスを強化することができる。このように事業リスクを移転でく、公共団体としての選択と集中を実現できる上資金を得られる民営化は、公共財政の現状を考えれば、最も優先すべきプロジェクトではないか。

しかしながら、全ての事業が理想的な形で民営化できるわけがない。将来の収入を割り戻して得られる資産価値が負債を下回るようなことがあれば、民間事業者にとっては資産を含めた事業を買うメリットはなくなる。過去の過大な投資や非効率な事業運営の結果、資産価値がマイナスになってしまっているのだ。例えば、都市交通のような事業では巨額な建設費もあり、こうした財務構造になっていることが少なくない。 
ディスカウントキャッシュフロー(※2)で価値がマイナスになってしまうような事業で、一時的な資金を得る場合には、資産と負債、あるいは負債の一部を切り離して民営化することが考えられる。資産を持つこと自体が自治体のバランスシートを肥大化させるし、リスクが伴うから資産も一緒に民間に移転したいと思う場合は、資産付きで事業を民間に移転し、その上で、どのくらいの負債を負担できるかを交渉すればいい。その場合、残った負債は他の資金をもって返済していかなくてはならない。

資産を公共団体に残し、事業権だけを民間事業者に移転するケースもあろう。例えば、公共資産を使って、10年間事業を行う権利を売却すれば、民間事業者は負債を負う必要はないから、公共団体は将来の利益を割り戻した価値に相当する資金を調達することができる。あるいは資産の利用料金として10年間にわたって資金を得ることもできる、いずれにしても得られた資金は、まず負債の返済に充てる。
民営化というと道路公団民営化の議論のように、事業を永遠に民間企業に移転してしまうと思われがちだが、このように期間を限定した事業権の移転という方法も重要だ。1つの理由は、事業の恒久的な売却は独占事業を生むからだ。公共サービスの多くは特定の地域で独占的に営まれているため、単純に民営化すると独占化につながる。公共団体が独占企業を管理する方法もあるが、日本の電力会社の例を見ても、なかなかうまく機能しない。事業に対する圧倒的な情報を持つ独占事業者を専門性に劣る公共団体が管理するのは容易ではないし、何をもって適切なコストや利益とするかが難しいからだ。

それに比べると、10年間程度の事業権の売却なら、10年ごとに競争環境をつくることができる。また、10年ごとに前期の反省を活かして事業条件を改善することも可能だ。誰がやっても、完璧な事業権移転の条件をつくることはできないから、事業条件を改善できることは重要だ。このように期間限定の事業権の売却はメリットもあるが、インフラ部分の管理責任が曖昧になるというデメリットもある。 

3. 財政構造の改善

以上、外郭団体の民営化の議論に終始したが、ここに来てようやく外郭団体の事業を公共側に残すということを前提とした議論となる。民営化を前提とした議論はおかしい、という指摘があるかもしれないが、構造改革では序列を明確にすることが大切だ。民営化も有り得る、エージェンシーも有り得る、といった改革で、日本の公共団体が自らに厳しい手段を選ぶとは到底思えない。1997、98年頃の改革では、この辺りの価値観が不明確だった。

資産を含めた全面的な民営化、資産を公共に残した事業権の移転、のいずれも適切でない公営企業については公共団体による運営を前提とした改革を行う。ここでも重要になるのは明確な線引きである。地方公営企業法では、その性質上地方公営企業の収入をもって充てることが適切でない経費、能率的な経営を行ってもなおその経営に伴う収入のみをもって充てることが客観的に困難であると認められる経費、については地方公共団体が負担できることとなっている。確かに、公共サービスを担う立場からすれば必ずしも収入だけをもって充当できない経費が存在し得よう。しかし、その経費を全て公営企業を通して拠出しなくてはいけない訳でもない。目的の異なる資金を公営企業という1つの器にいれることはできる限り避けた方が財務的なモラルは保てる。

まず、公共企業を通す資金は負担と便益に直結したものに限定する。例えば、公営企業が担うべき業務に関連して、公的な資金を充当すべき施設の整備が必要な場合は、別会計で施設整備のための資金を拠出する。その上で、事業本来のコストと収入のバランスを合わせることを試みなくてはいけない。収入が合わない場合は、経費削減、公的資金による負債削減、料金アップなどの改善手段をリストアップし、公営企業、自治体、利用者が適切に負担を分配するための議論を行う必要がある。仮に料金が不当に低い場合は、料金アップを含めた改革を進める。費用と便益とのバランスを崩したまま、一般財源などで補填するような財務構造では、事業との財務モラルが保てない。デフレでも不況でも、改革のために必要なら利用者に適切なコスト負担を求める姿勢を明らかにするべきだ。
健全な財務構造にした後、コストダウンの重要な手法として、施設や機器の維持管理業務などのアウトソーシングがある。日本の公共団体でもアウトソーシングが行われてきたが、民間事業者の業務の自由度やリスク&リターンのメカニズムがない上、契約期間が単年度であったため、必ずしも効果的な内容ではなかった。

業務の自由度という面で重要なのは、人員の数、練度などに関する規定だ。日本の業務委託の契約では人数や資格などに関する固定的な条件が規定されているが、民間の創意工夫を発揮させるため、業務内容だけを示し、それをどのようなスタッフで実施するかは民間事業者に任せるようにする。こうすると、民間事業者の工夫で固定的な条件で規定する場合に比べてコストは低くなる、日本でも自由度を拡大することで発注額が2、3割下がったという例がある。

委託する業務の範囲も広くする。単なる作業だけでなく、低額部品の取替えや消耗品の充填なども業務範囲に加える。これによって民間の調達能力を活かした効率的な備品などの調達が可能となる上、民間事業者が調達に関わる事務を負担にするため、公共団体の事務負担は大きく低減される。日本でもこうした委託により公共側の事務負担が半減した例がある。

契約期間も見直す。日本では単年度契約によるアウトソーシングが普通だが、海外では5年程度の契約期間が多い。契約を複数年度にする意味は、民間事業者の学習効果を期待できることである。どんな企業でも、5年間の継続的な業務があれば、1年目より2年目、2年目より3年目、といったように毎年業務の効率性を改善していくから、5年間の平均のコストは単年度契約の場合よりも低くなるはずである。業務を発注する側から見ると発注額を低減することができる。また、発注期間を複数年にすれば、発注に関わる事務負担も低くなるから事務コストは下がる。

ところで、アウトソーシングを取り入れる際に重要なのは、現状の公共側の雇用をどうするかである。人員の効率化の方法を避けて本格的な改革を進めることは難しい。海外でもアウトソーシング先の民間事業者による受け入れなど、効率化と雇用の調整のための工夫がなされてきた。そこには、日本の公共団体にも参考になる経験がある。また、日本の民間企業は長い間、大胆な解雇をせず、新規雇用も保ちながら、効率化を行ってきた、という歴史を持つ。公営企業が自らの体質を改革するためには、こうした国内外、民間の経験知を大いに活用する必要がある。

民営化や雇用問題は、ドラスチックな改革案に見えるが、改革は常に数年先の常識を見つめて行うべきだ。今合意できる議論だけで改革を進めても、大きな成果に結びつかないことを我々は既に学んでいる。将来を先取りした改革が必要なことは何も民間企業だけではないのだ。その意味で、公営企業の改革に当たっては、関係者が合意できる将来のビジョンを打ち上げることが必要なのだろう。
いずれにしても、公営企業も。企業の名に値するメリハリのある改革を進めて欲しいものだ。
(※1)連単倍率・・・親会社と関連会社を含めた、企業グループの利益などの比率。
(※2)ディスカウントキャッシュフロー・・・将来の収益を適当な割り引き率で割り引いて現在の価値を評価するもこと。  

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